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月曜日の朝は、鮮やかに晴れた、澄んだ青。

きっと絵具でどんなに作り出しても表す事は出来ない綺麗な青。

目覚めたばかりの私の瞳には新鮮に思えた。


あと少しで彼が登校する。

パジャマに一枚セーターを羽織って、窓を開けた。

『うぅ…寒い…』

冷たい風が窓から部屋に流れ込む、肌に当たる微かな冷気が体温を奪おうとしていた。


『あ…』

まばらに登校する人達の中に、自転車に乗った彼は来る。


スッと自宅前で自転車を止めて私の方向を見上げる、笑顔で手を振った。

『行ってらっしゃい』

と口で表現したら彼は笑顔で頷いて自転車に乗り学校に向かった。


少し寂しさもありながら彼を見送る。


12月の世界は、総てが寒い訳でもなく、総てが暑い訳でもない。

だから雪が降る所と降らない所、同じ世界なのに総てが違う…。


だけどきっと私と彼は同じ気持ちであると願うばかりだった。


でも不安がまた襲ってくる。

私は学校に居ない、だけど彼は学校に居る、そう、私以外の女の子が沢山いるんだ。

他の女の子と話してるなんて…私には辛かった。

私は彼以外に男の子と話した事が無いから異性に対しての気持ちがはっきりしないのだ。


『はぁ…』

ため息と同時にベッドに座り込む

『何考えてんだろ…』

そう思い机に置いてあった読みかけの小説に手を伸ばした時


あ………――。


目眩が私を襲った。

頭が重い…ボーッとする…何だろう…。


ほんの一瞬の出来事だった。


………―――。


『とりあえず、本読んで安静にしとこう』


しおりを挟んでおいたページを開き文字に目を当て、上から下へ、行をずらし上から下へ…その一定の行動を繰り返す。


何時間…何十分…どれくらいその行動を繰り返しただろうか。


『未歩ー』

ママが呼んでる。

『はーい?』

小説にしおりを挟み部屋を飛び出した。

リビングに向かうと

『今日病院でしょ?早く用意しなさい』


あ…そうだ今日病院だった――


時計を見ると11時近くになっていた。


『随分長い間、小説読んでたなぁ…』

『ん?どぉしたの?』

『ううん、何でもない、今用意して来るね』

そう言って二階に駆けあがり服に着替えた。

ちゃんと砂時計のネックレスをつけて。



バスから眺める景色は変わりなく、のどかで平凡な日常が続いてる、窓側の席で町を眺めている私は、その平凡な日常の中で生活している。

何だか小さな幸せを見つけた。


診察はすぐに終わった、ママとの面談みたいなものも早く終わり

『よし、ファミレスでも行くか』

『本当に?やったね』

あまり外食が出来ないから嬉しかった。


暫く歩いてファミレスを見つけて中に入った。

小さい頃に一度だけ、そう確か一度だけ来た事があった。


『ねぇ、ママ』

『ん?』

メニューを眺めながら答える

『ここって、小さい頃に一度だけ来たよね?』

『あ、覚えてた?』

『そりゃ、数少ない外食ですからね』

久々の外食、何だがテンションが上がる。

お互いオムライスとドリンクバーを頼み、お互いウーロン茶を飲んでいた。


『前来た時はさ、お子さまランチのラーメン食べてて、食べながらくしゃみして大変だったぁ』

『えぇ!?そんな事あった?全然覚えてないよ』

恥ずかしながらも、大切な思い出、顔が暑い…きっと赤いんだろうな。

『それに眠かったのか、アイス食べながら寝ちゃって、アイスに顔突っ込んだんだよ』

『本当に!?』

『これは嘘』

『どっち!?』


たわいない冗談も久々に思えた、こんな時でないと、こんな時間を持てない、もし私が元気な子なら、買い物に出かけたり、少し遠出したりして、ママとの時間を大切にするのかな…とふと思った。


オムライスが運ばれて来た。

『いただきます』

お互いそう言って食べ始める、でもやっぱりママが作るご飯が一番だと、オムライスを味わいながら思っていた、でもたまには、ママ以外が作ったオムライスでも美味しいかな…


食べ終えた後にママが話をきりだした。

『最近体調はどう?』

『今朝目眩があったくらいかな』

『えっ!?大丈夫!?他は無いの?』

やはりどんな些細な事でも心配になるものなんだと、改めて思った。

『大丈夫だよ、本当一瞬だったし…それより、診察の結果はどうだったの?』

ママの心配を他所に話を変えた。

『あ、うん…良好だって、前回よりも元気になってるって先生が言ってたよ』

『そっか…ならクリスマスのお祭りは安心して行けるね』

『でも無理はダメよ』

やっぱり心配症は変わらない。


でもきっとそれは、ただの心配症ではなく、私の身体の事を理解し、知っているからの行動だと、私もわかっていた、だけど"普通の女の子"に憧れてしまう。


再びバスに揺られ家路に向かう、窓から見える人達の中に、女子高生の姿が見える。

窓ガラスにオデコをつけ、横目で女子高生を追ってしまう。


私はいつか、あの様に…可愛い制服を着て可愛い姿で、街中を歩けるのかな―――


そう思いながら気付けば私の左手は砂時計のネックレスを握りしめていた。



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