[15]
風が通り過ぎる様に日もまた過ぎて、気付けば私達二人は、初めてのクリスマスを迎えようとしていた。
隼人くんが言うには
『街中の商店街とか駅前とかさ、もうクリスマス一色だったよ、駅前にある大きな木なんてクリスマスツリーになってたしね』
私は彼から砂時計のネックレスを貰った初デート以来、外には出ていない。
体の方も回復に向かっているのだが、隼人くんの方がテスト試験や学校行事の事で忙しく、なかなか会う機会が作れなかった。
『髪もだいぶ伸びたなぁ…』
毎朝鏡を見ながら思う。
基本髪はママが切ってくれる。
パパと結婚する前に、アルバイトで美容師のアシスタントをしていたらしく、先輩に切り方やコツを教わってもらったらしい。
何気に上手く、髪を切る度に
『もしかしたら、美容師免許一発で取れるかもね』
と鼻歌まじりで自慢する程だ。
そんな事を思いながらテレビを眺めていても、どの番組もクリスマスの特番ばかり、正直私はつまらなかった。
毎年毎年、家で過ごしていたクリスマス、その時にこの特番を見ていたら…行きたいとか羨ましいとか思えただろう
しかし今の私には町内会の開くクリスマスのお祭りの事で頭がいっぱい、他のクリスマス特集なんて、そのお祭りより下の存在に見えて仕方がなかった。
時刻は午後4時。
彼が帰ってくるまで、まだ暫く時間がある…。
ママは買い物、パパは海外出張、家には一人、テレビはつまらない。
『最悪』
何故かわからないが、そう一言口から溢れた。
そんな時に携帯が鳴った。
『ん…?』
隼人くんからメールだった。
『一番星、綺麗だぞ』
と一言。
それを読むと窓を開き空を見上げようとした時に
彼は自宅の前で笑顔でいた。
『な、何してんの!?』
私の驚いた顔を見て、してやったりとした顔の彼は
『ん?ちょっとね、学校早く終わって、起きてるかなぁって』
『あのね、私そんな毎日毎日寝てないよ』
『どうかなぁ…』
と笑いながら彼は言った。
久々に会った、久々に顔を見た、久々に声を聞いた、久々に彼の笑顔を見た。
久々過ぎて何だか懐かしくも思える。
『あんさ、クリスマスのお祭りの事なんだけどさ』
『うん、なに?』
『早めに迎えに来ても良い?』
初めて彼の積極性を感じた一言だ。
『うん、いいけど…どうして?』
『たまには長く居たいし』
小声になった彼の照れた言葉に喜びが込み上げた。
嬉しい――
『うん、早めに来て』
私もそれに答える様に言葉を返した。
『わかった!!…んじゃぁ、そろそろ帰るよ、お袋怒ると煩いし、また帰ったら連絡する』
そう言うと自転車に乗り手を振りながら走っていった。
私は笑いながら彼を見送った。
暫くしてママが帰ってきた。
『ただいまぁ』
スーパーの袋をガサガサ言わせながらリビングに入って来る。
『あ、お帰り』
『あら、何か顔が赤いけど…』
『えっ?えっ…へ?』
動揺しながら笑顔がもれる
『何か良い事でもあった?…あ…隼人くんか』
笑いながらママは言う
『まぁねぇ』
少し自慢気に言う私。
そんなやり取りも久々だった。
今日も今日で久々な事が時間的には遅くても沢山生まれた。
彼から連絡が来たのは30分くらいたった時だろう。
『ごめん、連絡遅れた』
電話ごしに少し焦る彼の声が私の耳に流れてくる
『大丈夫だよ…何かあった?』
焦る彼に問いかける
『姉ちゃんとお袋が喧嘩だよ…親父は風呂に避難、俺は部屋に避難』
『あらら…原因は?』
『知らねぇよ、姉ちゃんは姉ちゃんで言い分があるみたいだし、お袋もお袋で言い分があるみたいだし…原因すら今じゃ闇の中だな』
笑いながらも、困ったという感じが声に伝わってくる。
『そっかぁ…何か大変だね』
笑いながら答えた
『未歩ちゃん、若干楽しんでないか?』
『だって私、兄弟とかいないし…逆に羨ましいよ』
『そうか?微妙だぞ…ちょっ姉ちゃん!!』
『――?』
突然受話器越しにガチャガチャと音がすると
『未歩ちゃーん』
隼人くんのお姉さんの声に変わった
『あ、お姉さん、こんばんわ』
『あ、こんばんわ…じゃなくて…ちょっと聞いてよ!!』
それから2時間、お姉さんの愚痴を聞いていた。
内容は隼人くんのお母さんのプリンを食べたか食べてないかだった。
正直、呆れるよりも楽しくて仕方がなかった。
お姉さんとの会話の途中途中で隼人くんが何とか電話を取り返そうとするが結局不可能で
『あぁもう!!』と怒っているのが聞こえた。
兄妹って時に邪魔で時に必要で、居るのと居ないのでは、やっぱり生活が変わる。
私は兄妹という存在に羨ましさを感じた、隼人くんが本当に羨ましい…
お姉さんと隼人くんが電話を変わってからは、隼人くんの愚痴を聞いて、笑って笑って沢山話した。
とりあえず愚痴を聞いて、クリスマスの事や学校の事、隼人くんのおばあちゃんの事、何だか久々にこんなに長く話せた気がする。
気付けは時刻は22時近くになっており、隼人くんは明日学校だからと、私から電話を切った。
だって、寝坊したら悪いし、毎朝の日課が少し遅れてしまう。
電話を終えて窓を見上げた。
今日は欠け始めた月がゆっくりゆっくりと沈んでいる様にみえた
そして何故か、その月の姿が、私の命に…似ている様な気がした。