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The Elasticity~最強の魔導士、最愛の家族と再会する~  作者: 桜 寧音
一章 デルファウスからの狼煙
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3-3-2

本日一話目です。


 ジーンはもう一度黒い塊を撃つ。だがそれははじき返されてジーンへ向かってきた。


「お兄ちゃん!」


 エレスが叫ぶが、ジーンは手早く同じ黒い塊を放って相殺させる。たとえ跳ね返ってきても、威力は変わらないようだった。


「リピートは使えないか……」


 まるで実験だった。何が効いて、何が効かないのか。さっきから放っていた黒い塊――ブロウの魔導も当てる角度や威力、速度を変えて試していた。だがあまり効果がなかったので高火力のスパイラル・フレアを放ったのだ。

 本来なら三詠唱の魔導でも、貫くことはできなかった。だが手応えはあったのでもう一発放ったところ、一つ目の壁は破壊することができた。


 検証の結果、薄い層は街中に広まっているただの神術の層。力の余波だった。その程度で三詠唱の魔導二つを費やさなければならなかったのは驚嘆の一言だ。

 三詠唱の魔導は、魔物なら一撃で三体は狩れる。ものによったら小さい村などその一発で半壊させられる。


「さて、どのくらいなら跳ね返ってこないんだか……。ブロウ」


 今度は一詠唱を行うことによって威力を増して放つ。だが、それもはじき返されてしまったので、同じ物をぶつけて相殺する。


「はっ!これが魔導とか笑えるな!どこからどう見ても神術の防衛結界じゃないか!結界は神術士にしか張れないとか言ってた間抜け共はどこだ⁉何でも悪事は魔導士のせいにするバカ者共はどこだ⁉」


 今度は手から魔法陣を出すわけではなく、足からマナを放出させて陣を描いていった。その魔法陣が完成した途端それは赤く輝き始める。

 陣作成。


 本来であれば使う魔導や神術はイメージした物を手の先に形成するものなのだが、陣を手や足で直接描く方法で詠唱破棄ながら詠唱したものと同等の威力を発揮する高等技法。寸分でもずれてしまえば発動せず、まともに戦闘では用いることができない古典的発動儀式だ。

 今回こちらが攻撃さえしなければ被害が出ないことからジーンは陣作成を行った。この方が正規の詠唱より早く五詠唱の魔導を発動できる。

 用いたのは、召喚儀式。


「現れろ。旱魃(かんばつ)の使者。――アパオシャ」


 ジーンの脇から出てきたのは毛の生えていない黒馬。その身体には魔導を宿しており、今もエレスティを起こしていた。

 その黒馬は羽も生えていないのに浮かんでいた。重力に反した動きは、魔導によるものだ。


「悪いな。少し飛びづらいだろうが協力してくれ」


「ブルルゥ」


 首元に手を触れると、意気揚々と返事をくれた。鼻息も荒く、戦闘準備万端だ。いつでも頼りになる。


「や、やはり魔導士は滅ぼすべきだ!街中に魔物を召喚しやがった⁉」


「全員戦闘準備よ!」


 聖師団が慌てふためいている。これだから理解のない人間は困ると、ジーンは嘆息していた。


「こいつは我々が信仰するプルートの使者だ!決して魔物ではない!邪魔をした者は俺が殺す!」


「……ジーン殿を刺激するな。実際に我々に矛先は向いていない」


「メッカさん⁉でも……!」


「あんな魔物は見たことがない!今はこの事態の収束が最優先だ」


 メッカがそう言ってもジーンたちに向く敵意は変わらない。ジーンは手早く説明する。まったくもって面倒ではあるのだが、説明をしなければ納得しないのであれば、せざるを得ない。


「お前たち神術士が行う精霊召喚術の魔導版だ。似ている力使ってるんだから、何らおかしくないだろ?」


 馬型の精霊は代表的な物でユニコーンがいる。神術士の上位になれば使うことができる人間もいるはずなので、何もおかしくはないはずなのである。

 少し見た目が怖くて、魔導を用いるだけで魔物扱いは心外だ。


 アパオシャは翼もなしに空へ飛ぶ。そして助走をつけて突っ込んでいた。何かを飛ばす魔導でなければ弾かれないらしい。

 それがわかってジーンもトンファーを取り出し、直接魔導を纏って殴りつける。エレスティが起こり続けているが、放つ魔導が効かないのだからしょうがない。


「エッジ」


 トンファーに鋭い刃を纏わせて、両手で叩きつける。金属を殴っているような音が聞こえるだけで効果は薄い。


「広く、広く、広く。魔より(いで)し破壊の狂槍よ、総たる王よ一時の顕現を願わくば、屠殺することを。彼の者には地の底の大罰よりも深く滾る灼熱をその身に。――アラドヴァル」


 二つのトンファーの先から穂先が燃え滾った槍のような物が形成される。これも三詠唱。この槍で振り抜く。罅は入っていくが、破壊の決定打とはならない。

 一度助走をつけて、もう一度振り抜く。力で押し負けることはないが、まだ表面を傷付ける程度だ。


「ラァ!」


 今度は飛び上がって二つとも投擲する。

 バキャア!という破砕音が聞こえるが、全壊はしていない。ようやく穴が空いた程度だった。これだけ強力な魔導なら跳ね返されることなく突き刺さってくれた。


「アパオシャ!」


 穴を塞がないように、アパオシャに突っ込んでもらうように呼びかける。だが、いつまで経ってもアパオシャは突っ込まない。


「アパオシャ?……ああ」


 反応を調べてそちらを見てみると、空中でアパオシャは白い何かに入り込んでいた。拘束結界。神術士が使う足止め用の術式だ。

 そんな物を誰が使っているかと言えば、もちろんレイルでもエレスでもメッカでもない。名前も知らないアスナーシャ教会の人間だ。


 こうしている間にも膜は修復されていく。とうとうアラドヴァルが維持できず、トンファーだけが地面に落ちていた。

 拘束結界は魔導を使う生き物を苦しめる。エレスティによってダメージが蓄積するからだ。いつもだったらアパオシャが名も知らぬ神術士ごときに囚われはしない。だが今はこの周りに神術が蔓延しており、本来のスペックを出せずにいた。


この後十八時にもう一話投稿します。

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