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本日二話目です。
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「うわぁ、大きい!」
首都の外壁を見たエレスの一言。首都はこの国の中心だけあって一番大きな街だ。匹敵する街がないほど圧倒的である。
その大きさ、エレスが住んでいたデビッド村の約千倍。まさしく規模が違いすぎる。魔物から守る外壁も、大きさから長さまで差がありすぎた。縦の長さは建物六階分に当たる高さ、横の長さは遠くから見ないと端まで見えないほどだ。
「首都セフィロト。街の中央にある樹が特徴的で、ほとんどの機械はここで作られるし、世界最大級のリンゴ果樹園もある。国的にも重要な施設はたくさんあって、ここが墜ちたら国の運営が成り立たなくなるぐらいには重要な街だ」
「そんなに大事な物を一か所に集めちゃっていいの?」
「いい質問だ。一応果樹園や工場は他の街にも分散している。けど運ばれている途中で魔物に襲われて全てを台無しにするよりは一か所に集めて、一つの砦として扱ってここだけでも生存できるようにしてあるんだ。ここさえ無事なら、いくらでもやり直せるようにな」
いわば人類の砦だった。世界に降り注ぐ大災害が起こっても、ここさえ無事であれば人類はまた歩めるようにと。
突如として魔物たちが一斉蜂起しないとも限らない。アース・ゼロのように何かしら起こるかもしれない。それを防ぐための、堅牢な要塞。
事実アース・ゼロの復興に首都からの支援が必要だった街や村が多く、首都がなかったら立て直せなかった場所も多い。そういう意味では国は迅速に行動を起こせていただろう。
「これでもまだマシになった方なんだぞ?ほぼほぼ自給率一○○%なのは変わらないが、輸出とか他の街にするようになったからな」
「その道中の護衛などを騎士団が行っているわけですね」
「なんだか騎士団って便利屋さんみたいですね」
「それは……否定できませんね」
何でも屋さん、ではないが色々なことに手を出しているのも事実だった。民衆のための、公安機関なのだから仕方がない部分もあるのではないか。
アース・ゼロの後も復興に力を注いできたのは騎士団だ。騎士団がいなければ復興が五年は遅れたと言われるほど。その復興が終わった今、平時ではアスナーシャ教会の方が大事だというわけだが。
三大組織で一番要らないと言われているのは悩むことなく魔導研究会。むしろさっさと解散しろという声さえある。
やっていることが魔導と魔物の研究、あとは魔導士の保護ぐらいで庶民の生活に関わることはマナタイト作成くらいしかない。
そのマナタイト作成が今の電気社会でかなりウェイトを占めているのだが。
「ラフィア。門をくぐったら騎士団本部に顔を出せばいいのか?」
「そうですね。色々な雑費申請と簡単な報告をして騎士団としての依頼は終了になります。すみませんが、魔導研究会への連絡は後に回してもらえると幸いです」
「それは別にいい。……まあ、馬車を預けに最初は研究会に顔出すけどな。エレス、俺は研究会で色々やることがあるから、先にラフィアと騎士団本部に向かってくれ」
「え?一緒に待ってるよ?」
「俺の代わりに騎士団のお偉いさんに挨拶しておいてくれ。これは家族のエレスにしかできないことだ」
ジーンがそう言うと、エレスは晴れ晴れとした顔で小さい胸をできるだけ張っていた。
「お、お兄ちゃんがそう言うなら仕方がないですね!わたしにしかできないなら一生懸命やらせていただきます!」
「おう、任せた。挨拶して、もう少しで来ますって言ってくれればいいから。もし騎士団長が来たらこの前みたいにいつもお世話になってますって言うんだぞ?」
「わかりました!」
初めてのお使いを頼まれたように、エレスは目を輝かせる。
実際やってもらっているのはお使いで相違ないのだが。
「ラフィア。おそらく時間があるから色々巡らせてやれ。お金いるか?」
「いえ、それは別に。何をなさるおつもりで?」
「この紙を送らなかったバカを探し出すだけだ」
ジーンがポケットから出したのは魔導研究会の署名が入った、ラフィアが持ってきた依頼書。それを電報として送らなかったのは誰かのミスだと考えているためだった。
「ああ、なるほど」
「ウチがそんなミスをするとは思えないが……。一応な。もしかしたらウチにも騎士団にも今回の事件のモグラがいるかもしれない。どう考えたって作為的だろう?」
「ですね。私も警戒しておきます。……もしかしたら、アスナーシャ教会にも……」
「可能性はある。導師はないな。あれは天然のアホだ。というかただのガキ?何か企めるようなほど、世の中に精通していない」
「導師殿には伝えなくてよろしいので?」
「どうせ誤魔化せずにポロッとバレるぞ?泳がせとけ。そっちの方が釣りやすい」
「わかりました。私もそれとなく探りを入れておきます」
首都でやることを確認しながら、門へ入っていく。身分証を見せて中へ入っていき、エレスの分も作って帰らないといけないことを思い出した。今は魔導研究員首席の同行者で済ませた。
騎士団とアスナーシャ教会の馬車も中に入り、馬車の中に危険物がないか確認をされていた。こういう外部からの侵入者が街を滅ぼす物を持ち込んでいないかの確認が首都は一段と厳しい。
それを済ませたところでエレスとラフィアが降りる。
「本部までは騎士団に乗せていってもらえ。研究会の本部は中央から離れてるからな」
「わかりました。待ってますね?」
「おう。早く行くよ」
二人は騎士団の馬車に乗り込む。それを見てから出発しようとして方向転換をしているところである女の子と目が合った。
年齢はジーンより若干低いくらいだ。銀がよく透き通る長い髪に、草原を模すような翡翠の瞳。その少女の目がジーンを見たことで大きく見開かれていた。
「――兄さん!」
明日も九時に一話、十八時にもう一話投稿します。




