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幻姿 -まぼろしすがた-  作者: 江渡由太郎
4/13

3

 遮光カーテンの隙間から朝日が射し込んでた。


 フローリングの床の上で寝入ってしまった。


 固い床では体の節々が痛み最悪な状態での寝起きである。


 仰向けで寝ていたが、太股の上に自重ではない別の重さが感じられた。


 おそるおそる視線を向けて確認すると、あの赤毛の仔猫がすやすやと寝息を立てながら熟睡している。


「夢じゃなかったんだ……」


 流星は仔猫が人間の言葉を話す化け猫であることを改めて思い出させられた。


 仔猫を指で突っついてみると寝返りをうった。


「かわいい……」


 もう一回指で頬を突っついてみると仔猫の口元か笑ったような表情となった。


 あまりのかわいさに流星はまた指で頬を突っついてみた。


「いい加減にしないと、咬みますよ!」


 仔猫は冷めた視線を流星に向けた。


「俺、学校へ行くんだけど、お前はどうする?」

「お前じゃないです。ボクには”健”という立派な名前があります」


 仔猫は済ました顔をして言った。


 流星は仔猫をつまみ上げると掌に乗せて、台所に居る母親の所へ向かった。


 目玉焼きをフライパンで焼きながら焼き上がったトーストを皿に乗せていた。


「あら、流星。手に毛玉を乗せてどうしたの?」


 母親は流星の掌の物を一瞥して、朝食の用意に追われていた。


 流星は仔猫の肩甲骨と首の付け根の柔らかい伸縮性のある皮膚を指でつまんで、母親に毛玉の正体を見せた。


 仔猫は母親と目が合うとつぶらな大きな瞳をうるうるさせて母性本能を擽るようなことをした。


「かわいい……」


 母親は乙女のような瞳で仔猫を見詰めている。


「名前は……なんていうの?」


「タケルだって」

「そうなの? 流星、ちゃんと世話しなさいよ」


 仔猫を家の家族に迎えることが決まってしまい、反対されることを覚悟していただけに拍子抜けしてしまった。


 部屋に戻るとタケルは流星の顔をまじまじと見た。


「な、なんだよ」

「流星は変わっていますね」


「どういう意味だよ」


「神社の鳥居の近くで流星を見かけたんだけど、何か普通の人間とは違う感じがしたんだ。だからボクは流星の気を辿りながらこの家を探し出した」


 タケルは髭を揺らしながらそう言った。


「俺が周りの人と違うって!?」


 確かに赤毛の仔猫が人間の言葉を話しているのも聞こえている。


 タケルと名乗る仔猫は自分のことを”化け猫”だとも言っている。


 流星は妖怪が見えるということに驚きはなかった。


 何故なら幼少時代から不思議な者を見たり、声が聞こえたりしていた。


 そのことを母親に話したことがあり、母親も見えたりすると言うのだ。


 見えても気にしないのが一番だとし、よっぽど恐ろしい時には神社へ行きなさいと教えてくれた。


 神社には結界が張られている日中は魔物は結果内へ入れないが夜は結果が消えて陽から陰へ転じるので決して夜の神社へは逃げ込んでは駄目だとも言っていた。


 流星は幼少時代には天井の木目やタンスの木目が目や口に見えて薄気味悪かった。


 おぼろ気にそう見えていたものが、それはやがてはっきりと浮き出てきて流星に語りかけ始めたのだ。


 最初は怖い存在でしかなかったために、言葉に耳を傾けることもせずかたくなに拒み続けたのだ。

拒めば拒むほど必要に流星へ迫ってきた。


 トイレの壁やテーブルの板、フローリングの床にまで顔が浮き出ていた。


 怖がり続ける流星に母親は水晶の数珠のブレスレットを手首につけてくれるとそれは自然と見えなくなったのだ。


 最初のうちは数珠の力で見えざる者の姿を見えないようにしてくれたのだが、流星が成長するにつれて見る力が強まったために、力を抑えきれなくなってしまった。


 流星は母親に連れられて行った神社で参拝した後に、あの御神木に導かれるように近づいた。


 何故か、その御神木に触れていると心の底から安心できた。


 そして、魂の内から沸き上がるような力が注がれている感覚があり、その日から御神木の元へ通うようになったのだった。


 妖怪のような物はその後も見かけたが、母親のように気にしないようにしていた。


そうすれば相手もこちらが気づいていないとなるとちょっかいを出して来ないのだ。


 犬のような姿や布のような姿、煙のような姿というように周りの人には見えないものが流星には見えていた。


 この仔猫も見える人にしか見えない存在である。


 たまたま、母親も見える力を持っているため仔猫の姿が見えたに過ぎない。


「ボクは流星についていきますよ。学校は楽しそうですね」

「ついてきても構わないけど、悪さだけはするなよ」


 流星は変わった新しい友人を歓迎した。

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