プロローグ
「魔王様が討たれた?」
「そう。だからユウ、あんた新しい魔王軍の立ち上げに協力しなさいよ」
夕刻。店じまいをしようとしていたら、知人が訪ねてきてオレに唐突な話をしてきた。
――勇者の一団が魔王城を急襲して、魔王様の暗殺に成功した。魔王様の後を継いでこの国から人間を駆逐するから、あたしに協力しろ。
ダークエルフであるリアの話を要約すると、こういうことらしい。
「何でオレが? オレはただの、武器商人なんだけど」
「ただの、じゃないでしょ?」
「……新たな魔王に立候補するから、オレに出資しろと?」
「希望は、全面協力よ」
リアは胸を張った。ふさふさのポニーテールが揺れる。
「今後のプランは?」
「幸い、あたしの軍団は無傷だったからね。後は、あんたが軍師になって切り盛りするのよ」
無茶を言う。苦笑する他ない。
まあいいか。話を進めよう。
「オレへの報酬は?」
「あたしが魔王になったら、世界の半分をあげるわ」
世界の半分というのはもちろん、魔界(正確には魔族の国)の半分という意味だろう。
「雑な計画だなぁ」
唇の端を歪めて、頬をかく。
「そこはあんたを信用すればこそ、でしょ。あたしはあんたが前に言ってた戦法しか、この事態を打開できないと思ってる」
「ほう」
それは少し、嬉しい話だ。認められたというか、何というか。くすぐったいような気持ちになる。
「それに。あたしが魔王様の仇討ちだと軍を起こせば、武器商人のあんたにとっては儲け話でしょ」
「そりゃそうだけど」
ため息をつく。どう考えても、リスクの方が多そうな話だ。やりがいはありそうだが。
「おまけに。あたしの体には、魔王様の血が流れてる。つまりあたしには、魔王様の後継者たる正当な資格があるのよ」
「本当かぁ?」
思いきり、眉唾ものである。
「ほんとほんと」
かなり嘘くさい話だが、まあそれはいいだろう。今は確かめるすべもないし、オレにとって重要なのはそこではない。
「じゃあ、一つ訊きたい。人間の駆逐に成功した後は、どんな国を作るつもりだ?」
「一言で言えば、いい意味で緩い国よ」
「緩い国? それは縛りが少ない、って意味か?」
「そう。生まれや宗教で、住人を差別しない国よ」
「へえ」
もしそれが実現すれば、ドワーフと人間のハーフであるオレにとっては、魅力的な国だ。
それに何だかんだ言っても、オレはこのざっくばらんなダークエルフが、嫌いではない。
「軍事はオレに、一任してくれるんだな?」
リアの澄んだ瞳を覗く。
「ええ、最初からそのつもりよ」
迷いのない、いい返事だった。
「分かった、協力しよう」
頷いて、リアと握手する。
――こうして、新たな魔王軍の創設が始まった。
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