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The Elasticity~最強の魔導士、最愛の家族と再会する~  作者: 桜 寧音
一章 デルファウスからの狼煙
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4-6-2

本日一話目です。

 ファードルとモードレアが戦ってくれている間に、ジーンもシール・クリアなる天使と殴り合う。翼から羽が飛んできたり、神術を使ってきたりしたが、ジーンは展開された防護壁ごとトンファーでぶち破った。


「ラッ!」


 だが、やはり神術と魔導でぶつかり合うのは効率が悪い。一々エレスティが起きて魔導も神術も威力が落ちる。しかも神術士は治癒術が使えるため、自身の傷はよっぽどの重傷でなければ治せる。

 回復や防御による耐久力が勝つか、それを上回る火力で押し潰せるか。つまるところ逆ベクトルの力を帯びた術のぶつかり合いは、それだけの勝負であり最後は胆力の問題だった。

 ジーンがトンファーから刃を形成して斬り伏せたのだが、翼ごと左腕を持っていこうとした一撃は腕を傷付ける程度で終わってしまった。


「ハアァッ!」


 そこで更に乱入者が現れる。その人間は後ろから天使を斬りつけ、右の翼を落としていた。


「――Aa――!」


 人間の声とは異なる絶叫。それが脳に響きながらもジーンは腹へ一撃を放つ。だが、やはり決定打にはならない。


「おい、ラフィア。お前が攻めろ。俺じゃまともに倒せない」


「いいですけど……。あれ何ですか?あなたが戦ってたから斬りましたけど……」


「アスナーシャがいるとされる天界に住む生き物だ。魔物の一種って考えで大丈夫だ」


「そうですか……」


 中途半端ながらも、ラフィアはそれでいいかと納得し剣を構える。

 ジーンはファードルの方を見てみるが、割り込めないような剣戟を繰り広げていたため介入するのはやめた。

 ジーンは一度自分の胸に手を当てる。鼓動が早い。脈も速くなっている。それどころか、汗も流れ始めている。


 ここが暑いというわけではない。モードレアとの戦闘で疲労したからでもない。天使との戦闘が激しかったからでもない。

 むしろ、この疲労は魔導の消耗だ。ジーンの魔導は世界で見ても相当上位ではあるのだが、今もダーエワを維持したり、ここに来るまでに結界を破壊するのに魔導を使ったりしている。


 それに先日八詠唱もしたばかりだ。八詠唱なんて使えば、並みの魔導士では三日三晩動けない。動くことには別段支障は出なかったのだが、マナの回復は万全ではなかった。

 八詠唱や五詠唱などの強力な術を使わない理由がこれだ。たしかに強力な術ではあるのだが、継戦能力が失われる。どんなに優秀な術士であっても避けられない命題だ。


 同じ威力を与えるだけであれば無詠唱や一詠唱を何十発も撃った方が効率は良い。しかし高威力を出そうとすれば、それだけ代償があるということだ。

 だが、そんな弱気なことも言っていられない。何より魔導士の子どもたちの命に関わるし、エレスを巻き込まないためだった。

 だからこそ、今は目の前に集中する。


「ああ、ラフィア。剣に炎とか纏うなよ?あいつには全部弾かれるからな」


「わかりました。ジーンが魔導で援護してくれるのですか?」


「半々だ。メインアタッカーはお前だ。任せるぞ」


「……はい!」


 ラフィアが駆ける。

 ようやく、ようやくジーンが信頼してくれたような気がした。

 今まで散々ぶっきらぼうで、エレスばかり優先して、一切頼ってこなかったジーンが初めて頼ってくれたのだ。

 そのことに頬が緩む。戦っている最中なのに不謹慎ながら、ここ数日で一番の嬉しい出来事だったかもしれない。


 天使に斬りかかる前に炎が天使を襲う。エレスティが起きながら、たしかに炎も弾いているようだった。だが、それは目晦ましになった。炎が視界を覆えば、死角も増える。

 その死角を縫うように足から滑り込んで浮いている足目掛けて斬り裂く。硬化術も使っていなかったのか、あっさりと斬ることができた。


 そして、魔物とも今まで知る既存の生物とも違うことをラフィアは理解する。

 血が出ないのだ。斬られた足も翼も落ちるだけ。魔物にだって血は流れているのに、目の前の天使はそんなものを一切流さなかった。

 血は不純だからか。それとも必要なかったからか。


 その答えは出ない。ラフィアは生態学に精通しているわけでもなく、神術で召喚できる存在についても詳しくは知らないからだ。

 もう一度斬りつけようとして駆けるが、天使は上昇してしまう。


 翼も片側しかないのに浮かんでいる様子から、翼ではなく神術で飛んでいるようだった。

 急降下から攻めてくるか、それとも神術で襲ってくるのか。そう思いジーンもラフィアも警戒するが、どちらも違った。

 天使はたしかに急降下した。だが、その行き先はファードルの元。


「ムッ⁉」


 突如増えたエレスティと共に、ファードルは二面からの攻撃によって転がった。そこまで遠くには転がらなかったが、相手をスイッチするには充分な一撃だった。


「テンペスタ!」


 ジーンが一詠唱で四本もの烈風を駆け巡らせる。だがそれはモードレアに当たることもなく全て小さな回避行動で掠るだけで終わってしまい、ラフィアの目前まで迫っていた。


「ハァ!」


 ラフィアは向かってくるモードレアに対して兜割りの要領で叩きつけに近い上段からの振り落としを試みたが、逆手に持っていた短剣で軽々しくいなされてしまう。


「あなた、弱いわ」


「ッ⁉」


 順手で持っていた左の剣が、ラフィアの脇腹を襲う。

 強固に作られた騎士団特注の鎧だったためそのまま胴体を裂かれることはなかったが、神術による肉体強化のブースト込みで放たれたその一撃はラフィアを近くの建物にめり込むまで吹っ飛ばすことは造作もなかった。


「ただの人間じゃ、この程度よねぇ。聖師団が近接最強なのも納得だわ。……そんな常識を覆して頂点に居座ってるあの男は異常だけど」


 今も天使と戦っているファードルを横目で見ながらモードレアは呆れていた。天使には遠距離から攻撃し、足止めに徹しろと言ったところよく働いてくれていた。

 ジーンは吹っ飛んだラフィアの様子を確認しようとしたが、そのまま建物の中まで吹っ飛んだラフィアの容体はわからなかった。生きているのかどうかすらわからない。

 またモードレアと切り結ぶためにジーンは身構えるが、モードレアの方は特に構えていない。

 今は戦うのではなく、話がしたいと主張しているようだった。


「さて。わざわざ代わってもらってまで言いたいことがあるのよ。魔導研究員首席さん?いえ、エレスティ(・・・・・)って呼ぶのがいいかしら?あたしたちと手を組まない?」


「どういう理由があるのかも知らないが、魔導士を巻き込むやり方は見過ごせない。特に力のない子どもはな。俺の主義主張に反する」


「神術士ならいいわけ?」


「……訂正だ。協力ならまだしも、強要し、理不尽に搾取・暴走させるのはごめんだ。大方地力が足りないとか二柱の協力を仰げなかったとかだろうが、それで他人を傷つけていい理由にはならねーだろ」


 本来現象であるエレスティと呼ばれたことに、ジーンは是とも非とも言わない。

 もう一つの要件である同盟も断る。このやり方は気に喰わない。どんな方法を用いているのかはわからない。だが、特に関係のなかった一般市民が苦痛に顔を歪める様など見たくなかった。


「世界に犠牲がなくて達成できる偉業なんてあるのかしら?」


「その偉業って何のことだよ?」


「世界の不平等の排除よ」


「……十年前と同じか」


「そうね。焼き増しにならないように下準備してるところ。いつからの悲願だったかなんて知らないわ。それでも、神術士と魔導士(あたしたち)にとってみたら、行き着く終着点(始まり)ではないかしら?」


「否定はしないさ。だがな……。方法が致命的に間違ってるんだよ‼」


 ジーンは魔導を周りに展開させる。先程まであまり気にならなかったエレスティが、モードレアの傍で起きていた。モードレアの方が押し負けているのだ。


「正しいアース・ゼロ……。そのためには二柱の協力が必要不可欠だってわかっただろ⁉どっちも見付からないままで、また(・・)暴走させて!それで世界の理を敵に回したって、上手くいくわけないだろうが!」


「そうね。もちろん第一候補(メイン)は器の発見。今やってるのは器が見付からなかった時の第二計画(サブプラン)。でもあなたは最大の器だわ。あとはもう片方を見つけるだけ。協力してくれればサブの進行を緩めてあげる」


「結局サブも続けるならお断りだ!俺を見つけるのに十年、もう片方見つけるのに同じ時間がかかるとしてもう十年!その間に何人の人間を犠牲にする⁉」


「さてね。十年前(大失態)よりはマシじゃない?」


 彼女たち「パンドラ」は犠牲を諦めている。死人が出るのも苦しむ人間が現れるのも悲しみ人間が産まれるのも、全てを許容している。

 それはアース・ゼロ(大失態)以降苦しむ人間を出さないように事に当たってきたジーンとは平行線を辿るしかない思考だった。


「そもそも、俺は候補にはなりえないぞ?十年前の器はたしかに俺だ。だが、愛想を尽かれていなくなったんだ。あいつらは同じ人間を二度も選ばない。それぐらい知ってるだろ?」


「……プルートが、あなたを見限ったって?」


「ああ。なにせ俺はアース・(・・・・・・・・・)ゼロを引き起こした(・・・・・・・・・)張本人だ(・・・・)。もう同じ目に遭わせないように、アイツは見捨ててくれたよ。俺の目的も果たしてくれたし」


 この事実を、一般市民が知ればどうなるか。アース・ゼロを引き起こした張本人として裁判にかけられるか、有無を言わさずに殺されるか。

 何にせよ、ロクな目には遭わないだろう。


 そこにどんな理由があったとしても、五千万の命を奪った事実は変わらない。その当時幼くとも、どのようなことをしようとしていたとしても、大罪人の汚名は覆らない。

 それでも今はまだ、その事実を伏せる。やることがある。裁きを受けるとしたらそれを完遂してからだ。


「プルートの最後の慈悲だろうな。もし同じことを企てていても、二度目は巻き込まれないように」


「……じゃあ、あなたのその桁外れな魔導は……」


「実のところプルートと契約した副作用だ。あの頃から力だけなら成長していない」


「……それがわかったなら、なおのことサブで進めないといけないわね。器が見付からないなら、それに匹敵した力を再現するまでよ!」



この後十八時にもう一話投稿します。

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