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本日三話目です。
「二人だけで納得しないでください!護衛に納得してくれたのはありがたいですが、せめて普通の人としての接し方とか……」
「普通の接し方って?」
「村の皆と接してる風でいいんじゃないかしら?」
「それは無理だ。村の皆とこいつは違う」
「あー、確かに」
それは特別な接し方だったとシーラスは思ったが口にしなかった。この村はジーンにとって「特別」なのだ。
「じゃあ、首都のお知り合いは?」
「なるほど?研究会の奴らと接するようにすればいいのか。つまり会話は右から左だな?」
「それ、さっきと変わってないですよ!」
「首都の知り合いなんて、基本会話成立しねーし、会話そのものをしねーけど?」
それが首都での普通の接し方。
極端なのだ。特別大事にするか、深く関わらない。その二極しかジーンの中には存在しなかった。
「な、何故?」
「価値がないから?」
「情報交換とか、研究員から得られるものもあるでしょう?」
「いや全く?だってあいつらが話す内容って大体知ってるし」
例えばこういう法則を見つけたとか、こういう魔導の術を発見したとか、こういう魔物がどこ地方にいたとか、そういうのをほぼジーンは知っている。
また、彼らが話す内容は、ジーンの研究内容とほぼ関係ない。魔導についてはほぼ全て理解している。むしろ知りたいことは神術だ。
魔導と対をなす神術。対をなすからこそ、研究するべきなのだ。
「ということで、お前はいないものとして扱おう。シーラスさん、今日もご飯美味しかったよ」
「それは良かった。じゃあこれ、明日の朝ご飯ね」
渡された袋に入っていたのは、銀ホイルに包まれたおにぎり。この村の郷土料理だ。炊いたお米を丸か三角の形に結んで、中に魚だったりお肉だったり、野菜の漬物を入れたりする。
「ありがとう。いつも助かる」
「お昼にはもう出発してるわよね?お昼ご飯は要らない?」
「そうですね。一応正式な依頼なので迅速に動かないと……。今はまだ魔導研究会から抜けるわけにはいかないので」
「そう。今日はもう休むの?」
「もう少し読書します。いくら時間があっても足りませんよ」
そう言ってジーンはシーラスの家から出ていく。これだけお世話になっても、シーラスの家でお風呂に入るわけでもなく、一緒に寝るわけでもない。
ましてやおやすみの挨拶もしない。それでも彼女はジーンにとって特別なのだ。
「騎士様は今日どちらに泊まられるのですか?」
「先輩方と同じ集会所を借りる予定でした。あと、騎士様はやめてください。私はまだ騎士になって日が浅いので。ラフィアとお呼びください。それにあなたの方が年上ですよね……?」
「そうですね。ではラフィアさんと。ちなみに私は二十五歳ですよ」
「私は二十二です。騎士になって二年目です」
ラフィアの予想は当たっていた。騎士の自分よりも落ち着いた様子を見てそう判断したのだが、それにしても目の前のシーラスは大人っぽい。
「今日はこちらに泊まっていかれては?いくら騎士とはいえ、男の方しかいない所で寝られるのはどうかと……」
「特に気にしたことはないのですが」
「ダメです。いくら騎士とは言えども、あなたは女性なんです。そういう部分を捨てるべきではありません」
もうシーラスの中では決定事項であった。それを覆せないと悟ったのか、ラフィアは諦めて小さく首肯した。
「わかりました。今夜はここでお世話になります。……シーラスさんは、そういった部分を捨てていないので?」
「それはもちろん。女性だからジーン君にあれだけできるのだと思いますよ?男友達、というのもいいでしょうけど」
「彼のこと、好きなんですか?」
単純な問い。
ここまで他人である異性に世話をやけるというのは、そういった感情があるからではないかと邪推した。そうでもないと納得できないのだ。
その問いに気を悪くした様子も見られず、シーラスは目を伏せながら頷いた。
「ええ。好きですよ。まあ、どちらかというと弟として、でしょうけど」
「弟としてなんですか?」
「そうじゃない想いもあるのかもしれないけど、私では彼の隣に立てないから。一緒に並ぶこともできない。手を取ってあげることもできない」
「手を……?あっ」
じっと自分の手を見ていたシーラスの表情を見て納得していた。シーラスは神術士で、ジーンは魔導士だ。
この二つがどうあっても相いれないのはとある現象が原因である。
エレスティ。
魔導と神術の間で起こるエネルギー現象。これは双方を傷付ける、魔導よりも危険な力だ。少しでも二つの力が干渉すればすぐに発生する。
魔導と神術そのものの激突でももちろん起こすが、魔導士と神術士が手を触れるだけでも発生する。これは身体そのものに魔導も神術も流れており、身体の周りに薄い膜を張っているかのように力が巡っているのだ。
お互いを傷付けてしまうなら、そもそも近寄らなければいい。これが魔導士と神術士の暗黙の了解なのだ。
全部理解した後、不躾な質問をしてしまったことを反省して、ラフィアは頭を下げていた。
「すみません……」
「いえいえ。ああは言いましたけど、ジーンは結構無茶しますので、目を離さないでくださいね?」
「はい、わかりました」
その後二人は一度先輩騎士たちの様子を見に行った後、風呂に入りそのまま就寝した。
明日は九時に一話、十八時にもう一話投稿します。