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The Elasticity~最強の魔導士、最愛の家族と再会する~  作者: 桜 寧音
一章 デルファウスからの狼煙
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3-3-1

本日二話目です。




 夜。街の中央部にはジーンたち三人とメッカたち聖師団の人間が十人、天の祈り所属の神術士が十人集まっていた。

 その中央部には神アスナーシャを象った女神像があった。女神というだけあって美しい像だった。そうは言っても人型に羽の生えた存在がアスナーシャと言われてジーンは疑問を浮かべていたが。わざわざ神が人型である必要はないだろうと。


 その対になるプルート・ヴェルバーは遥か昔から人型をしていない。どちらかと言えば獣のようなデザインだ。お互いの祖が形が違うというのがおかしいと思うのだ。

 昔はそこまで魔導は嫌われていなかった。そのため、魔導を嫌う何者かがプルートの姿を獣のようにした、というのもいささか信じられない。


 ここには陽が昇っている間、あえてジーンとエレスは来ていなかった。見てしまったらその場でどうにかしようと考えてしまうからだ。

 女神像の支えとなっている柱に、二十代ぐらいの男が括りつけられていた。身体中に鎖が巻かれており、その姿は焦燥しきっていた。身体ではなく精神が疲れてしまっているのだろう。

 長い間あそこに囚われて食事も取れず、神術士なのに魔導士扱いされ、今や街を混乱に陥れた悪者だ。平然としていられるわけがない。


「メッカ。確認するが、あの男は住民票では人間になっていたんだな?」


「そうです。レイル・バンハッド。ですがここの神魔判定は杜撰だったようで、今回の騒動で神術士か魔導士かわかったような方もいました。いずれもそこまで強い力を持っていませんでしたが」


「あー。その対処でもお前らの手が足りなかったのか」


「申し訳ない……」


 それでアスナーシャ教会を責めることはない。杜撰な管理をしていた街の責任だろう。


「謝るなよ。それにしたって魔導士だと思った人間をアスナーシャの銅像に縛り付けるのはどうなんだ?」


「アスナーシャの加護によってこの被害を抑え込もうとしたようです。まあ、結果は見ての通りですが」


「神様は基本的にいるだけで、何もしてくれないだろうに。……そもそも、アスナーシャが神っていうのもどうなんだか。俺たちはプルートを神様だなんて思ってないのに」


「組織の違い、認識の違いでしょうなあ」


「そんなもんか」


 理解してもらおうと思って話していたわけではないので、ジーンはメッカの答えにも納得はする。


「さてと。そろそろ始めるか。神術士の連中は下がっておけよ。エレスティで痛い目見るからな」


 その言葉を聞いて、アスナーシャ教会の人間は皆離れていく。だというのに、エレスとラフィアはその場に留まっていた。


「お前たちも下がっておけよ。診療所で受けたエレスティの比じゃないぞ?」


「わたしは、平気。少しの痛みなら耐えられるから」


「私はあなたの護衛です。その護衛が離れていたらお笑い種でしょう?」


「頑固だな……。じゃあラフィア。エレスティの影響が大きくなってきたらエレスを抱えて下がれ。護衛対象からの命令だ」


「了解です」


 これぐらいなら大丈夫だろう。ジーンもレイルに近付いて、なるべく二人から離れることにする。

 一歩、近付くごとにエレスティが発生し、火花が散る。痛みもあるが、傷にはなっていない。これ以上は今のまま近付くのは危険だと感じ、ジーンは足を止める。


「はっ!」


 ジーンは魔導の力を開放する。いつでも全力では、周りにいる神術士とエレスティを起こして面倒事になるからだ。

 後ろを振り返ってみるが、下がっていたアスナーシャ教会の人間たちとはエレスティは発動していなかった。驚愕されていたが。


「これがジーン殿の魔導……!」


「桁違いだ!こんな魔導、見たことないぞ⁉」


「この力なら、導師様と互角だというのもうなずける……!」


 そう呟いていたが、エレスは首を傾げていた。隣にいるラフィアも所々で起こるエレスティの規模と数に警戒していたが、エレスは特に驚かずに見ていた。


(お兄ちゃん、まだ全力じゃないと思うんだけど……)


 エレスの見解としては、すごい、程度だった。

 魔導をそこまで知らなかったが、あの規模の魔導と全力でぶつかったら勝つ自信があった。だからか、周りの反応と差異を感じていた。


(わたしの神術ってそんなにすごいのかな?だから隠すように言ったのかな?)


 無闇に神術を使うな、とは言われていた。何がすごいのか、エレスにはわかっていなかった。

 その身体に宿す神術はそれこそ全力のジーンと渡り合えるほどのものだった。まだ全力を出していないのに、アスナーシャ教会のトップである導師と渡り合えるほどのジーンの力。


 ともすれば、エレスが次代の導師にされる可能性が高かった。そんなことをエレス自身望んでいない。ただ、ジーンと一緒に過ごしたいだけだ。

 それに何となく気付いているジーンはエレスに力を使わないように伝えていた。導師になることを望んでいないなら、露見させるようなことはさせない方が良い。


「手荒に行くぞ」


 ジーンは無詠唱で黒い塊を掌から放出する。それは神術の余波で出来た壁のようなもので弾かれてしまうが、それでもジーンは続けた。

 三十を超えたあたりで、一度手を緩める。今度は無詠唱ではなく、掌に魔法陣を作り上げていた。


「スパイラル・フレア」


 弾丸のように螺旋回転をした炎の塊が激突する。ゴギャギャギャと壁を食い破ろうと炎の塊が回転を増して突っ込んでいったが、まだ壊れそうになかった。

 それを見て、反対の左手も掲げて、ジーンは呟く。


「リピート・リピート」


 そう呟いてから魔法陣が現れ、全く同じ炎の塊が放出された。二つの塊が激突した壁は、鐘が鳴るように破壊された。

 リピート・リピート。

 直前に使った魔導であれば、どんな魔導であれ再発動することができる。ただしリピート・リピートだけは重ねがけできないし、他の魔導の併用ができない、マナの消費は同様であるなど欠点も多い。

 もっとも、三詠唱の物であっても一詠唱で用いることができるので破格の魔導ではあるのだが。


「やった!」


「これで彼に近付ける!」


「ううん。まだだよ」


 聖師団の人間が騒ぎ立てたが、エレスが否定する。メッカも状況を良く見て、騒ぎ立てる部下たちを収めていた。


「まだ一つ目。あの人に触れるには、あと二つ壊さないと」


「あと二つも?」


「うん。それに今のは一番薄い層。次から分厚いから、同じやり方じゃダメだと思う」



明日も九時に一話、十八時にもう一話投稿します。

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