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The Elasticity~最強の魔導士、最愛の家族と再会する~  作者: 桜 寧音
一章 デルファウスからの狼煙
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3-5-3

本日一話目です。


 この痴話げんかはいつまで続くのだろうとジーンたちは呆れていた。ブドウの食べさせ合いっこも終わってしまったし、食堂に残る意味もなくなってしまった。


「エレス。買い物に行こうか。欲しい物買ってやるぞ。お店がまともに開いてるかわからないけど」


「欲しい物……。お花とか?」


「花か……。馬車の荷台には彩りがないからな。それもいいかもしれない」


「その買い物、僕も行きたいなー」


「反省の色が見られないようでッ‼」


 結界を叩く音が激しさを増す。その発言がどういう意図なのかわからないが、ジーンはエレスを後ろへ隠した。


「おい、導師。もしエレスに手出してみろ。プルートに逢わせてやる」


「冥界行きってこと?行ってみたいけど、死ぬことと同義なら嫌だなー」


「お兄ちゃん……」


 言われたルフドはアハハと笑い、エレスはジーンの言葉に感動してうっとりとしていた。光悦の表情とも言う。

 周りの人間は本当にこの二人は兄妹なのか?過保護じゃないか?という疑問を浮かべている。真実を知るラフィアは真正のシスコンだと思ったが口には出さなかった。


「手は出さないけど、教えてほしいんですよね。それだけ神術が強い子が今まで発見されなかった理由を知りたいです。アスナーシャ教会に妹さんを取られたくなかったから隠していたんですか?」


「ああ、そうだ」


「だとすると今回連れてきた理由がわからないんですよねえ。もし魔導士の頂点であるあなたが解決できないからわざわざ連れてきたっていうなら、少しは納得できるんですけど」


「何が言いたい?」


「いえ、あなたはこの街に来る前に原因が分かっていたんじゃないかなって思って。色々不自然ですし。あなたが事件を起こした、もしくは起こした人間のことを知っているとか」


 その言葉に食堂にいた聖師団の人間は身構える。いつでもジーンを取り押さえられるように、術式の準備までしていた。


「あの神術をまとった何かを俺がレイルに入れられるわけないだろ。俺は魔導士だぞ?」


「妹さんに協力してもらえば、とか協力者がいれば可能じゃないですかね?今回の事件のこと、知っていたんじゃありません?あなたの行動は俊敏過ぎた」


 そう言われて思い当る節がラフィアにはある。

 自分の上司を同行できないようにしたこと。これは文書の確認がなかったからと言っていたが、騎士団のミスとも言い切れない。魔導研究会の方で情報統制をしてしまえばそれぐらいできるだろう。

 文書が送られてきていないというのもジーンの発言のみが証拠だ。実際に家の中に入って確認までしていない。勝手をしたら殺される可能性もあったからだ。

 そして極め付けが管轄違いだと最初に依頼書を見て発言したこと。原因が魔導にはないとわかりきっていたかのようだった。


「依頼のために頑張ったら疑われるのか?頑張ったのはエレスのためだ。それと、あんなバカな物を扱うなんて思われたら心外だな。本人の意志で制御できない神術の増幅器ってところだろうが……。神術だろうが魔導だろうが暴走させて何になる?アース・ゼロの二の舞になるだけだろ?」


「そうならないようにするための実験だったんじゃないですか?」


「何のために?」


「正しきアース・ゼロを起こすために」


 正しきアース・ゼロという単語にその場にいるほとんどの者が首を傾げる。アース・ゼロは何かの魔導実験で術者が暴走し、世界中に魔導の力の余波が広まったことだ。その魔導実験がどういったものだったかはわかっていない。そこに、神術は関わっていないはずなのだ。


「さすがは導師様。アース・ゼロの裏に何かあったかご存知なわけだ」


「おそらく全部ではありません。最初の表面部分だけでしょう。そういうあなたも、魔導研究会のトップだから知っているみたいですね」


「これ以上はやめとこーぜ。お互いの立場を悪くする」


「……ですね」


 二人のトップの言葉がわからない。誰にも理解できなかった。まるで報道された内容が異なるかのような物言いだ。


「でも、追及はやめません。あなたがその真実を知って、実験している可能性はありますよね?」


「証拠が出せないからな。疑うのは勝手だが、何も証拠はない。というか俺は昨日ぶっ飛ばしたお前んところの女を疑ってるぞ?俺の邪魔してきたんだし」


「彼女は魔物恐怖症でして。魔物に強い憎しみがあって、それで拘束術式を使ってしまったそうです。彼女のことも調べますが、おそらくシロでしょう」


「自分の組織の人間は庇って、敵対組織の俺は疑うのか。良いご身分で」


「あなたも同じでしょう?」


 同じ状況になったら庇うかもしれないが、よっぽどの理由がなければたとえ魔導研究員でもジーンは庇わない。組織に不都合が生じれば当然切り捨てる。それが組織だ。


「状況によりけりだ。お前の論は色々破綻してるぞ?俺が関わってるなら、自分で解決するのはおかしいだろ?」


「それで解決に協力したように見せかけて、捜査の目から逃れるとか」


「それはお前でも言えそうだが?」


「ですねえ。ま、一番疑っている理由としてはエレスさんとあなたの関係性ですね。今回の病気の蔓延で魔導士が解決できない理由としたら、魔導に詳しいからこそ魔導でそのようなことが起こりえないとわかりきっていたからでしょうが」


「そうだ。魔導は人体の内側に及ぼすものじゃない。毒とか生成するなら話は違うが、そういう話でもなかったからな。で?俺とエレスの何を疑ってるって?」


 お互いがお互いを疑ったまま話は続いていく。そのことに辟易としながら、一番の要点を切り出す。

 これまでの話し合いはそのことを暴くためだけに重ねた児戯だ。回りくどいことが嫌いなジーンはそれだけで苛立ちを募らせていた。


「だってあなたたち、手を触れ合えますよね(・・・・・・・・・・)?魔導士と神術士なのに」


 そのことに知っている三人はバレたくらいにしか表情に出さず、他の人間は豆鉄砲を受けたような鳩の面をしていた。寝耳に水だ。


「あなたたちの間ではエレスティが発生していません。それはどちらか片方の体質なのかそれとも二人だからこそできていることなのか。すごく気になります。正直原理がわかっているなら聞きたいぐらいです」


「俺の体質だ。何たって俺はプルート・ヴェルバーに最も近い人間だぞ?」


 その嘘に、ラフィアは驚く。そこまでしてエレスを守りたいのかと。実際やっているのはエレスなのだから、そんな嘘は通じないというのに。


「なるほど。だからあなたは十一歳で魔導研究会の主席になれたんですね。なら僕と握手できますよね?友好の証に握手しましょう」


 ルフドは自分の周りに展開していた結界を消し、ジーンに手を差し出す。ジーンも手を差し伸べて二人が触れると言う時に火花が散った。

 エレスティは当然の如く、発動していた。


「おや、嫌われてしまいましたか?」


「悪いな。アスナーシャ教会なんて信じていないんだ。お前が導師になったのがアース・ゼロ当時の四歳だっていうのは知ってる。祀り上げられたただの力ある人間ってこともな。だが、いやだからこそ、今の状態を放置しているアスナーシャ教会は信用ならない。それを言ったら国もだけど」


「……そうですね。ならば、騎士団も?」


「騎士団は半々だ。アース・ゼロの後のある事件を二つ解決したのを知ってるから、そこは信用できる」


 それを口には出さないが、それだけで対応の違いが分かるものだった。アスナーシャ教会と騎士団では魔導研究会のトップとして対応が違うと。

 この決定的な差は、騎士団に神術士がほぼいないということだ。救護隊には若干名いるとはいえ、一部隊分の人員がいるかいないかぐらいだ。アスナーシャ教会は宗教団体であるのに聖師団と親衛隊という武力を持っていることが大きい。


 魔導士の受け入れや組織の在り方などから、アスナーシャ教会と魔導研究会では相いれないだろう。

 お互いがお互いを嫌悪している。二つの組織の溝は大きい。それを埋める努力を表面上、お互いの上層部が検討している。効果は一切ないが。


「というか、俺は今お前らに一つ恩があるんだぞ?そんな状況でお礼じゃなく仲良くしていきましょうはおかしいだろ」


「恩、ですか?」


「拘束術式を使った女庇ってやってるだろ」


 お前が攻撃したんだろ、という視線も向けられるが、そこには特に返答しない。ルフドもわかっていない様子だ。


「あなたが越権行為でウチの神術士に制裁を与えたことですか?」


「その越権行為のおかげで何とかなってるんだろうが。いいのか?このまま出すところに出せば有罪判決であいつは職を失うぞ?正式に依頼を受けていたのは俺で、その行動を妨害したんだ。理由だって召喚術を魔物と判断したから。いくら神術士が世論の賛同を受けていたって、反発する声は絶対に出るぞ?」


「越権行為によって、それをお互い隠すためにこちらで処罰を決めて、そんな暴走などなかったことにすると。……悪いお方だ」


「お前たちが有利になっているっていう世界のバランスを守ってやってるんだろうが。あまりにも目に余るようなら魔導士と神術士で戦争が起こるぞ?そうしたら人権問題やら食糧問題やら金銭問題やら……。ああ、人的被害もあるか。そうなったら困るだろ?それを止めるとしたら組織のトップである俺たちだ。わかったか?小僧」


 年齢が下だから、などというのは言い訳にもならない。組織のことを守るという考えがなければ、組織のトップなど務まらない。

 たとえ力だけが目当てでお飾りの存在だとしても発言力は存在する。だからこそ、不用心なことを口走らないように大人が教育をすべきだった。

 そんなことを今のアスナーシャ教会に求めるのは無理なことかもしれないが。


「小僧ですか」


「ああ。組織のトップとしては相応しくないな。上層部も見つめ直した方が良いぞ?お前が普段どんなことしてるのか知らないけど、狂信的な村で神術士が虐められてたからな」


「……なんですって?」


「事実だ。神術士が、アスナーシャの狂信者たちに虐められていた。死ななかったのが不思議なくらいだ。そういう街や村の調査もきちんとできてないのは、世界を統べるアスナーシャ教会としてはどうなんだ?」


「別に、世界を統べているわけではありません」


「ほら、そうやって顔に出す。やっぱりお前、(まつりごと)むいてないよ」


 ムスッとした表情をしたルフドをジーンは指摘する。まだ、十四の子どもなのだ。それをやれという方が酷なのかもしれないが、仮にもトップならばもう少し何とかしなければならない。



この後十八時にもう一話投稿します。

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