[02]
ママと喧嘩した。
原因は私の発言から、30分位前に勃発した。
病院から帰り上着を脱いでマスクを外し、少し落ち着いた頃だ
台所で夕食の準備をし始めた後ろ姿のママに、私はぼやいた。
『ねぇ…ママ、あたし学校行きたい。』
と、本心だった、当たり前の生活が出来ず、普通を普通に出来ない暮らし、そして学校に行けば彼に…國分って苗字の彼に会える、そんな思いからの発言だった。
だけどママは
『駄目よ、まだ未歩は体が弱いんだから。』
いつもそうだ、いつもの様に否定された。
どうして―? 私は元気だよ、ちゃんと生活してるよ?病院だって本当は一人で行けるんだよ―
そんなママの発言に苛立ちを覚えた私は少し強い口調で反抗した。
『あたし、学校行きたいよ…普通の子と同じ様に学校行って勉強してお昼にお弁当食べて休み時間に話したりしたいよ…』
ママは私の言葉を聞きながら包丁で何かを切っていた、でも何も答えてくれない。
ただ包丁がまな板に叩きつけられる様な音が二人の間に響いていた。
『ねぇ…ママ』
再びママに問いかけた、すると
『元気になったらね、未歩が元気にならないと、未歩自身が辛いでしょ?』
ママはまた、いつもの様に返答する。
『あたし元気だよ!!こうやって、ちゃんと生活してるもん!!』
そうじゃない、その言葉がほしいんじゃないよママ―
少しくらい認めてよ―
『未歩、我が儘言わないで、貴女の為なんだから』
『あたしの為なら学校に連れてってよ…』
そこで会話は途切れた。
私はその場から逃げる様に二階に駆け上がって部屋に引き込もった。
ベッドに入り暗闇の中、月がそっと部屋の中に明かりを注いでいる。
私は詳しく自分の病気を聞いた事がない、知ってるのは心臓病って事だけで、それ以上は何も聞かされていない。
私は私の体が嫌いになった。
いや、元々嫌いだから更に嫌いになった。
もっと元気な体だったら―
普通の子だったら―
自分を責め続けた。
少し長い間、泣いていた気がする、無意識に涙を流し、無意識に時間の流れを忘れていた。
そろそろご飯が出来る頃だ、お腹空いたなぁ―
するとママが二階に上がって来た、階段を上がってくる音が微かながらに聞こえた。
部屋の前まで来ると
『未歩、ご飯食べよ、今日は未歩の好きなカレーライスだよ』
ドア越しにママが私に呼び掛ける。
食べたい―
『未歩、出ておいで』
ママは再び心配した声で私に呼び掛ける。
『未歩…』
小声だけど聞こえた、ママが私の名前を呼んだ事を
涙を拭いベッドから出て、トボトボとドアへ向かった。
鍵を開けてドアノブに手をかけ暗闇の部屋に人工的に造り出された明かりが入り込む。
『未歩…さぁ、一緒に食べよ、もうすぐでお父さん帰ってくるから』
ママは笑顔で私を見つめていた、でも少し、目が赤く見えた。
うん―
軽く頷きママに背中を押されながら一階のリビングに向かった。
テーブルの上に用意されていたのは、私の大好物のカレーだった。
気付けばお腹はカレーを求め泣いている
私は静かに椅子に座り
『いただきます』と一言告げ、カレーを口にした。