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The Elasticity~最強の魔導士、最愛の家族と再会する~  作者: 桜 寧音
一章 デルファウスからの狼煙
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2-1-3

本日二話目です。

 治ったことで少年たちの報復を恐れたのか、ジーンの身体の陰から覗き込むように少年たちの様子をうかがった。すでに三人とも気を失っており、ラフィアが状態を確認していたところだ。


「殺していないし、当然の報いだろ。で、お前はどうしてあんな目に遭ってたんだ?」


「……わたしが、バケモノだから」


「並外れた神術がか?この村からしたら神聖視されてもおかしくねーだろうに」


 詠唱を用いない治癒なんて初めて見たほどだ。それほど少女の神術士としての力量は群を抜いている。

ありがたがれるならわかるが、陥れられるのはどうしてか。


「小さいころにみんなの前で神術を使って……。それから、バケモノって呼ばれるようになりました」


「人を傷付けたわけじゃないんだろ?」


「人は、傷付けてません……」


 引っかかる言い方をするが、少女は目を伏せているので表情全体が見えない。嘘か本当か判断できなかったため、それ以上このことには追究しなかった。


「ルールを破ったっていうのは?」


「わたし、この公園に来ちゃいけないんです。バケモノだから……。また何か、やっちゃうかもしれないから……」


(なんだそれは)


 子どもが遊ぶ公園に来てはいけない、子どもが。バケモノだから。それがこの村で罷り通っていることにジーンは苛立ちを覚える。

 いっそ魔導で、それこそ八詠唱のものを用いて破壊しようと思ったほどだった。


「じゃあ、今日はどうして公園に?入ったら駄目だってわかってたんだろ?」


「あの子が……」


 少女の目線の先には、先程までいた場所でうずくまる小さな茶色い猫。近寄って触れてみたが、すでに息を引き取っていた。


「この子を、どうにかしようと?」


「ふらふらしてたから、神術を使ってあげようって。そうすれば元気になれるかも……って、思った、のに。結局、わた、しが……殺し、ちゃった。助けて、あげた、かっ、たの、に……」


 途中から少女は嗚咽を交えて、心情を吐露していく。その心が溢れるように、雫が頬を伝っていった。


「わた、しがバケモノ、だから……。だか、ひっぐ。だから、この子は……」


「バケモノは泣かない!」


 少女の両肩を掴みながら、ジーンは叫ぶ。ラフィアも聞いたことがない、絶叫。それは周辺にも響き、何事かと住民が覗いてくるほどだった。


「バケモノっていうのは、心を持たない生き物のことだ!猫が死んで悲しむお前は、バケモノじゃねーよ!人間でいうバケモノみたいな奴っていうのは、誰であっても平気で傷付け、殺したうえで何とも思わない奴のことなんだよ!助けようと頑張ったお前が、自分のことをバケモノなんて卑下するな‼」


 やろうとしたことは正反対のことだ。たしかに最初は生きていたのかもしれない。庇った結果死んでしまったのかもしれない。

 それでも、その聖女たる行動をした少女が傷付けられる理由がどこにある。

 救おうとして、その代償に誰かを傷付けたわけではない。治癒を施そうとしただけの、年端もいかない少女だというのに。


 誰でもできることじゃない。

 ただ救いたかった。

 ただ猫に長生きしてほしかった。

 それだけを願い、行動した少女に非を唱える、この現状がおかしいのだ。


「お前は誰も傷付けていない。胸を張れ。お前はただの、心優しい女の子だよ」


 まだ泣いている少女にジーンは胸を貸す。もっと小さい子をあやすように、背中をリズムよく叩く。今できることはこの程度だった。


「えっと、ジーン殿。この方が聞きたいことがあると……」


 近寄ってきたラフィアが手で隣の男性を示す。五十過ぎの、こわばった顔をしたおじさんだった。


「魔導研究員首席殿。あの子たちが骨折しているのはその子のせいかね?」


「あ?俺のせいに決まってるだろ。重力制御の魔導で折ったんだよ。目撃者ならいくらでもいるし、そこの騎士も証言してくれるはずだぜ?」


「そうなのですか?騎士殿」


「はい……。ジーン殿の魔導で、彼らは骨折しました。その他の負傷はないと思います」


 事実をラフィアは述べてくれた。それよりも気になるのは、この男の発言だ。


「どうしてこの少女が彼らを傷付けたと?」


「彼女は昔から問題を良く起こしていてね。今回もそういう、いつものことなのか確認したいのですよ」


「……こういうことが何度もあって、それでもあんた等大人は……」


 この村にこの少女は居てはいけない。食い潰されるだけだ。

 ジーンは怒ることも、こちらから謝ることもしない。それでもこの少女を、神術士であってもジーンが保護しなければならない。


「この子の保護者は?」


「私ですが?」


「親、ではないな?」


「その子は捨て子でして。村長の私が保護者になっているんです」


 保護者が、子どもを疑っているのか。何かをしたと。神術がずば抜けているだけで誰かを傷付けたわけでもあるまい。そんな子を、誰もこの村は守らない。


「魔導研究員首席の名の元に宣言する。この子は我々魔導研究会の元で、研究材料として管理することを決定した。親権も全て私、ジーン・ケルメス・ゴラッドに移譲してもらう」


「なっ⁉」


 魔導研究会が神術士を研究材料で管理する。これほど矛盾に満ちた言葉はないだろう。その証拠に、周りの人間は一人残らず唖然としている。


「ま、待っていただきたい!その子は魔導士ではなく、神術士ですぞ?それを研究材料とは……」


「この子はバケモノなのだろう?それは、魔導による呪いかもしれない。貴様らもバケモノがこの村からいなくなれば清々するだろう?それに、力の原典を探るため、我々は最近神術の研究も盛んにしている。ちょうどいい」


 これは事実だ。ただ、魔導研究会全体ではなく、ジーン個人の研究である。嘘に本当も混ぜることで真実味を帯びて話は進む。


「貴様らもアスナーシャ教会に伝えていないのだろう?伝えていたらこんな辺鄙な村にいるはずもない。いらないだろう?持て余す奇跡の力なんて」


 ジーンの胸の中で、少女は震えている。紛れもなくジーンの言葉によって。言葉のナイフは容赦なく彼女へと刺さっていく。

 それを申し訳ないと思いながらも、ジーンは優しく力強く抱き返していた。ジーンにだって、こんな幼い少女を言葉責めする趣味はない。


「返事は迅速にしろ。アスナーシャ教会の本部と、大事を起こしたくないだろ?」


 神術士を保護もせず、むしろ村全体で虐待していたかもしれない事実が露見すれば、村の存続が危ぶまれる。

 ここには、もう少女を置いておけない。ならば、連れ出して保護した方がマシだ。


「それとも、俺が消してやろうか?過去にあった魔導士に対する行いの報復として、魔導研究会がティーファッド騎士団へ要請してもいい」


「わかった!わかったから、彼女を連れて疾く失せろ!そして二度と関わるな!」


「ああ。もう二度と来ない」


 村長が怒りながら帰っていくと、周りにいた大人たちも帰っていった。残ったのはジーンとラフィア、そしてジーンの腕の中にいる少女だけだった。


「ごめん。言葉でお前を傷付けた。勝手に物事も決めた。お前の居場所も、奪ったかもしれない」


「……大丈夫です。あなたはわたしと同じことをしたなら、わたしは何も言えません。ね?ジン(・・)お兄ちゃん」


 やっと、初めて笑顔を向けてくれた。そして意図を理解してくれたから、頭を撫でてあげた。

 そして一つ、引っかかったからこそ確認しなければならない。


「えっと、俺の名前ジーンなんだけど」


「あ、でもそっちの方が呼びやすくて……。ジンお兄ちゃんって呼んじゃ、ダメ、ですか?」


「呼びやすいならそれでいいよ」


 愛称ということなら問題はなかった。名前を間違えて覚えているわけではないのだ。


「ラフィア、予定変更だ。すぐにこの村を出る。宿屋から荷物回収して、この子が旅支度を終わらせたら出発だ」


「わかりました。短い滞在でしたね」


「……物分かりが良すぎてびっくりだ」


 こんなに従順なのは驚いた。もう少しぶつくさと文句を言われると思ったが、そんなことを言ってくる様子も見られない。


「こっちが驚きましたよ。権力の行使、村への宣戦布告。親権の取り上げもそうですが、一番驚いたのはあなたがロリコンだったことですかね」


「誰がロリコンだ、おい」


「シーラさん、カワイソ」


 とんでもない風評被害だ。助けた子が女の子で、幼かっただけでこう言われるとは。


「とりあえず宿に来てくれ。それと、まだ名前を聞いてなかったな。俺はジーン・ケルメス・ゴラッド。呼び方は何でもいいさ」


「わたしはエレスです。ファミリーネームはないです」


「……そっか。エレス、歳は?」


「たぶん十二になります。ジンお兄ちゃんは?」


「今年で十九になる。あとはラフィア、自己紹介」


 二人の自己紹介が終わり、残り物のラフィアが自己紹介を始める。


「ラフィア・F・コウラスです。ティーファッド騎士団の本部所属です。年齢は二十二になります」


「ジンお兄ちゃんとはどのような関係で?」


「護衛と護衛対象ですが、どうして?」


「聞きたかっただけ、です」


 そうはにかんで答えた。その笑顔はそこらの花よりも可憐で、柔和で穏やかな印象を受けるほど愛らしかった。

 そしてすぐ、ジーンの脇に並ぶ。エリスは腕を絡ませようとしていたが、さすがに躊躇したのか、横に並ぶだけだった。


「やっぱりロリコンじゃない……」


 三人はそうして、宿屋へ向かう。途中色々な視線を向けられたが、誰も気にしなかった。


明日も九時に一話、十八時にもう一話投稿します。

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