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本日二話目です。
買った服は袋に入れてもらい、店を後にする。そのまま預かり屋に行くと、先にラフィアがついていた。もう食材も荷台に運び終えていた。
「腐りやすいものは買ってないだろうな?」
「魚を少し買いましたけど、それくらいです。お肉は香辛料をまぶしておきましたし」
「……どっちも狩りで採ればいいじゃねーか」
今までもそうしてきたのだが、買ってしまったのであれば仕方がない。服もさっさと載せ、食材を確認する。野菜類に調味料に、先程言っていた肉類。四日分はありそうだ。
この食材たちは魔導によって作られた冷蔵庫の中に入っている。魔導を用いたもので、こうして馬車でも用いることができる。中に魔力を含んだ鉱石、マナタイトが内蔵されており、三年ほどは用いれる。
マナタイトは高級品だが、他の物を変える必要がないので資源的には優しい。ちなみにこのマナタイト、専用の鉱石があれば魔導士なら作成できる。
ジーンはこっそり権力を用いてマナタイトを作成し、村の皆に売っているのはナイショのはなし。
「ほら、エレス。乗りな」
「うん」
ジーンはエレスの手を取って御者台に乗せて、そこから荷台へ通す。荷台の中を見て、目を丸くしていた。
「すっごい豪華……!」
「そうか?ラフィアもさっさと乗れよ」
「はい」
ラフィアも荷台に入り、馬車は進む。門も抜け、外に出てようやく御者台にエレスがやってきた。
「このお馬さんたちも、お兄ちゃんのお友達?」
「まあ、そうかな。八年前からずっと一緒だよ」
「そんな前から……」
エレスは馬たちに手を伸ばそうとするが、ジーンが手首を掴んでそれを止める。
「今は走ってるから危ない。止まったらいくらでも触っていいから」
「うん」
そのまま手を戻して、御者台に居座る。もう陽も落ち始めているので、風が冷たくなり始めている。それでも、エレスは荷台の中には戻らない。
「中の方が暖かいぞ?戻らないのか?」
「平気。外の景色見るの、久しぶりだから見てみたい。……夕日、綺麗だね」
「……綺麗、か」
たしかに夕日が落ちる寸前というのは、絵にもなるほどなのだからきっと綺麗なのだろう。
だが、世の中にある物で綺麗だと感じる物はジーンにはない。美というものを、感じ取れないのだ。暖かさは感じるのだが、美しさはわからないのだ。
「?綺麗だよ?」
「お前にはそういう気持ちが残ってるんだな。良かったよ」
「……お兄ちゃんには?」
「アース・ゼロの後からはきっと、そういうのがわからなくなった。お前の方が辛かっただろうに、情けないよ」
世界中を回って、様々な物を見てきたが美しい・綺麗と思ったことはなかった。まず、人間の心に、表情に目が行ってしまい、そもそも目を向けていたのかすら怪しい。
「このお馬さんたちも、綺麗だよ?毛並みとかも整ってるし、尻尾とかも可愛いよ?」
「そっか。こいつらが綺麗か……。良かったな、お前ら」
その言葉に馬たちはヒヒンと鼻息で回答した。こいつらは本当に人の言葉がわかる。そのことにエレスが感心していた。
「お利口さんなんですね。この子たち」
「言葉なら大体理解してるよ。それに色々勘が良いんだ」
「この子たちはジンお兄ちゃんの家族なんですね」
「お前ももう、家族だよ」
そう言ってジーンはエレスの頭を撫でた。家族、というものは正直よくわからない。それでもこれからは、二人は家族だ。
「これからはエレス・ゴラッドを名乗れ。ちゃんとした戸籍は首都に着いたら作るから」
「それって……」
「書類上は、だけどな。今からエレスは俺の妹だ」
これは契約。
少女が大人になるまで、一人でも生きていけるまで保護をするという制約。それを交わしているだけだ。ただ、これは初めてのことである。今までだって魔導士の子どもは引き取ってきた。だが、家族になったことはない。
全て孤児院に預けてきた。きっとエレスがただの魔導士であれば、同じようにしてきただろう。だが、エレスは違うのだ。
「兄妹に、なっていいんですか?」
「……嫌だったか?」
「嫌じゃない!嬉しいよ!」
「なら良かった」
そう言って微笑みながら、更に頭を撫でてあげた。それにエヘヘという笑みをエレスは返す。
そんな二人の様子を荷台から見ていたラフィアは、正直変な目で見ていた。
(あの、兄妹っていうより恋人っぽいんですけど……)
あれが会って数時間の間柄なのか。むしろ何年も付き合っているカップルか、もうずっと一緒に暮らしている家族のようだ。
「……エレス、荷台の中に入れ。ラフィア、魔物だ」
馬車が止まり、御者台に置いておいたトンファーを手に取ってジーンは降りる。ラフィアもすぐ降りてきて、戦闘態勢に入る。
そんな二人の様子を見て、エレスはオロオロしていた。
「エレス。じっとしていてくれ。すぐ終わらせてくるから」
「わ、わたしは……」
「いいよ。待っててくれるだけで」
明日も九時に一話、十八時にもう一話投稿します。