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[06]

今日も朝から通学する子を窓から眺めていた。

朝日が照らす道は、まだ寒そうに続いている。


あ、國分さん――


自転車に乗った彼が、いつもの様に現れた。

いつもの様に背を向けた彼に手を振ろうとした時、彼は私の家の前で止まり、二階を見上げた。

キョロキョロしながら私を探していた。


あ――目が合った――


私は突然の彼の行動に驚きを隠せず固まった。

彼は私を確認すると微笑みながら手を振り、私は答える様に手を振り返した。

お互いの行動を確認すると自転車のペダルを再びこぎ始め学校に向かって私に背を向け道の奥へ消えて行った。


驚きが体を包み、キョトンとしたまま椅子に座った。

顔が暑かった、瞬きを何度しただろう。


手を振った――

彼が私に手を振った――


嬉しかった。

初めての体験でもあったから今まで落ち込んでいたのが嘘の様に一人で喜びを感じていた。


今日一日気持ち悪い位にニヤニヤしていたと思う。

薬を飲むのも辛くなかったし久々に"つまらない"と感じなかった。


ただ、興奮し過ぎたせいか胸痛が度々訪れ5分近くジッと痛みを堪える事が2度3度あった。


でも辛くはなかった。

朝の出来事が私に勇気をくれた。


午後は再放送のドラマを見て時間を潰していた。

最近は恋愛ものの再放送を見ていて憧れを感じながら最終回に向けて眺めていた。


そんな時に携帯が鳴り出した、携帯を開き画面を見ると"國分 隼人"と表記されていた。

慌てて電話に出る。


『も、もしもし!?』

『もしもし?藤沢さん?』

彼の声を聞いて緊張がピークに達していた。

『うん…』

私は緊張を押し殺し静かに頷いた。

『今ちょうど学校終わってさ、メールより電話の方が早いと思って、ビックリした?』

彼は昨日の暗さが嘘の様に明るい声で話しかけて来た。

『うん、ビックリしたよ』

と笑いながら答えた。

『あぁ…でも悪かったかな?』と彼は悩んだ様に言った。

『どうして?全然平気だよ、暇だったから再放送のドラマ見てたし』

『そうなんだ…じゃなくて、ビックリさせたら体に悪いかなぁって…』

彼は申し訳なさそうに心配してくれた。

『ううん…大丈夫だよ、ありがとう』


私は初めて親以外の優しさに触れた気がした。

暖かくて切なくて…夕陽が街を照らす中で、茜色に似た私の気持ちが"初恋"と言うものに真っ正面に向き合い正直になれた気がした。


『今日さ、美術の授業だったんだけど…俺、絵が苦手でさぁ…なかなか上手く描けなかったよ』

と残念そうに授業の内容を話してくれた。


朝、担任が遅刻して寝癖が面白かった事、国語の授業で居眠りをして廊下に立たされた事、お昼に友達がおにぎりを落として友達に色々貰っていた事。

初めて学校に触れて初めて彼の日常に触れた。

『そうなんだ』とか『本当に?いいなぁ』とか羨ましくて仕方がないのと彼と一緒に学校生活を送りたい気持ちが悔しさと寂しさになりながら言葉に表れる。


自然と涙が出た。


『藤沢さん?どうしたの?』

彼は優しかった。

『ううん、何でもない…』

涙声でも必死に涙を止めようとしていた。

『あ、あれか?俺なんかしちゃった感じ?…ごめん』

『違うよ…』

『本当に?どうした?何か…あった?』

彼の優しさは私をゆっくりと、確実に包み込む。

だけど、それが壊れるのが怖くて優しさに甘える事ができなかった。

『ううん、大丈夫だよ、ごめんね…』

その後は彼の心配をよそに学校の話に流れを戻し電話を終えた。


何で泣いたのかわからない。

ただ、ママが買い物に出掛けていて良かったと…心配かけずに済んだと安心感を探し、自分を抑えていた。

電話を終えて10分ほど放心状態が続いていた時に彼からメールが来た。


--------


突然電話して、ごめんな

急に泣くからビックリしたよ…

何かあったらすぐに言えよ

相談にのるし、力になりたいからさ。


國分 隼人


--------


彼の言葉には優しさがあって、それに力があって…

私には無いものを沢山もっていて…


羨ましかった――


学校に行けて普通の生活が出来て、それに私に無いものを沢山もっている彼が羨ましかった。


だんだんと彼に惹かれていく自分…

初めての感覚に戸惑いと恐怖を覚えていた。


月が欠けていく、まるで命が欠けていくかの様に…


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