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[07]

私は此処に居る。

誰もが一度は自分の存在を確かめる事があるだろう――

一度だけじゃない二度三度と何度も繰り返し確認する人も少なくはない。


その中に私は居た――


しかし一つだけ、他者と違うのは

私は彼を通さなければ自分の存在を確かめる事が出来ない、逆に言えば出来なくなってしまった。


今まで他者との関わりが無く生きて来た私にとっては大きな成長であり大きな不安の種でもあった。


不安なのは、見捨てられないか、はたまた嫌われないか。

彼が居なくなったら私は、どうやって自分の存在を確かめる事が出来るか――


不安で胸は満たされ、逆に片想いの淡い気持ちと混ざりあっていた。

その色は絵の具では見つからない色で言葉でもイメージにも出来る物じゃなかった、逆に簡単に説明するならば、綺麗な夜空に浮かぶ綺麗な月と空の微かな間の色…それ意外には表現が出来ない。


私は――彼が―

國分 隼人が―好き――


その気持ちは日々強くなるばかりで、抑える事により反発してさらに強くなる。


最初は二階の窓から眺めているだけだったのが、病院でトイレの場所を教えて、次に実は同じクラスのクラス委員長で、今ではほとんど毎日頻繁に連絡を取り合う仲にまでなっている事。


連絡を取ると言っても学校の話が中心で、お互いの生活や気持ち、ましてや私の病気についての話は何もしていない。


私は臆病だ――


彼と連絡を取り合ってから約一ヶ月がたっていた。


未だに何の進展もない…悲しい事だけど――


今日は朝から静かな雨が世界を包み込んでいて

日曜日――嫌いだった日曜日も今では好きな日になっていた。朝から晩まで彼と話をするのが当たり前になっている。


彼はメールが苦手で何かと電話をしてくる、短文や長文でも電話が鳴り響く…逆に彼の声が聞けて嬉しい。


そんな日曜日だった。


電話越しで彼と学校の話をしていた、私のイメージする学校と現実みたいなのを話していた、その時…


『そういえばさぁ話し変わっちゃうんだけど…今度、英語の授業で将来の夢について英作文を書くんだ』

彼は思い出したかの様に私に告げた。

『将来の夢?隼人くんは将来の夢とかあるの?』


ある程度連絡を取り合うと自然にお互い下の名前で呼ぶ様になっていた。

そこだけ距離は縮まっている。


『んー…ある様な無い様な…微妙なんだよね』

どっちだよ―

『そっか……んー…じゃぁ今から夢を見つけよ』

私は笑いながら少し真面目に彼に問いかけてみた

『えぇ…マジかよ』

『マジマジ』

『んー…何か改めて考えると思いつかないよな』

『んー…そうだよね…』

ほんの少し沈黙が続いた。

窓から見える景色は雨が降り続く静かな街並みだけで――沈黙を切り裂いたのは彼の方からだった。

『そういえばさ、未歩ちゃんは夢とか無いの?』


夢――

そういえば考えた事ないな―


『私?んー学校に行く事とか?』

少し誤魔化し気味で彼に言った

『それ夢じゃないし』

と彼は笑いながら言った

『そう?私にしたら大きな夢だよ』私は真剣な口調で彼に答えた。

『そっか…んーなんか夢って人それぞれだな』

改めて考えたかの様に私の気持ちに素直に答えてくれた

『まぁ人それぞれじゃなきゃつまらないじゃん』

『それもそうか…あぁ…夢かぁ…俺は何になりたいんだろう』


彼の夢が知りたい――


もっと彼を知りたい――だから…夢が知りたい――


『そういえばさ』

また彼は話を変えた。


『未歩ちゃんの病気って…そんなに悪いの?』


――え?


『な、何で?』

『いや、最初の頃に挨拶しに言ったじゃん?そん時、元気そうだったし、電話で話してても元気そうだからさ』

『あぁ…それはあれだよ、多分良くなってきてるのかもしれないからさ』

私はアタフタしながら彼に答えた。


自分の病気を知ってる友達はいない、ましてや友達もいない。

誰かに言ったり、伝えたりするのは簡単だけど、その後が怖くて、なかなか言う事も無く今にいたる。

今までも今も。


『ふーん、あ…俺、医者になろうかなぁ』

冗談混じりの発言に私はビックリした。

『え?何で?』

『いやぁ…もし、これから先、未歩ちゃんの体が良くならなくて困っていたら俺が治してあげようかと…奇跡の友情…みたいな』

彼は笑いながら、でも真面目に私に話した。

『ば、馬鹿じゃないの…そんな事する前に絶対治ってるもん』

私はまた強がった。

すると彼は


『嘘つくなよ』


鋭い一言に私は黙ってしまった。


『未歩ちゃんってさ、嘘付くの…下手だよ』

彼は笑いながら言った。

『…う、嘘じゃないよ』

私は何とか私を隠そうとした――自然と彼から逃げようとしている―


『実はさ、こんな話しすんのも変だけど…姉貴が昔、確か俺が幼稚園の時かな…病気で入院しちゃっててさ…今も退院出来ない状況なんだけど…わかるんだ、強がってるのとか声聞くだけで…姉貴も強がってるからさ』


初めて彼の"今"を知った。

普通の中にも普通でない事が存在していた事に少し戸惑った…そのせいか私は自分を隠そうと強がっているのが彼には通用せず無意味な事を理解した。


『そうなんだ…』

他に何も言えなかった。


まだ雨は降り続いている。


『だから心配すんなって、別に未歩ちゃんの病気を知ろうが知りまいが、未歩ちゃんは未歩ちゃんだし、嫌いになるとか無いからさ、俺はただ未歩ちゃんの事が知りたいんだ、力になりたいんだよ』


彼は優しかった。

優し過ぎるくらい優しかった。


甘えたい――だけど――本当は知ってほしい――


自問自答を繰り返し、やがて自然に口を開いた。


『私ね、心臓病なの下手したら死ぬかもしれないの…』


彼は何も答えなかった。


『だから夢なんて無いし…』

『逆に夢見つけたら、元気になるかもね』

『え?』

『夢って未来の事だろ?生きたいなら未来を考えて未来に歩く事が大切じゃん?』


私の名前"未歩"は

希望ある未来に歩き続ける

と言う意味でつけられた、私には希望ある未来が無い…


夢――見つけたい――


そう思った時に彼が言ったのは


『俺決めた…やっぱ医者になるわ、医者になって姉貴と未歩ちゃんを元気にする』


彼の喜びに満ちた言葉が深く胸に突き刺さる。


嬉しさ半面複雑な気持ちだった。

そんな事言われたら…余計気持ちが抑えられないじゃん――


それからお互いくだらない事を長々と話し電話を終えた。


電話を切った後の私は、気持ちを抑えるのに必死になっていた、少なからず長い時間に感じて実際は30分もたっていない

電話は長くても気持ちを抑える時間は短い。


しばらく何も考えない事にした

今まで変に守っていた物が突然崩れ去りそうで、今までの自分が自分じゃないと否定しそうで


変わるのって、こんなに辛いんだ――


胸が苦しい――痛い訳じゃない。


ただ"心"と言われる物がとてつもなく苦しい――

その日の夜は、いつもより少し長く感じて、朝が怖かった。

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