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The Elasticity~最強の魔導士、最愛の家族と再会する~  作者: 桜 寧音
一章 デルファウスからの狼煙
37/74

4-4-1

本日一話目です。


 4



 騎士団本部についたエレスとラフィアは騎士団員用の受付に来ていた。依頼の完了を知らせるためだった。

 その前に首都名物であるセフィロトツリーを見に行ったのだが、エレスの感想は「すっごく大きい……。こんな大きな樹見たことない」だけだった。


「承りました。ラフィアさん、お疲れ様です。経費などの領収書ありますか?」


「ああ、はい。これで全部です」


 事前に扱っていた物を出す。そして被害補填書というのも出していた。それを受け取ることに慣れているのか、受付の人間は特に顔も変えず受け取る。


「金銭関係の書類は以上ですかね?」


「はい。……あの、私が受けた依頼なんですが……」


「どうかしました?」


「騎士団が魔導研究会に協力要請をしたというのは事実なのでしょうか?少々先方でゴタゴタがありまして……」


「はぁ。では調べてみますね」


「お願いします。あと、このことは内密に」


「ええ」


 にこやかな笑顔のまま、受付の人は奥へ下がっていく。結果が出るとは思っていない。それでも一人でできることにも限界がある。

 受付の人はラフィアと同期で訓練学校に入り、卒業できすに裏方へと回った男だった。だからか、他の人よりは多大に信用していた。


(バレないとは思いたいけど……。不手際があったら問題だし)


「エレス。ジーンが来るまでこの中案内しましょうか?」


「特に興味ないです。ラフィアさんぐらいの下っ端だと、騎士団長さんに挨拶できないですよね?」


「ウッ……。真実だからこそ言い返せない」


 エレスはそのことしか騎士団本部で目的はなかった。施設案内などされても、すぐに飽きてしまうだろう。


「でも、この中に入れるのは珍しいですよ?一般の人はこんな奥まで入れませんから」


「そうなの?」


「ええ。騎士団関係者しかここまで入って来られないの。一般の人とは窓口が別なのよ」


「……回ってればお兄ちゃんが来るまで時間潰しできる?」


「もちろん。広いですから」


 ジーンがいつ来られるかわからないために、時間を潰さなくてはならない。エレスもやることがないのだろう。

 その上でラフィアができることは案内くらいだった。それ以上できることはお金を払わなければできそうにない。

 それにいつかはジーンも来る。そこまで街中をうろちょろする理由もないだろう。


 他の受付の人に魔導研究員首席が来たら教えてもらえるようにお願いしておき、二人で内部を回る。

 訓練場や武器鋳造所、娯楽施設や会議室など見ていった。どれも騎士が使う場所なので、一般人であるエレスには見ていてあまり楽しいものではなかった。

 騎士の訓練や武器が出来上がっていく所など、珍しくはあった。だが、感慨はない。そういうことをしている人もいるのだと知ったぐらい。


 ラフィアの解説も話し半分だった。騎士になるつもりもないエレスには、覚える必要もない内容だと判断されてしまったためだった。

 騎士団本部に隣接する寮まで来てしまっていた。中に入れるわけでもなく、ただラフィアは、ここの四階に部屋があると説明して終わってしまった。


「そういえば騎士って女の人どれくらいいるんです?ここに来るまでもあまり見ませんでしたが……」


「割合としたら一割ってところですね。いくら市民からの依頼が主とはいえ、街の外に出て魔物と戦うんですから。志望する女子は少ないですよ」


「アスナーシャ教会は女の人多かったですけど……」


「そこは本当に神術の有無ですよ。怪我も治せて、肉体に強化も施せる。そうなると魔物はそこまで怖くないのだとか。私も聞いた話なのでよくわかりませんけど」


 それで納得できなかったのか、エレスはまだ思案顔をしている。大きな差としてアスナーシャ教会は集められて適性を見てから配属が決まるらしい。神術士をとにかく集めるため、母数も異なるのだろうが。


「とりあえず戻りましょうか。そろそろジーンが来た頃かもしれません」


「結構時間経ったもんね」


 移動する前に上空を見上げるエレス。何かあったのかもしれないが、口に出すことはなかった。そのため、ラフィアも気にせず歩みを進める。

 フロントへ戻っていく二人。そこには人だかりができていた。誰か有名人でも来たのだろうかと思っていると、その人だかりから一人の男性が出てきた。


 その人は白銀に黒のラインが入った鎧を着て、鮮やかな金髪を短く切りそろえた、栗色の瞳をした長身の男性だった。

 その人が集団から出てくる際、周りの騎士は全員敬礼をしていた。それに軽く手を振って応えると、その男性はラフィアと視線を合わせて近寄ってきた。


「コウラス嬢。今回の任務、ご苦労だった」


「ファードル団長閣下!ありがとうございます!」


 ラフィアも敬礼をする。騎士団長。この組織で一番偉い人物だった。

 特注の鎧を着て、腰には黒い剣を二本差している騎士団の良識。左手には皮のグローブをつけている、筋骨隆々とまではいかないが、しっかりと鍛えられたバランスの取れている肉体をした、三十代に差し掛かったばかりの男性。


「無事に解決できたようで良かったよ。原因解明はアスナーシャ教会に任せているらしいね。だが、未曾有の事件が解決できて民衆も安心するだろう。それに、気難しいジーンの護衛も(つつが)なくこなしてくれて助かった」


「いえ。私の方が助けれられてばかりでした……」


「そうなのかい?彼が誰かに手を貸すなんて珍しいね。……ところでコウラス嬢。こちらのお嬢さんは?」


「あ、はい。紹介いたします。エレス」


 ファードルが下手で示した少女、エレスは一歩前に出て深々と頭を下げた。


「はじめまして。ジーン・ケルメス・ゴラッドの妹、エレス・ゴラッドです。いつもお兄ちゃんがお世話になっています。申し訳ありませんが、お兄ちゃんはもう少し時間がかかります」


「はじめまして。これはご丁寧にどうも。そうか、ジーンはもう少しかかるのか……。おっと、失敬。私は騎士団長のファードル・K・フォーシナーだ。ジーンの妹さんか。初めて知ったな」


「お兄ちゃんに蝶よ花よと育てられましたので」


 ラフィアはそんな単語を教えていたジーンに呆れる。ラフィアは一切教えていない。この数日の内に吹き込んでおいたのだろう。


「なるほど。それだけ大事にされているのか。……君は神術士だね?なら握手はできないか」


「すみません」


「君が謝ることじゃないだろう?世界のシステムの問題だ。……どちらかが外法を使えたら良かったんだけど」


「外法?」


 エレスもラフィアも首を傾げる。そんな単語、聞いたことがなかったのだ。


「魔導士なのに、神術士なのにエレスティを起こさない方法、らしい。昔は一定数いたそうだ。ジーンに教わったんだけどね」


「それは、世界のシステムから外れているから外法なのですか?」


「ああ。昔はそれを会得した者を解脱者と呼んだらしい。今はいるか不明だけどね」


 ラフィアはエレスの方をチラッと見る。その外法をエレスは使えるのだ。それをジーンが隠そうとするのだから、話さない方が良いだろう。


「おっと。大事なことを話すのを忘れるところだった。コウラス嬢。その内辞令が出るため、目を通しておくように」


「じ、辞令、ですか?本部勤めではなくなるということでしょうか……?」


 それは勘弁願いたいことだった。かつての家もお世話になっている家も首都にある。

 しかも今は誰もが憧れる本部勤め。そこから外れるということが示すものはつまり、左遷である。

 上司を負傷させ任務続行不可能にし、ラフィアはそのまま任務続行。任務は無事遂行できたが、上司が負傷したのを止められなかったのは事実だ。


「いや?本部勤めだが?」


「え……?あっ……!まさか、事務方に転属……?」


 そちらの方が有り得る話だった。任務は成功しても、魔物狩りなどで成果を出していない。魔物一匹にも苦戦するのだから、戦力外通告かもしれない。

 本部勤めは、温情だと思った。


「何でそんな風に思うかな?正式な物は書類に目を通してほしいんだが、数日後から私直属になってもらう。近衛隊という奴だ。期待している」


「……えッ⁉近衛隊ですか⁉」


「ああ、そうだ。勤務内容などは辞令の方で確認してくれ」


 その話を聞いて周りの騎士たちはざわめき始める。

 近衛隊とはその名の通り、騎士団長の側近中の側近だった。

 騎士団の命令系統から外れていて、独自行動が可能。任命権があるのは人事部ではなく団長と、近衛隊隊長。


 この近衛隊隊長は副団長が兼任しているのだが、この副団長、団員の中で会ったことがある人間は極端に少ない。会ったことがある人間も、ネコの仮面と猫耳がついたフードを被っていて顔を見たことがないのだとか。

 そんな近衛隊は人数も少なく、ただ実力があればなれるものでもない。


 それにラフィアの若さも驚きの原因だ。

 まだ二十二歳。騎士団二年目。

 そんな人間が入れるような部隊じゃない。

 以前からラフィアは騎士団長から贔屓にされているという噂があった。それは本当だったと周りは得心していたが、当のラフィアは身に覚えがなさ過ぎて困惑していた。


「数日は今回の任務の療養に当ててくれ。その後から働いてもらうことになる」


「は、はぁ……」


「ラフィアさん。後で事情を説明してください。全く理解できないです」


「ごめんなさい。私もまだ全部理解していない……」


 何で当の本人が理解していないのかエレスは首を傾げる。そこへファードルは助け船を出す。


「エレス君。簡単に言えば彼女は昇進したのさ。お給料も弾む」


「そうなんです?良かったじゃないですか」


「あ、うん……。良いこと、なんだろうけど……」


 釈然としない。それが本音である。

 ただ本人を前にして言うつもりはなかった。なにせ団長様はニコニコと笑っているのだから。

 そこへ、警報が大音量で鳴り響く。

 こんなことはほとんどない。

 けたましい音が鳴るのは一年に一度あるかないか。巨大な魔物が壁の近くに現れた時か、魔物の集団が現れたか。または街中で何かしらの大きな事件が起きたかのどれかだ。



この後十八時にもう一話投稿します。

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