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2話 探偵吉野と助手天音

 探偵を生業(なりわい)としている者の気持ちは、私にはわからない。

 何せその仕事は何かが起きなければ始まらないという、後手後手の職業だからである。


 前回の任務(魔法少女)から早々に次の世界にトリップしてきたが、今回の任務はこうだ。


【緊急要請】

 世界ID:B4992871

 必要とされる人物像:探偵助手

 要件:探偵【吉野育三】の仲間になり、事件を解決する手伝いをしながら彼を引退させる



「……どうすればいい」

 まずは探偵助手になるところから始めなければならない。

 そして最終的には引退させる。

 理由は考えてはいけない。"そういうもの"だから。


 物語は理不尽でこそ、物語なのである。



 ……決まったな。

 まあしかしながら、そのためにはまず彼の信用を得なければならない。

 そして経験上探偵と言うのは『変人』が多い。

 否、『変人しかいない』。

 魔法少女とは違い、探偵ものというのは歴史が長い。

 故に、これは正しい。私だから言える。



「あ~あ、どこかに美人の助手落ちてないかな~。それで事件を解決しながらローマーンースッ!」



 私は正しい。





 ああ、どうしてこうもこの男は阿呆なのだ。

 普通密室と言えば、トリックが使われてると誰でも考えるだろうが。


「え~? 密室なら自殺なんじゃないの?」


 馬鹿野郎が!

 よくそれで探偵になろうとしたな。理解に苦しむ。

 しかし助け船を出さねばならない。

 こういった場合はそうだ、とっておきの言葉がある。


「あれれ~? おかしいぞぉ~?」


 完璧だ。後は麻酔銃でも用意すればいいだろうか。

 ……いや、これ以上は危険だからやめておこう。




 よくぞここまで頑張ったと褒めてほしい。事件は解決されたのだ。

 それにしても、実はドアが"オートロック"だったなどと、誰が想像できようか。


 もはや密室殺人でさえない。


「なにはともあれ解決してよかったね~天音ちゃん」

「そうですね、さすがです」

「でしょ~? 惚れた?」

「そ、そんなことないんですからねっ!」


 ツンデレとはこんな感じでよいのだろうか。未だに慣れない。




「そろそろだな……」

 こんなカスみたいな探偵事務所が長生きするなど、天地がひっくりかえってもないことだ。

 最初の方は私が一所懸命仕事を取ってきたが、目標達成の為にそれをわざと怠った。

 すると借金は面白いように膨れ上がり、もはや完全にじり貧。


 家に帰れば笑いが止まらない。

「はっ、ここまでうまくいくとは。しかし、前回には及ばなかったな……残念だ」

 すると、急にポータルから連絡が来た。


【吉野を殺せ】


 ……は?



 と思ったが、まあ目標は『引退させる』だ。

 人生から引退させても問題ない。何もおかしくないな、うむ。


 しかし腑に落ちないな。すかさずポータルに返事をする。

「了解した。しかしどのように?」

 もう一度言うが理由は考えてはいけないのだ。


【告白をしながら】


「……了解した」


 クソが。





「なにするの、天音ちゃん……」

「もう限界なんです。あなたが私を見てくれないことに、耐えきれないのです」

「だ、だからって……そんな危ないもの、しまおうよ。ね?」

「うるさいっ! アナタがワタシを見てくれないというのなら……


 コロス」


「ぎゃあああああ!」


「ふ、ふふふ。あはははははははは!!!!

 これで先生は私の物! わたしの、も、の……」


 落胆する演技にはもう慣れている。悲劇のヒロインというものは、そういうものなのだ。

 にしても、まさかこの男がハーレム状態になるとは予想できなかったな。

 じり貧にしたはずの探偵事務所が、女たちの出資によって持ち直してしまった。


 女心というものは私にはわからん。


 まあしかし成程、告白をしながら殺すというのはつまり『ヤンデレ』ということだったのだな。


【任務完了を確認、直ちに帰還せよ】



「というか、探偵ものである必要性は皆無だな……」

 今回ばかりは早く帰りたい。この後の展開は目に見えている。

 せめて最後は探偵ものらしく、謎めいた終わり方をした方がいい。





 帰って報告書を提出した。

 さ~て、今回の客観的詳細は~?



【名探偵吉野と助手天音】

 吉野育三は、探偵という職業を崇拝していた。

 いくつもの事件を颯爽と解決し、良い助手に恵まれ、時には喧嘩をしながらも互いに絆を深め合ってゆく。それが彼の理想だった。

 吉野は幸運の持ち主である。ある日探偵事務所に美人な女性が訪ねてきた。彼女は『天音』と名乗り、彼の助手になりたいと申し出た。彼は嬉々としてそれを受け入れる。

 彼女は聡明な女性だった。吉野の足りない頭をカバーするその洞察力と推理力は、大きく役に立った。

 数々の事件を解決し、全ては吉野の理想通り、のはずだった。

 突然依頼が激減し、探偵事務所の資金は底をついた。もはやジリ貧であった。しかし、天音はそれでも吉野を支え続ける。

 もうすぐ二人は結ばれるのか!?

 そんな二人の関係を引き裂いたのは、事件の依頼主『美代子(みよこ)』、『春子(はるこ)』、『陽子(ようこ)』、『里奈子(りなこ)』、『崇子(たかこ)』、『白子(しらこ)』であった。

 彼女達は事件を解決してくれた吉野に惚れた。もはや一目惚れだった。

 しかし天音がライバルだと知ると、彼女達は手を組み天音を解雇させようと目論む。

 皆が金を出し合い、事務所を再建させたのだ。

 吉野は他の美女たちにそそのかれ、天音を解雇しようとしてしまう。

 これが、悲劇の始まりである。

 自分の気持ちを受け入れてくれない吉野を、天音は殺してしまった。彼への愛を叫んで。

「これで先生は私の物!」

 そう言った彼女の顔は、とても悲しそうであった。

 その後、彼女は姿を消した。もう愛する吉野もいない。もはやここにいる意味などない、と。

 その後の警察の捜査でも、天音が見つかることはなかった。

 探偵である吉野は、自ら迷宮を作ってしまったのであろうか……?




「なっげーんだよ、10行にまとめろ」


 ああ、もう読んでいるうちにまた要請だ。休ませてくれないのはいつもの事だ、仕方がない。


「次は何? ふむ、『学園のマドンナ』ねえ……」

 マドンナは決して褒め言葉ではない。行けばわかる。行かなくてもわかる。


 鬱々としながらも、私は『OK』ボタンを押下した。

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