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The Elasticity~最強の魔導士、最愛の家族と再会する~  作者: 桜 寧音
一章 デルファウスからの狼煙
40/74

4-6-1

本日二話目です。



 6



「ま、上出来かしらね。結果もまずまず。一番乗りは誰かしら?」


「うぁぁぁぁ……っ!」


「ヒグッ……!」


 モードレアはその場で大規模な神術による人払いの結界を張っていた。普通の人間では近寄ることもできず、神術士でも実力者しか突破できない。そんな結界を地区いっぱいに広げていた。

 聞こえてくる呻き声はラムネと称された薬を口に含んでしまった少年少女のもの。アスナーシャ教会ということで、あっさりと信用されて服用させたのだ。

 たとえ魔導士とはいえ、表向き人々の手助けをしているアスナーシャ教会のことは信用していた。怪しまれても偽造した所属証を見せたらコロッと信じた。


 子どもたちは皆、モードレアが出している神術と反発してエレスティを起こしていた。増幅される魔導の力と、強大過ぎる神術はデルファウスのように弱い方が動けなくなるほどの痛みが起こっていた。

 引き起こる火花によって身体が灼けていく。モードレアも痒い程度ではあるが影響を受けていた。

 だが、子どもたちが四十人も倒れている現状は、見ていて気持ちのいいものではない。だが、懺悔も後悔も、モードレアはすでに過去へ捨ててきている。

 通信機を取り出して、確認のためにグレンデルへ通信を試みた。


「グレンデル、どうよ?」


『子どもたちの魔導は三倍程度に膨れているな。あとは維持時間を計測したい。もうしばらくそのままでいてくれ』


「了解。誰かこっちに向かってる?」


『巡回中だった騎士が向かっているが、突破できていない。あとは……。強い魔導の力が近寄ってきてる』


「例の首席?」


『おそらくな』


 グレンデルの連絡から、少しだけ警戒を強める。

 プルート・ヴェルバーを宿すための器かもしれない男。それだけ魔導の力が強力であれば、警戒しないわけがない。

 そして次の瞬間。結界に何か大きな力がぶつかった。


「ちょっとちょっと……」


『壊されたみたいだな。そちらに向かっているぞ。どうする?』


「……まずはあたしだけで相手するわ。どれだけの相手か見極める。もしできるなら捕らえるわ。無理矢理にでも人柱になってもらう」


『それもありか。たった一人でも油断するなよ?』


「もちろん」


 そして、その大きな魔導の力を纏った男が近寄ってくる。結界とその男でエレスティを壮大に起こしているのか、火花が鳴る音としてバチバチバチッという騒音が響いてきた。

 結界が形を歪めながら、それでもなおその足は止まることはない。浸食を進め、モードレアの視界にその元凶たる男が入り込む。

 紫色の髪に世間を嫌うような鬱々とした群青色の瞳。そして、両手には鉄製のトンファーを持ちつつ笑みを浮かべる男。その男は笑みを浮かべていたが、モードレアの顔を見て歪める。


「あ?主犯がいるって思ってやってきたら何だよ。どっかで見たことある顔だな?」


「……あなたが、ジーン?魔導研究員首席?」


「残念ながらご推察の通り。ジーン・ケルメス・ゴラッドだ。お前……十年前に会ったことあったか?その鮮やかなワインレッドの髪、見たことあるな。そんな額の傷はなかったはずだが……」


「よく覚えてるのね。あなたのご両親の同僚よ。この傷はアース・ゼロの時にね」


 ああ、とジーンは納得する。

 見覚えがあるはずだ。家族ぐるみで交流があったのだから。


「なんか近くにいる魔導士もあんたの仲間か?」


「あら、バレてるのね。そうよ。さすがに接点がなかったみたいで、彼はあなたを知らなかったようだけど」


「んで?そこの魔導士の子どもはアース・ゼロの燃料にするための生贄か?」


「あんな不完全な物を基準に考えないで。正しいアース・ゼロを起こすための実験よ」


「生贄には変わらないんだろ?」


 そこは否定しない。そしてその生贄を、渡す気は毛頭なかった。

 モードレアも自分の得物であるダガーと細身の剣を取り出す。左利きであるため、細身の剣を左手に持っていた。


「お前たちが何をしようとしてるのかわかんねーけど、その餓鬼どもを苦しめてんなら排除するぞ」


 ジーンはモードレアへ距離を詰めて、トンファーを振り回す。剣とぶつかる度にエレスティが起こるが、そんなものを気にせずに殴打を続ける。

 モードレアは自身に肉体強化の術を施す。無詠唱とはいえ、彼女の実力であればメッカが行う通常の肉体強化と同様の効果を発揮した。


 左側から回り込むように短剣を振るう。だが、その動きは見切られているようにトンファーで受け止められる。これまでにかなりの数の神術士と戦ってきた経験からなるものだった。

 トンファーに炎が宿る。正確にはトンファーの周りに展開しているだけで一体化はしていないのでトンファー自体が灼けることはない。


 防壁術を剣に纏い、モードレアも抵抗する。身体能力では確実に上まっているのに攻めきれていなかった。ふとした瞬間に攻防が逆転してしまうのだ。

 こうまでジーンが抵抗できる理由はアース・ゼロ直後に神術士による迫害を受けていたのを何度も撃退したためと、感知術によるものだった。


 アース・ゼロ直後はアスナーシャ教会も組織系統の混乱があったのか、聖師団による迫害を受けたことがある。それによって死んだ魔導士は当時の二割に及ぶともされている。

 そんな聖師団を全て返り討ちにしてきたことから、一時期ブラックリストにも載っていた。そのせいでラーストン村に着くまでに相当な経験を積んでしまったのだ。


 また、感知術は相手の力が強ければ強いだけ反応する。

 それを利用して、力の流れから動きを予想するという並外れた方法で戦っていた。これも逃亡生活で身につけた戦法だった。


「デルファウスの事件も、お前らがやったのか?」


「ええ、そうよ。『パンドラ』による実験。良いデータをありがとうね」


 お互い距離が離れた時には無詠唱で力の塊を飛ばしていた。神術士だって術によって攻撃する手段はある。術と言えるほどでもないが、力として放つことができる。

 黒と白の塊はぶつかり合って消えた。本来攻撃術でもないのにジーンのものと相殺したということは、ジーンに匹敵するということだ。


 神術と魔導では簡単に比較できないが、モードレアの神術の力の量も使い方ではルフドよりも上だとジーンは感じる。だからこそ感知術が活きているのだが。

 力のぶつかり合いは止まらない。

 ジーンは一刻も早くモードレアを倒して神術を解除させ、エレスティを解除しなければならない。


 一方モードレアは実験の最中だ。今後のためにも途中でやめるわけにはいかない。グレンデルから連絡が来るまで、持ちこたえなければならなかった。

 実力は互角というところだろう。

 身体能力は確実にモードレアの方が高い。だが、ジーンの魔導の力はモードレアの神術よりも確実に高かった。


 異なる分野でどうにか互角に持ち込んでいるというところだろう。つまり、何か外部から横槍が入ればこの状況は流転する。

 モードレアは隙を見て左耳につけている通信機に手を当てて応答を試みた。


「援護できない?」


『悪い。騎士団長が来た。騎士と聖師団の数も多いからこちらを撃破する。実験は順調だ。あと十分ほど耐えろ』


「うげぇ。かなりキツイんですけど、それ」


 グレンデルからの通信を聞いて、モードレアは一度距離を取る。二人で戦うにしては状況が悪い。


「芽吹け芽吹け芽吹け。天よりいでし白き翼を持つ彼方、白銀の髪をたなびかせ、ここに現れよ。――シール・クリア」


 三詠唱。とはいえ、かなり省略されたものだ。本来もっと長く五詠唱のものを、これだけ短く三詠唱に纏めてしまった。

 その分マナはかなり持っていかれる。だが、破格の力だろう。成功させられるのも、それこそ導師クラスだ。


 その場に現れたのは白銀の髪を地面スレスレまで伸ばした白い羽を生やした天使。召喚術によってこの場に呼び寄せていた。

 その間にジーンも足で魔法陣を描いていた。こちらも召喚術。だが、呼び寄せるのはアパオシャではない。


「顕現せよ、亡者を統べる監獄長。――ダエーワ」


 絵本などに出てくる悪魔。そう言っても過言ではない誰もが知るイメージの総体。

プルート・ヴェルバーの姿はそれであろうと思われているほどに黒く、醜く、汚い羽の生えた存在。

 獰猛であることがわかる牙と爪。獲物を探して八つ裂きにしようとしている充血した瞳。身体の周りから出ている紫色の有害物質、瘴気。


 モードレアが召喚した存在とは真逆の印象を持つその存在は、近寄りがたいものだろう。だが、ジーンは信頼していた。

 たとえどんな見た目であろうが、必要な力であれば借りる。

 見た目が全てではないのだから。

 そして、そんなダエーワを見たモードレアはすぐにその存在の正体と呼んだ理由を看破し、唇を強く噛んでいた。


「やってくれた……!まさか瘴気を放つ存在を呼ぶなんて!」


「第一目標は餓鬼どもの安全だからな。全てを溶かす瘴気なら、神術だって溶かしてくれるだろ?」


 ダエーワの周りには瘴気による膜ができている。それは神術とも魔導とも違うからこそ、エレスティからその身体を守っていた。

 これで実験とやらは中断できた。


「クリア!あの男を倒すわ!二対一なら……!」


「どうやらそれも違うらしいぞ?」


「ッ⁉」


 迫りくる二本の黒い剣を紙一重で防ぐ。エレスティが起きていたが、それ以上に剣技によってモードレアは追い込まれていた。

 振り下ろされた剣はとてつもなく重く、モードレアの膝は受け止めている時間が延びるほど膝が沈んでいき、体勢も悪くなっていった。


 モードレアにかかる圧力は神術士と相対しているのかと錯覚するほど、人間の素の力とは思えないほどの馬鹿力。

 そんなものを行使してくる魔導士に心当たりは一人しかいなかった。


「騎士団長、ファードル……!」


「やあ、ここのところの事件の首謀者さん。我らが庭で暴れていて、番犬たる我々が逃がすと思ったのかね?」


「ハッ!狗はお行儀よくご主人様だけに尻尾振り続けて牙抜かれたと思ってたのに!剣技はさすがに敵いそうにないわね……!」


「仮にも秩序の番人、その頂に座らせてもらっているからな。魔導士たる私は、いつだって何かに備えている!」


 両手に剣を持ち、それを振るう。神術士ではないから肉体強化は施していない。だというのに二本の長剣を難なく振り抜き、あまつさえその戦闘でモードレアを圧倒していた。


「クッ!アンタ本当に人間⁉」


「いや、バケモノさ。こんな禍々しい力を身に宿した私は、どうあっても人間にはなれない。なにせ、守りたい人の手を傷付けてしまうのだからな」


 剣が触れる前にエレスティが発生する。だが、そんな火花は関係ないかのように力で押し潰す。脳筋と呼ばれても仕方がない戦法だが、慣れていない人間にはよほど効く。

 何よりも恐怖なのは、本来エレスティが起きてまともにぶつかれないはずなのに、それをものともせず接近戦を許してしまう魔導の実力。


 総じて人類最強の戦士と名高いファードル。

 魔導士や人間相手はもちろん、神術士の戦士とも打ち負けない実力から人類で敵う者はいないとまで揶揄されている。


 実はモードレア、自信の剣に硬化術をかけて剣の切れ味と耐久性を上げているのだが、それも度外視してファードルは剣で斬り合っていた。

 ファードルが持つ剣が特注の業ありなのは事実だが、それでもやはりモードレアとやりあえているのは紛れもなく彼の常識を逸した実力からである。


明日も九時に一話、十八時にもう一話投稿します。

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