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[03]

ママの作るカレーが一番好き。

パパもママのカレーを食べると

『ママのカレーを食べると一日の疲れが吹き飛ぶね』

って笑顔で話す。


カレーを食べ終わり、ソファに座りクッションを抱えテレビをぼんやり眺めていた私にママが突然口にした。


『未歩、体は大丈夫?』

どうしたの?突然――

『何で?大丈夫だよ』

笑いながら返答した。

『未歩に、そろそろ話さないとね…病気の事』

『………』何も言えなかった。

ママの姿を見ずに耳だけをママの方向に傾けていた。

『未歩の病気はね、肥大型心筋病っていう心臓病なの、原因は不明なんだけど…心臓の筋肉が厚くなってくる病気でね、心室って所から血液が出る出口が狭い状態で、肥大型閉塞性心筋病って言われてる、この肥大型閉塞性心筋病は…』

ママは話を止めた、何かを抑えている様に思えた。

ママの方を向いて

『どうしたの?ママらしくないよ、ちゃんと話して…』

ママはうつ向く体を起こし私の方を向いて再び口を開いた。


『そうね…』一言区切りをつけて一度深呼吸をした。

そして続きを話し始めた。

『その肥大型閉塞性心筋病はね"突然死"する場合があるの…症状は、ある人、無い人が居るんだけど、まず、動悸と目眩、胸部圧迫感と胸痛、そして疲労感…今、治療方法は内服薬しかなくて…未歩には辛い思いをさせてるのは重々承知してる…何にも出来ないママは悔しいよ…』

ママは涙声で私に話した。


私は泣かずにママの方を向いて

『大丈夫だよ』と一言告げた。

強がった、強がるしかなかった。


突然"死"――


そういえば幼稚園に行っていた頃、走り回って苦しくなり倒れて、病院に運ばれ一週間近く入院した事があった。


『でもねママ…今は元気だから』

私は元気をアピールするかの様に母に告げた。


『そうね…これから未歩はもっともっと元気にならなくちゃね、だから一日一日を大切に過ごそうね…』


何故かママの言葉に重みを感じた。

きっと病気が良くなってないんだ、逆に悪くなってるんだと言わんばかりに重さを感じた。


『大丈夫だよ、一日一日、元気で過ごしてるもん』

不安で満たされた心の中から無理矢理、光を掴んだ様に言葉を探した。


でも心の奥底では

光なんて見つかるはずがなく、ただ"死"という言葉から逃げる様にテレビに目を向けた。


そんな私にママは

『ママはね、未歩に元気な姿で学校行って、元気な姿で帰って来てほしいの、家にいても心配がないように…今は心配ばかりだし、だから本当に元気になったら、学校行こう…ね?』

ママは無理矢理自分を納得させている様に見えた。


本当は周りに居る普通の子と同じ様に一日一日を過ごさせたいはずなのに、それをしてあげられない罪悪感と、代わってあげられない辛さを胸に閉じ込めている感じがした。


私は苦しかった。


もう、我が儘言っちゃ駄目だって…苦しんでいるのは私だけじゃなくママも私以上に苦しんでいると、やっと少しばかり理解できた。


『元気になったら学校行くから、それまで頑張るね』

私は母にそう告げてテレビを消し部屋に戻った。


夜が長かった、月は相変わらず夜の空に存在を型どっている。

知らない間に眠りに堕ちて、7時にセットされている目覚まし時計に起こされた。


今日も変わらず彼を見送った。

少しづつで良いから彼との距離が縮まれば…まるで月と私の距離が…彼と私の距離を、未来と私の距離を示している様に昨日の月を思い出した。

綺麗な満月だった。


彼の後ろ姿を見つめ

『行ってらっしゃい』

小さく手を振る私は少しだけ震えていた。


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