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賑わう景色に煌めく蜉蝣の様な儚い光が、一つ一つと点滅して木々や屋台に何度も何度も光を主張していた。


手を繋ぎながら暗くなった寒空の下、沢山の人達をすり抜けて公園の中心にあるクリスマスツリーを目指していた。


『体調は大丈夫か?』

華やかな景色を眺めていると隼人くんが話しかけてきた。


『あ、うん大丈夫、今は全然大丈夫だよ』

今日一番の笑顔を彼に見せた、彼は安心した様で笑顔で返してくれた。


『そう言えば、夜飯食べてないんだよね…』

思いついたかの様に彼は言う

『焼きそば食べるけど…食べる?』

目の前に現れた焼きそばの屋台の前で立ち止まり私に問いかけた。

『少しもらおうかな…』

そう私が言うと。

『んじゃ買ってくるわ』

そう言って屋台に向かって走って行った。


彼の後ろ姿は他の人より何故か大きく見えて、出来る事なら後ろから永遠に抱き締めていたい不思議な光景だった。

いつも人の後ろ姿ばかり見てきた私には初めての感覚で、本当なら後ろ姿に手を振り、後ろ姿に羨ましさを覚えていた。

いつもそう、友達の後ろ姿を見ていた、学校に行けない私を独り置いて後ろ姿だけ見せて去って行く…そう思い出すと少し恐怖が込み上げてきた、彼もいつかは後ろ姿だけを見せて去って行くのだろうかと。


そう物思いにふけっていると彼が走って戻って来た。

『ごめん、ごめん、並んでてさぁ』

『大丈夫だよ、座って食べよっか…歩きながらだと食べにくいでしょ?』


辺りを見渡すと一ヶ所だけ空いているベンチを見つけ、そこに座った。

『んじゃ、いただきまーす!!』

手を合わせ、そう言うとプラスチックのパックを開け焼きそばを食べ始めた。


『少しちょうだい』

そう言って私も少しもらった。

初めての屋台の焼きそば、家庭料理では作り出せない曖昧な雑さが何ともたまらない、味付けも良いし"焼きそばってこんなんだっけ?"と思ってしまった。


『そう言えばさ、小学5年の頃かな…夏の祭りでさ、友達と行って、今年は何か記録作ろうぜって話になってさ』

彼は焼きそばを見て思い出したかの様に語りだした。

視線は先ほど買いに行った焼きそばの屋台を見つめ、何故か幸せそうな横顔が可愛く見えたのは私だけだろう。


『記録?なんの記録?』

『なんでも良いんだよ、何か商品を当てるとか、かき氷を沢山食べるとか』

やはり楽しそうに語り始める。


『へぇー…それで?』

私はその楽しみに触れてみたかった。


『あ、それでさ、俺はそん時めっちゃお腹空いてたからさ、"この祭りに出てる屋台の焼きそばを全部食べ尽くす"って言っちゃってさ』

幼い記憶の中の情けなさと今では良い思い出なんだ、と言わんばかりに、焼きそばを口にした。


『えぇ…本当に?結果はどうだったの?』

『見事に制覇…って言いたかったんだけど…祭りの通りから少し離れた場所にも焼きそば売っててさ…帰りに気付いたから記録は残らず…でも未だに友達とその頃の話すんだよ、"あと一個だったのにな"ってさ』

普段無口な彼も、思い出話しに花を咲かすと止まらない。

だけど、それが嬉しかった、喋ってるとかでは無く、私の過去の穴埋めをしている様に思えてなからなかったからだ。


『へぇー…何かコメントしずらい』

『だろうね』

と言ってお互い笑った。


彼の過去には私は居ない、同じ様に私の過去には彼は居ない。


今、成長した私達には過去があり、それを人に話し、共有する。

思い出とは悲しみや喜び、涙や笑顔が沢山詰まった"個人の宝物"なんだ…と彼の焼きそば記録話しを聞いて、ふと思った。


目に見えなくて触れられない宝物と目に見えて触れられ傍に居られる宝物、目に見える宝物は、いつか過去にならない様に大切に愛を注ぐ、そしていつか、お互いの昔話に花を咲かせ共有しあう。

元々共有していた物を二人で語る事で再び輝きを増していく、私は彼との想い出に沢山の輝きと幸せを増やし、共有していきたい…そう思った。


そう思うとお祭りを彩る多彩なネオンは思い出に飾り付けをする額縁の様に思えた。

彼の横顔は笑顔のまま、焼きそばを食べている、ふと見ると、紅生姜は苦手なのか一本一本綺麗に省いている。

こんな些細な出来事も、何十年後、二人だけで笑顔で話せたら…きっとその時が"一番幸せな時間"なんだろうな、と思いながら彼の横顔を眺めていた。



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