魔王
リアとともに新生魔王軍を立ち上げてから、二ヶ月後。
「ここまで、上手く行くとはね」
「勝てる戦い以外はしていないんだから、当然の結果だろう」
小高い丘の上。敗走する人間軍を眺めながら、リアとオレは呟いた。
――オレたちの軍は、各地で連戦連勝していた。
神出鬼没、撃っては逃げるオレたちに対し、敵は効果的に反撃する術を持たなかった。
「そうは言ってもさ。よく毎回上手に、敵を誘き出せるものね。あんたの手腕には感心するわ」
「略奪を許可してもらってるからな」
肩を竦めて見せる。
「略奪が行われれば、そこへ敵の救援隊が向かうのは必然。待ち伏せなんて簡単だ」
オークやゴブリンを扇動して敵を誘き寄せ、タイミングを見計らって背後から襲う。それがオレたちの、基本的な戦術だった。
それを幾度も繰り返し、勝ちを続けたオレたちの軍は旧魔王軍の大半を吸収し、すでに当初の十倍を超える規模に膨れ上がっていた。
「リアの軍につけば勝てる、が魔界の定説になりつつあるな。加速度的に、味方が増えている」
最近では勝ち続けてきたことによって、リアにも新しい魔王としてふさわしい、貫禄が身に付いてきたようにさえ感じる。
一方、オレのほうはオレのほうで。新生魔王軍の有能な参謀として、不動の地位を築きつつあった。
「いつまでも騎士だの勇者だのと、プライドが高すぎるのも、人間の弱点だよな。だからなかなか、戦い方を変えられない。柔軟性に欠ける」
魔族の戦い方のほうが洗練されているなどとは、認められない余計なプライド。魔界のモンスターは低脳だと侮る心持ち。
「おまけに、地の利までもがこちらにある。負けるわけがない」
とはいえ。そろそろ規模が膨れ上がった新生魔王軍の、再編などをしなければならないか。
人間軍もいつまでも、こちらを侮ってはいないだろうし。
って、ん? 何だあの敵の部隊は――。
オレは手をかざして、目を凝らす。
「やるな、あの敵の部隊」
「そうね」
リアも、目に留めていたらしい。
「きっちり、殿の役目を果たしてるわね」
オレたちの視線の先では、敵の最後尾の部隊が善戦していた。
余計な反撃はせず、全員が大きめの盾で矢を防ぐことに徹している。しかも、魔法で守備力を上げているようだ。
――剣や槍で矢を打ち払う。弓の有効射程内において、そんな真似は到底不可能である。矢を防ぐには、盾が最も有効だ。
リアが言ったとおり、彼らはきちんと殿の役割を理解している。指揮官が有能なのだろう。上級騎士だろうか。
「ああいう部隊は、ここで潰しておきたいわね」
リアは愛用の複材合成弓を手にした。やれやれ、血気盛んな魔王様だ。
「ここからじゃ、間に合わないだろ」
オレは首を振る。
「そんなのはやってみなきゃ、分かんないでしょ」
リアはウインクして見せた。
「まあいいけど」
ため息をついて見せる。
「深追いはしないでくれよ、総大将なんだから」
「分かってるって」
リアは直属の精鋭部隊を率いて、風のように森へと消えていった。さすが森の住人、ダークエルフ。
死んだな、敵の殿。
――誤解している者も多いようだが。 武器格闘戦において、一騎当千の歩兵なぞ存在しない。しかし、一騎当千の弓兵は存在する。
そして、リアは魔界で随一の射手。誇張ではなく、矢玉の補給が整ってさえいれば、リアは一日で千人を殺す。容姿に似合わず、その非情さと戦闘力は正に魔王だ。
「一応、オレも行っとくか」
万が一、ということもある。オレはリアを追い、直属の部隊を率いて森に向かった。
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