[12]
時の流れは一定で、なおかつ紺碧の満月は姿を隠す喫茶店
私と彼は飲み物を飲みながら微かな時間を満喫していた。
『二人は仲良いね』
マスターはしみじみしながら、羨ましそうに言った。
『あんまり会えないからね、デートも初めてだし』
『そうなの?』
グラスを磨く手が止まる
『私、体が弱いんですよ…やっと外出許可が病院から下りたんで』
『大変だね…隼人、ちゃんと守ってあげるんだぞ!』
マスターは少しばかり怖い顔で隼人くんを凝視した。
『わかってるよ』
投げやりな言い方だったけど、守ってくれるって気持ちだけて嬉しかった。
自然に逆らう事なく時は進み喫茶店を後にした
マスターは
『初デートなんだから、代金はいらないよ…御幸せに』
と言って代金を受け取らなかった
『本当に良かったのかな?』
『あぁ言う人だからさ…何かと代金はいらない代金はいらないって言うから…それでも潰れないのが不思議だよ』
笑いながら彼は言う。
『そっか…』
少しばかりの申し訳なさと、感謝を感じながら商店街を歩いた。
沢山のお店が立ち並び沢山の人達で賑わう商店街を抜けて少し歩いた所に公園があった。
4つの大きな池があり、それぞれに遊具や池の名前が違う、周りに咲く花も違うらしい。
『ここの公園は餓鬼の頃から遊んでるんだ、花見とか祭りの帰りとか、夏は虫取ったり』
『虫!?…男の子だねぇ』
苦笑いしながら彼を見た。
もちろん私は虫が大の苦手である。
『そんな顔すんなよ』
笑いながら彼は話した。
『暇だったし、じっちゃんに連れて来られてさ、近所だから通いやすかったし』
そう言うと道の端にある駄菓子屋に入っていった。
『あら、隼人じゃないか、いらっしゃい』
優しそうなおばあちゃんが笑顔で話しかけてきた。
『ばあちゃん久しぶり!!』
まるで隼人くんの本当のおばあちゃんの様な穏やかな関係だった。
『あら、珍しいね女の子とは…彼女かい?』
『まぁね、散歩がてら色々案内してるんだ』
商品を選びながらおばあちゃんに話している。
『はじめまして、未歩です』
私は小さくお辞儀をした。
『礼儀正しいねぇ、未歩ちゃんかい…可愛い名前だ』
隼人くんはお菓子を選んで買って袋に積めて『ベンチで食べよ』そう言うとおばあちゃんに手を振って、私の手を掴み歩き出した。
『優しそうなおばあちゃんだね』
羨ましそうに言ってみた。
『あぁ、あれ俺のばあちゃん』
『え…本当に?』
目が点になった、まるでアニメの様に…実際なってはいないが
『本当だよ、親父方のばあちゃんで、じっちゃん亡くなってから、あの駄菓子屋引き継いでやってんの』
『そうなんだ…』
そういえば少し隼人くんに似てたかも――
広場の一角にあるベンチに座り駄菓子屋で買ったお菓子を取り出す、中にはパンのお菓子が入っていた。
『これ好きなんだぁ』
彼は嬉しそうに食べる、初めて彼の食事姿を見た。
今日は本当に初めてな事ばかりだ―
『いただきます』
そう言って、私も食べてみた
砂糖が良い具合に効いている飽きのこない味――サクッとした揚げパンの様な生地に振りかけた砂糖がたまらなく美味しかった。
『美味しい』
思わず口に出てしまう程、美味しかった。
『だろ? これが好きで良くここの公園に来るんだ』
彼はまた一口食べて空を眺めた
雲一つない綺麗な冬空
広がる青が眩し過ぎるくらい清々しくて、鳥達がじゃれているかの様に飛んでいる。
『そろそろ家に行くか、寒くなってきたし』
彼は腕時計を見ながら立ち上がった。
ゆっくり 確かに彼の家へ一歩一歩歩き出す。
公園からさほど遠くない静かな住宅地に彼の家があった。
『ここ…本当に部屋汚いよ…』
彼は念を押して私に言った。
『いいのいいの、私が片付けてあげるから』
そう言うとゆっくり玄関に向かう、鍵を開けドアを開けた。
『ただいま』
すると奥の方からチラッと顔を見せた女性が居た。
『あ、おかえり』
そう言うとまた部屋に戻って行った。
玄関に腰かけた彼が
『あれ姉貴』
と靴紐を解きながら言った。
『さ、部屋行こうぜ』
私も靴を脱いで
『お邪魔します』と一言告げた。
玄関脇にある階段を上がろうとした時に
『あ、彼女?』
後ろからお姉さんの声がした。
『あぁ』
と彼は冷たく告げて二階に上がる。
『いらっしゃい、ゆっくりしてってね』
お姉さんは笑顔で私に行った。
『あ、はい…お邪魔します』
軽く頭を下げて彼を追った。
隼人くんのお姉さんは綺麗だった。
髪を一つに束ね、白い可愛いTシャツを着て黒のジーパンを履いていて、背は隼人くんの少し上で、多分化粧はしてないけど、目が大きくて鼻筋も通ってて、アヒル口
鼻とアヒル口は彼も似てる。
家族、姉弟…自分が無いものばかりを持っている彼が本当に羨ましかった。
だけど、それを横取りしようとか嫉妬するとか…そんな感情よりも、どんどんどんどん惹かれていく…
止められない、ただ一途な感情だけが彼に向いて行く。
初めての気持ちに更に不安という重みがつけられ、苦しくなる泣きたくなる…
離れたくない
そんな感情を彼の背中を見つめながら堪えていた。