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毎日を繰り返し、今を繰り返し生きている私に…毎朝、変わらぬ朝日が光を告げる。
夢の終わりと今日の始まり、きっと何処かで私を待ってくれている彼に挨拶をする様に。
あの日から時間が立つのは早くて、もう金曜日
明日は彼と初めてデートをする。
もちろん生まれて初めてのデート。
高鳴る気持ちと、少しの不安がぶつかり交差して、またぶつかる。
まるで永遠に降り続く雨が地面に落ちて、また水滴が地面に落ちて…を繰り返しているかの様に。
彼からの電話を待つ間の時間は日に日に長く感じた。
これも気持ちが強くなっている証拠なのか…私にはわからない、でも確かなのは
窓から眺めていた、あの日より今の方が彼を好きだって事、他はなんら変わりはない。
いつもの様に彼を見送り、朝食を済ませてテレビを眺めていた。
窓から降り注ぐ朝日は眩しくて、どこか切なくて…それでも朝を迎えたと感じさせてくれる。
きっと今、彼は学校でクラスの一人として勉強している――
どんな姿で、どんな姿勢で授業を受けているのか、私には想像ができなかった――
想像しようとしても、ドラマみたいに色々な展開がある訳じゃないから、イメージだけで何かを作り出すのは難しかった。
『未歩、ママちょっと町内会長さんの所に行ってくるね、お昼には戻ってくるから』
『うん、わかった―行ってらっしゃい』
年末年始は町内会で様々なイベントがあるが、私は未だに行った事がない
今年はいけるかな――
ママが家を出て静かになったリビングで入れたての紅茶を飲みながら小説を読んでいた。
ずいぶん前に買った物で、途中で終わってしまった物。
昨日少し部屋の本棚をあさっていたら見つけた、有名では無いけど作者が好きで、その作者の本はほとんど揃ってる。
テレビを消してソファに横になりながら読み続けていた。
小説を読むと無駄な思考に手を伸ばす事が無く、ネガティブになる事が少ない、不安も恐怖も読書の時間では頭の外。
まるで不安や恐怖の詰まった鳥籠から扉を開けて自由に空を飛び回る鳥の様に
気付けはお昼近くになっていた
そろそろママが帰ってくる―
紅茶を飲みほしコップを台所で洗い、小説にしおりを挟み途中で終えた。
『ただいま』
『あ、お帰り』
静かだったリビングに会話という音が混じり静寂を掻き消した。
するとママは思い出したかの様に口を開いた。
『そういえば…未歩は今年のクリスマスはどうするの?』
『どうするって言われても…別に何にも考えてないよ』
毎年毎年家でクリスマスを迎えていた私に"予定"何て考える習慣がなかった。
『じゃぁ今年は國分くん呼んで、町内会主催のクリスマスのお祭りに行ってみたら?近くの公園だし、ママも手伝いに行くから』
『うん、誘ってみる』
生まれて初めてのクリスマスイベント―――今年は何か…今までとは違う初めてが沢山つまった年になりそう――
夕方になり彼から電話がかかって来た。
『もしもし』
『今、学校終わって帰ってきたよ』
『お帰り』
『ただいま、あ…明日どうしよっか…俺が迎えに行くかたちで良いのかな?』
『うん、迎えに来てくれると嬉しいな…此処に住んで長いけど、あんまり街の事知らないし…迷ったら大変だから』
笑いながら、お互い待ち遠しい明日を幸せに過ごす為に色々話し合った。
『そういえばね』
と、私は先ほどのクリスマスイベントの話を切り出した。
『12月の24日25日に、町内会主催のクリスマスのお祭りが近くの公園でやるんだって…良かったら…一緒に行かない?』
少し不安だった
もし断られたら…彼には彼の都合があるし――
『いいね、行こうか』
彼は快く承諾してくれた
『ママが当日手伝いに行くみたいだから、何か情報入ったらすぐに知らせるね』
私は喜びを言葉に合わせながら彼に伝えた。
『わかった、とりあえず…外は寒いから暖かい格好して行こうね、明日もお祭りもさ…風邪とか引いたら心配だし』
やっぱり彼の優しさには敵わない
『うん、ありがとう、隼人くんもね』
『俺は日頃から暖かい格好してるから大丈夫だよ』
『でも風邪引いたら心配だよ…』
『ありがとう、でも大丈夫だから心配は無用』
彼は強い…そんな所も羨ましくて好きだ――
『うん、わかった』
『うん、あ…今何してんの?』
『今?電話しながらソファで寝てる』
『また寝てんのか』
『寝てるって言っても、ちゃんと起きてるから大丈夫』
『はいはい、まぁ元気ならいいか』
『大丈夫、元気だよ――隼人くんは何してんの?』
彼に返す様に聞いてみた
『CDあさってる、聴きたい曲の入ってるアルバムがどっかにいっちゃってさぁ』
電話越しにガサガサ音がしてる―
『なるほど…何か隼人くんの部屋って汚そうだよね…』
何となく彼の部屋を想像してみた
『掃除とか苦手でさぁ…CDとか雑誌が散乱してる』
と笑いながら彼は言った
『やっぱり…今度掃除しに行こうかなぁ…』
冗談混じりで言ってみた
『本当に汚いよ…それでも良いなら来る?』
『本当に!?なら行く!!』
『じゃぁ明日散歩するついでに家に来る?』
『うん!!』
彼の生活を知らない私には、やっと彼の日常に改めて触れられる
嬉しかった
早く明日になって――
と願い続けるばかりだった
暫く彼と話して電話を終えた。
気付けは外は薄暗くて
空は微かに茜色を残しつつ月を飾り付けていた。
時間は早くも感じるし、遅くも感じる不思議な物で
狂う事のない、ただ一つ決められた時間に逆らう事も出来ない
だけど、その時間の中で幸せを探し幸せを掴み幸せを胸にしまう、生きている事がこんなにも幸せだなんて初めて感じられた。
やがて空は茜色を無くし静寂の夜に色を変えて朝を待っていた。