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私は一人だった

子供の頃からずっと

絵本に出てくる小人や白馬の王子さまに憧れた事もあった。

あんな素敵な人達と遊べたら、あんな素敵な人に巡り逢えたら


だけど孤独じゃなかった


ママもパパもいたし、幼稚園だってちょくちょく行ってたし


でも寂しさは感じていた


孤独じゃないけど寂しかった

窓から見える同い年の子をみると寂しさを感じた。

言葉で表現する事の出来ない、胸の奥の(わだかま)

決して解く事の出来ない黒い糸が心に絡み付いて離れない…


だけど中学1年生の冬で総てが変わった気がした。

壁があった学校、壁があった友達、縁もない初恋

総てが一つの糸に繋がれて黒い糸を解いてくれた。



朝日は冷たく…でも暖かい、そんな土曜日の始まり。



時刻は7:15分

いつもの習慣で必ずこの時間に目が覚めてしまう…待ち合わせ時間は13時、彼が迎えに来てくれる。


早々と目覚めてしまった私にママは笑顔で

『おはよ、ご飯食べて顔洗ってらっしゃい』

と言ってくれた。

『うん…わかった…』眠気をうったえる目を擦り、あくびをしながら椅子に座った。

即座にテレビをつけて朝のニュースを見ながらご飯を食べた。


いつもと変わらぬ朝

だけどいつもと違う気持ち


春はまだ遠いけど、桜色の心が咲いていた。


テレビのニュースは芸能関係で離婚、結婚、出産と様々な情報が公開されていく。

最新の曲や今日の占いや天気、情報は止まらず公開されていく。


気付けば8時を過ぎていた。


立ち上がりお風呂の準備をして着替えを用意した。

今日の服は一番お気に入りを選んで


お風呂から出ると9時過ぎ

服に着替え、まだ湿っている髪を乾かし

再びテレビを眺めた、バラエティ番組がこの時間の定番で、ある番組のコーナーでゲストを読んでトークする番組を眺めていた。

ゲストは私の一つ上の女の子で、とっても美人で、とっても可愛かった。


いいな――


女優等に縁も所縁もない私には別世界だった。


彼女はクリスマスから公開される映画の主演女優で、もともと小説だった物を作品に作りあげた。

その小説は私が読んでいた小説で、嬉しかった。

同じ様に共感してくれる人が居たんだ――と


時間もまだあるし――小説読もう――


部屋から小説を持って来てリビングのソファで横になりながら読み始めた。


こういう作品が映画になるんだ――

私も書けるかな――


突然の思いつきが私を強くしてくれる

まだ"夢"とは決まっていないけど"小説家"という存在が、私を未来に連れて出してくれる感じがした。


やがて12時を回り

『未歩、お昼ご飯作るの手伝って』

と言われたので台所へ向かった。

今日はオムライス

ふわっとした生地にケチャップライス

味は間違いなく美味しい。

お皿の準備をしてケチャップライスを作って、ママが作ったふわっとした卵の生地を乗せ、最後にケチャップを付けて完成。


やっぱり美味しかった。


オムライスを食べ終わり、少しゆっくりしていると、インターホンが鳴った。


来た――


私は素早く玄関に向かい扉を開けた

昼の陽射しと冬の冷たい風の中に彼がいた


『よっ!!』

彼はにこやかに挨拶をした。

挨拶らしくはないけど…

『今準備するから中で待ってて』

と彼をリビングに案内した

『お邪魔します』

彼の声を聞いたママが

『あら、いらっしゃい』

と挨拶をした

『今日は未歩をよろしくね』

『あ、はい』

彼は緊張しながらも笑顔で答えた。


そんな会話の中で私は部屋で上着を着てマフラーをしてカバンを持って下に下りて行った。


『お待たせ』

『大丈夫だよ、じゃぁ行こうか』

『うん、じゃぁママ、行ってくるね』

と手を振ると

『気をつけてね、何かあったら連絡しなさい、國分くん、よろしくね』

『任せて下さい!!』

と会話をして外に出た。


初めて隣に居るのがママではない事に新鮮な気持ちになれた。

朝とは違い、昼の陽射しは眩しくて、だけど冬の冷たい風と空気が存在していて。

まるで目覚めたばかりのお姫様が窓を開けて風を感じる様に私はそこにいた。


『まずは何処に行くの?』

今日一日は彼に任せると言っておいたので、彼の流れに任せながら今日は散歩する。


初めての散歩。

初めてのデート。


『そうだなぁ…とりあえず商店街辺りでもぶらついてみる?初めてだし、色々案内したいしさ』

『うん!!』


私の知らない場所、彼のお気に入りの場所へ歩き出した。


『寒いね』

彼は思い立った様に口にした。

『そうだね』

『手…繋ぐ?』

お互い照れ臭そうに、私は無言で彼が差し出した左手に右手を向けた。

『初めてだから緊張する』

私は赤くなった頬を隠す様に下を向きながら彼に言ってみた。

『俺もだよ…今日はきっと初めてがいっぱいだろうね』

彼は赤くなった頬を隠さず私の方を向いて笑顔で答えてくれた。


暫く歩いた

信号は赤で、青に切り替わるのを待っている。

『夏の祭りん時って、ここの道にお神輿が通るんだ、でっかいのとか小さいのとか』

『そうなんだ』

一見普通の道だし普通に家が立ち並んでいる、こんな場所でもお祭りの時は賑わうのか…"初めて"知った――


信号は青に切り替わり白と黒の横断歩道を並んで歩く。

"初めて"二人で横断歩道を歩いた。


どんな些細な事でも嬉しくて仕方がなかった。

今日は初めて記念日だな――

と心の中で呟きながら笑っていた。


横断歩道を渡り真っ直ぐ住宅地を歩く

すると、また信号があり今回は青で自然に歩いて行けた。

渡りきってすぐの所に商店街があった。

土曜日の商店街は主婦や子供連れの親子が沢山いて、私達はゆっくり中に進みながら歩いて行った。


そこに商店街には似合わない古ぼけた喫茶店がひっそり立っていた。


『ここ』

彼はその喫茶店を指差した


"喫茶 夏の風 揺れる帆"


『微妙なネーミングセンスだろ?ここのマスターの好きな女優さんの名前をもじったらしいよ』

説明は雑だったけどマスターの一途な思いが看板から感じ取れた。


ゆっくり扉を開けるとベルが鳴る――緩やかな優しい音。


『あ、隼人か…いらっしゃい』

マスターは45過ぎぐらいの男性でいい具合に歳を取った人

隠れ家てき喫茶店に隠れているイケメンマスター

素敵な街だと改めて思った。


何も言わずカウンター席に座る彼についていって隣に座った。


いろんな形のグラスにコーヒーの匂い、モダンでゴシックな店内に流れるジャズが心地よい

外の賑わいが嘘の様に店内はゆっくりとした時間が流れていた。


『彼女か?』

マスターは私に気付いた様に彼に聞いた。

『まぁね』

彼は静かに答えた。

マスターは私を見て軽く会釈する、それにつられて私も会釈する。

『マスターの西島です、よろしく』

『初めまして、藤沢 未歩です』

『未歩ちゃんか…可愛い名前だね』

マスターの笑顔は可愛かった。


『お二人さんは何飲むの?』

『俺はアイスティー』

『私は…』

メニューを見ながら迷う

『普段は何飲むの?』

彼は隣で興味津々に聞いてきた

『んーホットの紅茶…かなぁ』

『じゃぁホットの紅茶ね』

彼はマスターに言った。

『はいはい、少し待っててね』

マスターはゆっくり支度を始める


店内の流れはゆっくりで

ジャズが時間の流れを自然に、そして緩やかにしている。

喫茶店のイメージとぴったりの店内は雑音、騒音を消して一つの世界として存在していた。

店内の片隅に飾られた月の写真だけが唯一下界と繋ぐ架け橋みたいで切なかった。


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