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The Elasticity~最強の魔導士、最愛の家族と再会する~  作者: 桜 寧音
一章 デルファウスからの狼煙
31/74

4 彼女は、見覚えのある髪の綺麗な女性だった

本日一話目です。


4 彼女は、見覚えのある髪の綺麗な女性だった



 1



 結局首都に向かったのは、大キャラバンかと見紛おうばかりの団体だった。騎士団とアスナーシャ教会、そしてジーンたちという編成の上、ジーンとルフドという三大組織のトップ二人がいるということで当初の護衛より人数が増えてしまったのだ。

 総勢八十人を超える大行軍。その実ただの帰省だというのだから、おかしな話だ。


 ジーンの馬車には結局ジーンとエレス、ラフィアしか乗っていない。その周りに三台騎士団の馬車が囲っていたが。

 そういう意味では、普段と変わらず過ごせていただろう。少し周りに合わせて行動するだけ。団体行動であってもジーンとラフィアはエレスに一般知識を教えていた。


 アスナーシャ教会がいるところで神術の説明をするわけにもいかず、それだけはしなかった。あまりアスナーシャ教会と関わりたくなかったからだ。基礎も出来てないなら所属すべきだ、などと言われたくないため、余計な行動はしなかった。

 あと、魔物との戦闘は他の人間に任せた。そんな些事は放り投げる。


「アパ。シャオ。ご飯だよ」


 全体のお昼休憩になった際、エレスは二匹の馬に餌を与えていた。ジーンの馬だ。二匹ともすっかりエレスには懐いたのか、食事をくれればしっかり食べるし、上に乗られても文句は言わなかった。

 ブラッシングされたり身体を拭かれたり、傍で寝ていても動じない程だ。

 一方ラフィアは。


「フシュー」


「何で私は嫌われてるの……?」


 たとえ餌を持っていても威嚇されてしまった。最近は色々と行動を改めてきたのだが、それでも馬には理解されないらしい。


「ラフィア、諦めろ。そいつら金属があまり好きじゃないんだ。鎧だったり剣持ったままだったらいつまで経っても心を開いてくれないぞ」


「……全部外したら食べてくれますか?」


「さあ?それはそいつら次第」


 簡単な調理をしながらジーンは言う。作っているのはカレー。今は便利な物で、野菜と市販のルーがあればすぐ作れる。火も魔導士であるジーンは自前で用意できる。

 そこにジーンの村に伝わっている白米も水と一緒に炊いて用意する。このお米にカレーをかけると美味しいのだ。違うお米なら他の地方にもあるのだが、ジーンの村のお米はちょっと違う。品種改良で特別な物を作っており、ふっくらとした食感が味わえるのだ。


 ラフィアは鎧と剣を外して餌を与えようとしたが、二匹とも座ってもう食べられないと首を横に振っていた。エレスのご飯で満足したのだろう。そのエレスはシャオの背中に乗って寝っ転がっていた。

 おちょぼ口が可愛い。


「次こそは……」


「その野菜戻しておけよ」


「わかっています」


 ジーンたちの食用と二匹の食用はわけていた。ラフィアは戻ってくると鍋の中を見ていてくれた。


「そういや聞いてなかったけど、何で魔導士が嫌いなんだ?騎士団にもいるだろ?」


「彼らには騎士としての誇りがあります。人を守ろうと、自分の力を理解して何かを成し遂げようとしていますから。……他の魔導士が嫌いな理由は、家族を殺されたからです」


「あ?お前、貴族じゃなかったか?」


「今でも位はあります。家なども血縁の近い方が維持してくれていますし。直系の血筋はもう私だけですが」


 ただ事実を言っているだけだが、ラフィアの瞳には憎悪の炎が浮かんでいた。家族を殺された、となると感情が向く先として当然の帰結なのかもしれない。


「魔導士に殺されたって、何でわかったんだよ?」


「騎士団が助けてくれたからです。その騎士団の方が、犯人は魔導士だと」


「……お前の家の名前、なんだっけ?」


「コウラス家です。潰される前は国でもそれなりの発言力がある家でした」


「コウラス……。たしか分家筋も一族郎党皆殺しにされた家か」


「そうです。今お世話になっている家はたまたま騎士団に保護されて無事だった家ですね」


 ジーンもその家のことは知っている。それこそ魔導研究会主席になったばかりの頃の事件だ。国の政務次官を務める家だったために、世間的にも話題になった事件。


「魔導士の集団が押し入って騎士団に粛清された事件だな。政務次官だから責任があると、魔導士冷遇をよしとしないクーデター連中が謀殺を試みたってされてるやつ」


「訴え方が間違っているんです。それで家族を殺された私の気持ちがわかりますか?魔導士を恨むなという方がおかしいでしょう。アース・ゼロの二次被害です」


「だからアース・ゼロの主犯とされる魔導士を恨む……。いいんじゃないか?そいつが生きていたらお前が裁けばいい。世界的な大罪人だ。世界を変えたのは事実だからな」


 ジーンは火を止めながらそう言う。世界に混沌をもたらしたのは事実。たくさんの人が死んだのも事実。色々な人の人生が狂ってしまったのも間違いようのない事実。

 それを否定することは一切なかった。


「エレス。ご飯だぞー」


「はーい」


 シャオから降りてこちらに向かってくる。初めて食べるカレーに、エレスは興味津々だった。


「か、辛い……」


「そうか?甘口使ったんだが……」


「エレスは辛い物が苦手なんですね」


 ヒーヒー言いながら水と一緒に食べ進めるエレス。次からジーンはカレーにハチミツを入れるかと考えつつ、これより甘くなるのかと思いながら食べた。

 ジーンはどちらかというと辛口派なので、これ以上辛さをなくすのは好まない。だがエレスのためならそれも仕方がないかな、とも思ってしまっていた。


 騎士団もアスナーシャ教会も各々食事をしている。時間を合わせることはしても、一緒に食べるようなことはしない。それがこの距離感だった。たまにラフィアが騎士と話したり、フレンダが状況確認で話しかけてくることはあったが。

 一日大雨でまともに車輪が回らず航行不能になったが、一日のズレ以外は問題なく首都への行程は進んでいった。




この後十八時にもう一話投稿します。

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