[17]
きらびやかなベルの音、静かに降る遠い街の雪
総てが重なって今日が来た。
クリスマスのお祭り当日――
朝から天気は快晴、ママは前日、当日と準備で大忙し。
『じゃぁ、ママはもう行くから、隼人くんと楽しんでね』
『うん、ママも無理しないでね』
『大丈夫よ、じゃぁ行って来ます』
『行ってらっしゃーい』
玄関でママを見送る、ドアを開けた時に冷たい風が家に流れ込んだ。
今日も寒い。
お祭り開始は午後4時から、隼人くんは3時には迎えに来てくれる。
現在午前10時過ぎ、まだまだ時間はある。
とりあえず部屋に戻り服を選んだ、着たり脱いだり着たり脱いだり、鏡でチェックして選んでみた。
『久々のデートだし…』
黒のTシャツに少し胸の開いた白の長袖のシャツに冬用のカーディガンにジーパンを履いて、コートを着れば良し…
何度か悩んだ末にやっと決まった
しかし時刻はまだ11時前
『んー…暇だなぁ…』
そう思った時に急にお腹が鳴った
『お腹すいたなぁ…少し早いけどご飯食べようっと』
散らかした服をたたみ、タンスに入れて、台所に向かった。
窓から映る景色はきらびやかで、クリスマスらしく様々な色が瞳に流れ込む。
まるで沢山の色が洪水を起こしているかの様だった。
昼食を済ませテレビを見ながらうとうとしている時だった。突然携帯が着信を知らせる。
『もしもし?』
『あ、俺、隼人…もう少しでそっち向かうからさ、準備しといて』
『うん、わかった、待ってるね』
そう言って会話を終わらせ電話を切り、用意しておいたカバンやコートを手にして玄関で待った。
『あ…』
振り子時計の様に意識が揺らぐ
『また目眩だ…』
目を瞑りぐっと堪える。暫くすると目眩はなくなり正常に戻る、しかし彼女には正常なのか、それとも正常じゃないのか、理解するのは難しかった。
ブレーキ音と共にインターホンのベルが鳴る。
目眩で倒れ力の抜けた身体を起き上がらせドアを開けた。
『よっ!久しぶり』
彼は相変わらず笑顔だった。
『久しぶり…』
『……顔色悪いぞ?大丈夫か?薬飲んだ?』
『うん…大丈夫…』
しかし彼は心配そうな顔つきをしていた。
『とりあえず心配だから一回中で休もう、まだお祭りまで時間あるし…』
『でも…』
『でもじゃないよ、体調悪化したら意味ないだろ?それに無理してもお互い楽しくないしさ』
優しい…優し過ぎる――
本当に無慈悲に甘えてしまう…いつも力になってもらってばかりだ…
そう思いながらも彼をリビングに案内しソファに横になった。横になりながらも彼は傍に着いてくれた。
『喉は渇かない?大丈夫?』
『うん、大丈夫、ありがとう…それにごめんね…心配ばかりかけちゃって』
『何を言ってんのさ、未歩ちゃんの元気な姿が生き甲斐ですからね』
リビングには二人の会話とテレビの雑音が入り混じる。
何故だかわからないが、鼓動は高らかに速度を上げている、久しぶりだから…違う、少しばかり今日は特別だから…そう思うと彼の傍に居れる事が安らぎに安心に思えてきた。
彼の背中は細々しくて何だかひ弱そうな体格をしているが、心が強い…そう改めて思えた。
時刻は既に4時に近づいた。すっと身体を起き上がらせる。
『もう大丈夫だから、お祭りに行こっか』
『本当に大丈夫か?あんま無理すんなよ…』
『大丈夫!!大丈夫!!』
先ほどより空は暗くなり12月の空らしく夜になるのは早かった。
久々に外に出て空気を吸うと、何だか生まれ変わった気持ちになる。
部屋の空気と冷たい外気を入れ替える様に深く、そして柔らかな深呼吸をしてみた、すると身体の気だるさもなくなり新鮮な気持ちになれたのは何だか不思議だった、まるで小さな魔法をかけられたお姫様の気持ちに近いのかな…と考えてしまった。
自宅から暫く歩くと人が沢山集まっていた。
若い人や子連れの人や老人、夫婦…クリスマスというイベントは子供だけじゃなく少なからず多くの世代に夢を与えるのだと初めて目にした。
公園入口に近づくとママが待っていた。
『遅かったじゃない!!心配しちゃって此処まで来ちゃったわよ』
『ちょっと休んでたら遅れちゃって…』
『愛しの隼人くんに介護してもらってたのね…幸せな事』
隣で彼は苦笑いを浮かべた。
『じゃぁ今日はよろしく頼むわね隼人くん』
『あ、はい』
『何かあったら未歩の携帯から連絡して頂戴ね、すぐに向かうから』
『わかりました!!』
『じゃぁ、仕事に戻るわね』
『頑張ってねぇ』
手を振りながらママを見送った、きっとぶらぶらしてればまた会う事には変わりないのだが。
公園の入口にはクリスマスパーティーと書かれた門があり、中に入るとお好み焼きやたこ焼きや、夏のお祭りの様な光景が広がる、中央にある大きな木はクリスマスツリーに変わり光を点滅させ鮮やかな色を振り撒いていた。
ふと空を見上げると月は下弦の月になり僅かな静寂だけを求めている様に見えた。
『とりあえず…あのクリスマスツリー目指しながら、ぶらぶら歩くか』
彼はそう言うと私の左手を握り歩き始めた。