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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

眠れない

 北原謙二きたはら けんじは眠れない。


 彼が眠れなくなったのは、半月ほど前のことである。その日彼はいつものように、パソコンとテレビを消し、トイレに行き、部屋を暗くするとベッドの上で横になった。そして目を閉じ、いつものように眠りにつこうとした。

 シンとした部屋の中で時計の音を聞き、目を閉じ暗闇の中でじっとする。しかし一向に眠りは訪れない。いつもならば、気がついたら窓から日が差し込み、眠い目をこすりながら目覚ましを止めていたはずである。ふと、時計を見ると、布団に入った時間より、すでに一時間が過ぎていた。


 結局、それからも眠りは訪れなかった。時計を見ては目を閉じるを繰り返し、朝を迎えてしまった。うとうとはするが、眠れないのである。こんな日もあるだろうと彼は思ったが、こんな日はそれからも続いた。次の日も、次の次の日も眠れなかったのである。眠気はあるものの、なぜか眠れないのである。


 彼は眠ることに必死になった。眠る前に強い光を見るのは良くないということを聞けば、テレビやパソコンをつけないようにし、寝付きを良くするハーブがあると聞けば、それを試した。彼は眠りに良いと言われているものを手当たり次第に試したが、結局眠れなかった。


 とうとう病院に行った。普段から健康で子供の頃から風邪ひとつ引かないのがとりえの北原謙二は薬を飲むことに抵抗がある。しかし今は、そう言っていられる状況ではない。

 不眠は彼の体を確実に蝕んでおり、普段の彼を知る人が見たら、今の彼は幽霊のように見えただろう。彼は医者にとにかく眠れないことを訴えた。


 案外、あっさりと睡眠薬が出た。早速、昼間ではあったが、眠れることに期待を抱きながら、睡眠薬を1錠飲んで布団に入った。

 しかし一向に眠りは訪れない。今までと同じようにただ眠気があるだけである。うとうとするが、眠りまでには至らない。寝る前に1錠と、薬の袋に書いてあるが、無視してもう1錠飲む。しかし、眠れない。

 もう1錠、もう1錠と続けるうちに、薬はなくなった。それでもとうとう眠れなかった。


 次の日から、彼は手当たり次第に病院を回り、睡眠薬をかき集めた。数百錠ほど集まったところで、彼は一度に飲み込んだ。


 ああ、これだけ飲めば、きっと眠れる。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……眠れない。


 眠れない、眠れない、眠れない!


 どうすれば眠れるんだ。俺が一体何をした。どうして俺がこんな目に合わなければならない。誰か、誰でもいい、眠る方法を教えてくれ。


 ……ああ、そうだ。なんでこんな簡単な事に気が付かなかったんだろう。


 ここから飛び降りてしまえばいい。そうすれば必ず眠れる。そうだ、そうしよう。善は急げ、だ。



 北原謙二はマンション10階にある自室の窓を開けると、勢い良く飛び出した。目の前にグングンと地面が広がり、あっという間に真っ暗になった。

 辺りに水風船の弾ける音が広がった。彼を中心に地面は真っ赤になった。音を聞き、様子を見に来た人が何人かいたが、彼を助けようとする人はいなかった。



 痛い、痛い。でもこれもすぐに終わる。これでやっと眠りにつける。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……どうして、眠れない。どうして、どうしてなんだ。

 誰か、誰でもいい、俺を眠らせてくれ。


 しかしその思いは誰にも届かなかった。






 始業の時間が近づき、がやがやと辺りが騒がしくなる。医師は白衣に着替えると、いつものように担当の患者を診て回った。

 がらりと、ある部屋のドアを開け、眠る男の横に立つ。すうすうと寝息を立てる彼の表情は、とても安らかだ。


 患者の名は北原謙二。2週間ほど前、眠ったきり起きなくなり、両親に連れられてこの病院に入院している。検査をしたが、異常は何一つ見つからない。本当に、ただ眠っているとしか言いようが無い状態だ。これまでいくども覚醒が試みられたが、全て失敗に終わっている。


 さて、これからどうしたものか。

 医師は彼の体に異常がないことを確かめると、頭を悩ませながら部屋を出た。


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