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The Elasticity~最強の魔導士、最愛の家族と再会する~  作者: 桜 寧音
一章 デルファウスからの狼煙
35/74

4-3-1

本日一話目です。


 3



「んで?どういうことよ?デルファウスの実験成功してたのに、アレ奪われたって?間抜け過ぎない?」


『魔導研究員首席と騎士団長の妨害だ。そこにかのお粗末導師もいた。やられても仕方があるまい』


「ちょ、何で三大勢力のトップ全部が揃っちゃってんのよ?大規模な実験だったけどさぁ」


 ある女性が街の外を一人で歩いていた。馬車に乗っているわけでもなく、たった一人でだ。

 その女性は真紅に輝く肩にかかるくらいの髪を綺麗に切りそろえ、同じように真紅の瞳を怪訝に濁らせながら通信機の相手と話す。

 最も気にかかるのはその顔に伸びる切り傷のようなモノ。左目の目元から右頬まで伸びている痛々しい傷跡だった。それを隠そうとはしていなかった。


『騎士団は街からの依頼。その内容から騎士団が魔導研究会へ依頼を発行。教会の連中は独自に人員を回して、それでも解決しなかったから導師が単独行動だそうだ』


「はぁん?全く、ヘボ導師様は無能のままでいてくれないかしらねえ?下手に動かれるのは面倒なんですけど。もし殺しちゃったら、また世界のバランス崩れるじゃない」


『殺すなよ。利用価値はある。それとデータ取りは十分だ。実物は教会に持っていかれたがな』


「それが一番の問題じゃない」


 通信機から聞こえる男の声にため息をつく。ほとほと面倒そうに、その後何をすべきかわかっているために。


「取り返すの?」


『いや、別に構わないそうだ。お前がやる意味はない。だが、一つ首都で事を起こせという指令(オーダー)だ』


「え?首都には向かってるけど、何?他の実験?」


『そうだ。魔導士側のな。そちらの完成が遅れている。適当に路地で見かけた子どもに投与しろ。数がいる』


 神術士の実験は一段落着いた、ということだろう。だから遅れている魔導士用のブツを完成にこじつけると。

 女性はもう首都の目と鼻の先にまで来ていた。事件を起こすだけなら簡単だ。


「オッケー。やったるわ。魔導士用の薬はどこにあるのよ?」


『東地区セイロン通りにある居酒屋、コルモックのマスターに預けてある。お前の特徴も伝えてあるし、マスターは俺たちの味方だ』


「数は?」


『四十用意してある。できるだけ使ってくれ。それと、ありったけ目立ってほしいということも聞いている。実行するのは日中だ』


「あ、お、うん?あたしの耳が腐ってるのか?今何て言った?」


『実行するのは日中だ。目立て。俺たちの存在がバレてもいい』


 聞き間違いではなかったらしい。何か隠れて物事を実行するなら夜に紛れた方が良い。暗闇というのは一つの穏便性のステータスだ。視界を遮るなら、暗闇ほど適した状況はない。

 だというのに日中にやれ、ということは。


「あたしは捨て駒ってこと?」


『そんなはずがあるか。危なくなったら俺も介入する。堂々と宣言しろと言うことだ。土に潜るのは終わりだ。これからは文字通り、世界を変える。関係ない人間などいない。全て巻き込んで、全てを変える』


「オーライッ!アース・ゼロから十年、ようやく第二プランに移るってワケね?」


『ああ。もしもの際はあの男も現場に来てくれるだろう。俺たちなら失敗しない。アース・ゼロの影響を一番濃く受けた俺たちならな』


 その言葉に悲観的にハッと喉を鳴らす女性。彼女らがルフドをお粗末導師と呼ぶ理由もそこにある。

 表立って、ルフドの神術は群を抜いている。それは事実だ。だが、彼女たちからすれば五本指にようやく入れる程度。そんな子どもを最高の神術士と崇めている時点でお笑い種なのだ。


「あのガキ導師出てきても瞬殺してあげるわ。騎士団もまともな魔導士はいない。接近戦なんて近寄らせなければいいんだし。問題は魔導研究会が出張ってくることかしら?」


『だから殺そうとするな。利用価値がある。……魔導研究員首席はレベルが違う。おそらく俺よりも上だ』


「え?マジ?まさか本物だっていうわけ?」


『あいつの顔、どこかで見たことがあるとは思うんだが……。いかんせん俺は当時たまたま生き残ったただの護衛だからな。全員を覚えているわけじゃない』


「ま、そうよね。ジーンだっけ?顔写真も公開してないんでしょ?」


 通例として三大組織のトップは就任した際に顔写真を公表することになっていた。だが、時勢が時勢なため、彼は特例で公表していない。


『ああ、そうだ。あいつからも特に連絡がない。気を付けておけよ。……あと、もう一人。ジーンの連れの神術士。その少女にも気を付けろ』


「そんな子いるの?どうして?」


『十歳ちょっとの少女だが……。被験者の最終防衛壁を取り除いたのはその少女だ。神術のことは上手くわからないが、もしかしたらお前よりも上かもしれん』


「はぁ?そんなガキンチョにあたしが負けるって?」


『少なくとも、ヘボ導師殿よりは優秀だろう。同じ力同士なら強い方が勝つ。被験者に勝ったことから、実力は十分だ』


「あの被験者の壁に勝ったのか……。ありがと。警戒しとくわ」


 頭の片隅に入れておく。邪魔をされるなら戦うが、今回の目的はあくまで実験である。戦うことや、首都を落とすことが目的ではない。


「デルファウスの状況、詳しく教えてくれる?」


『魔導研究員首席がアスナーシャ教会と手を組んで三種結界を破壊しようとした。一層目は首席が簡単に破壊したが……。まあ、バケモノだ。スパイラル・フレアを一詠唱で放って、その上リピート・リピートも使っていた』


「……最重要警戒対象にするわ。その後は?」


『足で魔法陣を描き、召喚術を用いていた。おそらく冥界の使者だ。プルート・ヴェルバーに最も近い男というのも満更ではないらしい。その使者を使って二層目を破壊しようとしたが神術士に妨害されてな。いい目晦ましになった』


「あんたが操ったんじゃないわよね?」


 純粋な疑問をぶつけると、クックと笑われてしまった。そこまで可笑しな質問をした覚えはなかったはずなのだが。

 そして聞こえてくるのは、先程までの野暮ったい声ではなくとても綺麗な、透き通る声。


『人心掌握術なんて身に着けていませんよ。そもそも、最も頼れるのは自分です。そのおバカさんにも接触していませんし、本当に偶然です』


「素、出てるわよ?」


『ああ、失敬。……ンンッ。その後は八詠唱の魔導を用いて二層目を壊して、力尽きていた。マナが限界に達したんだろう。邪魔が入らなければ一人で三種結界全て破壊していたな』


 喉の調子を戻したのか、また野暮ったい声に戻っていた。彼はいつもそうだ。業務の時はこんな風に野暮ったい声と語尾を使う。

 時たま素になると綺麗な丁寧口調になり、オフの時にはケーキバイキングにも行くような彼。それが目的のために、強固な仮面をつけているのだ。


「八詠唱ねえ……。そんなの使えるのは本物のバカか天才だと思ってたけど、彼は天才の方ね?」


『もちろんだ。魔導に関しては全て高水準。研究会で発表した論文なども漁ったがどれも見事と唸らされたよ。それに今は神術についても研究しているらしい』


「あら、将来有望じゃない。こっちに引き込めないかしら?」


『できたら楽になるんだろうが……。厳しいな』


「期待はしないわよ。彼もアース・ゼロについて調べてるのかしらね?」


『推測に過ぎないがな』


 女性はそう簡単にはいかないかーと、少し残念に思った程度で、感慨もなく思考を切り離す。歩いている内に首都の検問の近くまで来ていたのだ。


「首都に入るから一旦切るわ。こっちからかけ直す」


『わかった。目標になりそうな子どもでも探しておく』


「よろしく」


 女性は通信機をしまう。そして検問へ入っていき、そこにいた騎士へ身分証を出した。


「モードレア・フランソワさんですね。首都へ立ち寄った理由は商売ですか?」


「ええ。故郷のケリアの花を売りに来たわ。後は何か買い付けるでしょうけど」


「お一人で旅商人とは珍しいですね?」


「でも平気なんだもの。アース・ゼロのせいで無駄に神術上がっちゃって。そういう意味じゃ生活には困らなくていいけど」


「ああ……。すみません。言葉が見付かりません」


「いいわよ。言われ慣れてるもの。騎士さん達もお疲れ様」


「ありがとうございます。首都に滞在するうちはゆっくりお休みください」


「ええ、そうするわ」


 女性――モードレアは軽く手を振って検問を抜ける。杜撰だと呆れていた。こうも簡単に偽造の身分証明書で通れてしまうのだから。いや、それを用意できてしまう人間が優秀なだけかと考えを改める。

 通信をかけ直そうとも思ったが、それよりも先にブツの回収をすることにする。

 東地区セイロン通りにある居酒屋、コルモックに向かう。首都にはかなりの頻度で来ているので迷うことはなかった。今回の居酒屋に来るのは初めてだったが。



この後十八時にもう一話投稿します。

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