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[08]

それでも朝はやってきた。

長い長い夜が終わり、また朝がやって来て一日の始まりを告げた。

いつもの様に、彼を見送る

彼は私を確認すると笑顔で学校に向かう


辛かった――

彼の笑顔が――


私は彼に負担を与えちゃうかもしれないという、意味不明な気持ちを抱いていた。

実はクラスと繋げる為のただの仲介役で、それ以外は何の気持ちも持ち合わせていないんじゃないかって――


彼に手を振った後に再び眠りについた、夢に逃げ込んだ。

夢と言っても将来に期待する夢では無く、眠りに沈みフィクションの世界に入り込む事。


長い時間眠りに沈んでいた。


突然携帯が鳴った。

時刻は15:30

相手は彼だった。


『もしもし…』

『あ、もしもし、今大丈夫?』

『うん、大丈夫だよ』

眠い目を擦りながら何とか会話を繋げていく。

『もしかして…寝てた?』

ガヤガヤと少し雑音混じりの彼の声は、昨日と変わらず優しかった。

『まぁ…少し』

私は微笑み返す様に返答した。

『マジか…今さ、ビデオレンタルショップに居るんだ』

『何で?学校は?』

『今日早めに終わったんだよ、なんか職員会議とかで授業短かったし』

『そうなんだ』

私の知らない所で彼は当たり前の学校生活をしている、やっぱり羨ましい。

『でさぁ…今暇?』

『暇だよ、別にやる事ないし』

『そっか…何か好きな映画とかある?』

彼が初めて私に触れた、肌とかじゃなくて"好み"の分野に

『好きな映画?…んー学園ものかなぁ』

学校に行けないからだろうか、学園ものには熱中して見てしまう、あれやこれやと想像をふくらまし自分の中の"学校"をイメージするのが好きだった。

『学園ものかぁ…うん、ありがとう、また後で電話する』

突然電話は切れてプープーと耳に音が流れ込む。


変なの――


携帯をポケットに入れてリビングに向かった。

テーブルの上にママが残したメモがあった。

----

おばあちゃんが急に入院したので病院に向かいます

明日帰るので寂しいと思うけど一人で少し頑張ってね

パパは夜に帰ってくるので安心して下さい

あんまり寝過ぎないように

ママ

----


おばあちゃんは茨城に住んでる

おじいちゃんが一昨年亡くなってから一人で農作業をやりながら暮らしていた、夏休み会いに行った時は元気だったのに、急にどうしたんだろう…


しばらくテレビを見ながら彼からの電話を待っていた。

昨日の雨が嘘の様に青空が広がっていて、健やかな気持ちになれた。


すると自転車のブレーキ音と共に携帯が鳴った。

『もしもし』

テレビの音量を下げながら携帯の受話器に向かった。

『もしもし?今何処に居るでしょう』彼は受話器越しで笑いながら話している。

もしかして――

携帯を片手に玄関のドアを開けると

彼が立っていた。

『よっ!!』片手にはレンタルショップの袋をぶら下げて、私に微笑みかけた。

『どうしたの!?』当然私は驚いた、まさかとは思ったが、そのまさかが的中するなんて…

『暇だと思ってさ、外出れないんだろ?だからたまには生き抜きも必要じゃん』

彼の笑顔をこんな近くで見れるなんて思いもしなかった。

『でも、突然過ぎない?』

私はぶっきらぼうに答えた。

『そう?嫌なら帰るけど…学園ものの映画と共に』

彼は悪戯をする子供の様な態度で私をくすぐる。

『ちょっ、別にそういう訳じゃなくて…』

『なら、もっと喜べよ…久々何だし』


久々――

平日は一応毎朝お互い顔を見ているし、土日は電話で話しているけど――こうやって話すのは久しぶりだ


『久々だね』私は笑った

『なんだ、笑えんじゃん…てか…寒いんですけど』

『あ、ごめん!!あがって』

私は玄関のドアを大きく開き彼に手招きする。

『お邪魔しまーす』

彼がスニーカーのヒモを玄関でほどき終わると同時に静かにリビングに案内した。

『今日、ママ帰ってこないんだぁ…パパもきっと遅いし』

『そうなんだ…丁度良かったんじゃない?暇つぶしが出来て』

彼はソファの横にカバンと上着を綺麗に置くと、台所でお茶の用意をしてる私の方を向いた。

『お茶なんて別にいいのに…急に押し掛けて来ちゃったし』

『いいの、気にしないで――あ、ソファに座ってて』

両手が塞がっているからアゴでソファを示した

『あ、うん、ありがとう』

彼はゆっくりソファに座り

『前に来た時はソファじゃなくてテーブル側の椅子に座ってたよね』

と話し始めた。


何だか懐かしく思える――


『あぁ…あん時、凄い緊張したよ…』

苦笑いした彼を近くで初めて見た。

『何で?』

『だって初対面だし、会うの嫌だとか言われたらどうしようかって思ってた』

彼は笑いながら初対面の時の話をする。

『私なんか、クラス委員長って女の子かと思ってたからビックリしたよ』

『マジか!!でも俺の学年で男子のクラス委員長って俺一人なんだよね』と寂しいそうに語った。

『そうなんだ…何か面白いね』

笑いながら彼に言うと

『笑い事じゃないよ』と少し呆れていた。

『はいはい、で…何借りて来たの?』

『あ、コレ』

と彼は袋から借りてきたDVDを見せる。

『どんなやつ?』

『何か、田舎から東京の学校に転校生が来て、そこで隣になった席の子に恋をするって、ありきたりな話だよ』

『へぇ〜…何か意外だね』

『何が?』

『隼人くんが恋愛ものとか』

お茶とお菓子をトレーに乗せ、ソファへ向かった、ソファの目の前にあるテーブルにそれを置き彼の隣に少し間をあけて腰かけた。

『そうか?俺だって普通に恋愛くらいしますよ』

少し照れ臭そうだった

『ふーん、じゃぁ見よっか』

誰が好きなの?って聞きたかったけど怖くて聞けなかった―


DVDを手に取りプレーヤーに入れテレビをつける、ビデオ3にするとDVD画面が表れ再生ボタンを押した。

始めは映画の予告ばっかりで

『これ見たいんだよね』

と彼が色々と説明してくれた。


本編が始まって二人は静かに映画に見入っていた。


友達との友情や二人のすれ違い、でも最後は理解しあう、けれど主人公は地元に帰らなくてはいけなくなり、一緒に卒業式を迎える事が出来なくなってしまった。

すると主人公の彼氏は卒業式当日学校を抜け出し彼女の元へ向かう。


彼女と自分の卒業証書を持って…


最後は感動だった、私はボロボロ涙を流し右手でティッシュを握りしめていた


映画が終わりエンドロールが流れている時、左手に違和感を感じた。

見てみると彼の右手を握りしめていた

彼はそれに気付いているのか、いないのか…


『ごめん!!』


私は思わず左手を彼から離してしまった。

『えっ?あぁ、気にすんな』

彼は再び画面に目を向けた。


心臓がばくばくしている―


不自然な私に気付いた。

『どうした?顔、真っ赤だぞ…大丈夫か?具合悪い?』

うつ向く私の顔を覗かせた彼の顔が近くて…近くて更に心臓が動きを早めた。


『だ、大丈夫…』


沸騰したお湯の気持ちがなんとなくわかってきた…爪先から頭まで温度を上げる様に熱を伝える、まさに夢のような一時。


『風邪でも引いたか?』

と彼が私のおでこに手を当てた

『別に熱くはないな…本当に大丈夫?』


彼をずっと見つめていた

私は彼以外何も見えなかった


『だ、大丈夫か?』

驚きながら彼が私の目の前で手を振る


一番驚いたのは彼よりも

私だった――


『好き…私、あなたの事が好きなの』


突然の発言にお互いビックリした、自分は何て馬鹿な発言をしたんだろう…言った後に後悔した…


何言ってんだろ私――

馬鹿だ―究極の馬鹿だ――


『知ってる』


彼の驚いた顔の後の真剣な顔が…また緊張のレベルをあげる


『実は知ってたんだ、入学してから二階の窓から手を振ってるのとか、前に病院でトイレの場所教えてくれたのとか』


全部知ってた――

えっ――


『………』

恥ずかしさと自分の馬鹿さに何も言えずにいた


『好きなのは、お互い同じ』


ハッと顔を上げて彼を見つめた

彼は優しく微笑んでいた。


『えっ…』


『病院ん時は姉貴の見舞いでさ…たまたま未歩ちゃんに会って、話したくなって、話す口実でトイレの場所教えてもらったんだ』

彼はそう言うと改めて私の方に体を向けた。


『よろしく』


彼は手をさしのべた。

私も手をさしのべた。


それからゆっくりした時間を過ごして彼は帰って行った。

『帰ったら連絡するね』

そう笑顔で言うと自転車に乗り夜道に消えて言った。


幸せだった。

総て初めてな事が上手くいって、幸せだった…でも更にいつ壊れてしまうのかが怖かった。


今日は月が見える。

優しい神様が黄昏ている様に、彷徨った旅人が迷わない様に、月は白く美しく欠けながらも輝いてていた――

この日から少しづつ何かが変化していく事に誰も気付く事ができなかった、出来たとしても止める事は不可能だったと思う。

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