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寝苦しい夜であった。
家の外が騒がしい気配がするが、気のせいか神経が高ぶっているせいか原因は分からなかった。
雨音に耳を傾けながら心を穏やかにし、眠りにつこうと努めた。
雨粒が窓に当たり曲を奏でているようである。
その中で微かに異質な音が混ざっていた。
「何だろう!?」
流星は注意深くその音の正体をつきとめようして、全神経をその異質な音一点に集中させた。
「猫の鳴き声!?」
何処かの野良猫が近所で雨宿りしながら鳴いていのだと分かった。
その後もずっと猫の鳴き声は止むことなく続いていた。
「何かに引っ掛かったり、網などに絡まって助けを求めてるのかな!?」
流星は外で鳴き声をあげ続けている猫が心配になり、ベッドから起き上がった。
パンツ一枚の裸同然の姿であった。
寝る前には寝衣のパジャマを着ていたのだが、寝る時はいつも脱いでからベッドへ入っていたのだ。
再びパジャマに着替えると、部屋を出て玄関へ向かった。
傘をさして玄関の外に立って耳を澄ますと、猫の鳴き声は流星の家の敷地内から聞こえるのだ。
「俺の家の何処かに猫がいる!?」
予想外のことにやや焦りが生じた。
こんな深夜に自分の家の敷地内で猫が鳴き続けていたら、近所迷惑になってしまうからだ。
流星は鳴き声を探しながら敷地内を探索し始めた。
すると、自動車の車庫の横にある自転車を停めてある場所に、一匹の赤毛の仔猫がいたのだ。
周りを見渡しても親猫や兄弟猫がいないので、親猫とはぐれてしまったかもしれない。
または人間によってこの仔猫はここに捨てられたのかもしれない。
どちらにせよ、この雨の中でずぶ濡れでは仔猫の体温は奪われて死んでしまうと思った。
流星は仔猫を片手の掌の上に乗せて家の中へと入った。
とりあえず脱衣場からタオルを二枚持って二階の自分の部屋へ上がった。
仔猫の濡れた体をタオルで拭いた後、もう一枚のタオルでくるんで自分のパジャマ内側の腹の部分に入れた。
流星の体温と仔猫の体温の違いが徐々になくなると、仔猫は流星のパジャマの中から出たがり出した。
「やっと温かくなったんだな」
流星は仔猫をパジャマの内側から出してやると、赤毛の仔猫は体全身を振るいながら毛並みを整えた。
「もう大丈夫だな」
流星は仔猫の姿を見てそう言った。
「ありがとうございます」
突然、感謝の言葉が聞こえた。
「えっ!?」
流星は自分の目の前にいる仔猫が人間の言葉を話したことが理解できず混乱した。
「い、今しゃべった!?」
「はい。しゃべりましたけど何か?」
仔猫は流星の言葉を理解しそれに対して返事もしている。
「ば、化け猫!?」
「はい。化け猫です。名前もあります」
そう言って仔猫は床のフローリングに爪で”健”という字を書いた。
「ケンっていう名前なのか?」
「違います! タケルって読むんです!」
仔猫は威張って言った。
流星は漢字の読み方よりも、フローリングが削れて傷になっている方がショックであった。
多分、今仔猫と話しているこの状況は夢なのだと流星は考えた。
それか晩御飯に食べたクリームシチューの中に入っていたキノコに、毒キノコが入っていて幻覚を見ているのかもしれないと思った。
「全部、違いますよ」
「な、何が!?」
「今、これは夢だとかこれは幻覚だとかと考えていたでしょ?」
流星は仔猫の的を得た推測に動揺した。
「考えが読めるか?」
「いいえ」
「だよな……」
「ただ、考えてることが分かっちゃうんです」
流星は絶句した。
「大丈夫です。能力を使えばの話ですから。普通にしていれば分からないです」
「じゃあ、頼むからその能力は使わないでくれ!」
流星は心の底からそう頼んだのだった。