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1話 魔法少女サキ&アマネ

こちらは『【短編版】異世界トリッパー天音』を連載化させたものです。

※従って1話目は短編と内容は全く同じです、ご了承下さい。

 137万弱。

 これは私が今まで渡り歩いた異世界の数である。

 やっとのことで『ポータル』に戻ってきた私は、何年かぶりに自室へと戻った。

 こじんまりとした一人用のモニタールームには、様々な異世界の情報が羅列され、もはや読む気が失せてしまう程だ。


 『天音(あまね)』と人々は私を呼んだ。だから私の名前は天音。

 机の上にある鏡を見ると、不機嫌そうな顔が己を見つめている。

 ああ、せっかく切りそろえた前髪がもう目にかかりそうだ。後ろ髪も腰まで伸びてしまっている。


 そういえば、前回は5年あまり掛かってしまったのか。

 最後の魔王の死にざまは滑稽だった。

 最期の言葉が『ぎゃふん』では、彼も浮かばれないだろう。


 そう思っていた途端、モニターからアラート音が鳴った。うるさい、非常に。

 大きなポップが全モニターに表示され、そこにはこう書いてある。


【緊急要請】

 世界ID:A1997490

 必要とされる人物像:魔法少女

 要件:魔法少女【遠藤沙紀】の仲間になり、世界を救う手伝いをする事


「ああもう、"また"魔法少女。これで何度目だ。流行りなのか?」

 そう独りごちるが、緊急要請とあらば仕方がない。行くか。


 お察しの通り、私は数々の異世界のピンチを救うヒーロー否、ヒロインである。

 詳細は省略する。なぜなら私には一切解らないから。

 恐らく、そうするように"プログラム"されているのだと思う。


 アラートウィンドウの『OK』ボタンを押すと、目の前のモニター群が左右へ除けた。

 その先には一つの無機質な扉。これが、異世界へとつながる扉である。


 ところで、魔法少女は今までおよそ2万回経験してきたが、どれも衣装が恥ずかしい。

 何とかならないものか。

 次の魔法少女はクールなものが良いと、誰に言うわけでもなく願った。





「あなたが私の仲間になってくれるのね! 天音ちゃん!」

「ええ。よろしく、遠藤さん」

「も~、遠藤さんなんて水臭いなあ! 沙紀でいいよ!」

「……さき、さん」

「うんっ! えへへっ、よろしくね」


 ああもう、照れる仕草さえ面倒くさい。早く世界だか何だか知らないが、とっとと守って終わらせたい。

 こんな世界一つ消えたところで、何の影響もないというのに……。

 でも、それを言ってはおしまいだ。これは仕事、そう割り切らなければなるまい。



「いくよ、天音ちゃん!」

「ええ」

『トゥインクルシャワー!!!!』

 願いは通らず、こっ恥ずかしい衣装に身を包んだ私は、この世界においての悪と、こっ恥ずかしい台詞を吐きながら戦っていた。

 それにしても弱い。弱すぎる。こんなの、チートでなくても倒せる。

 この調子では1年もしないうちにポータルに戻れるだろうか。


 ……こんな恥ずかしい台詞を考えたのは誰だ。





 クソが!

 何故お前が"自殺"をする。遠藤沙紀。

 こういったイレギュラーも多々あるのが、この仕事の辛いところである。

 先が見えないという不明瞭なこの仕事は、いわば遠洋漁業みたいなものであろう。

 ……違うか? まあいい。


 遠藤沙紀が絶望(理由は不明)によって自殺をし、この世界の魔法少女は私のみとなった。

 この世界で与えられた家に帰り、すぐさまポータルに連絡を取る。

「どうすればいい。このままだと私が『ID:A1997490』の未来を大きく変えることになるが」

【目標を達成できれば問題なし】


 相変わらず簡潔すぎる回答だな。だがそれがいい。

 よし、OKが出ればこっちのものである。『世界を救う』という最終目標さえ達成できれば、あとは私の独壇場だ。



 ……楽しい。こんなに楽しすぎるのは久しぶりだ。

 今まではメインのキャラクターを第一優先に、私は後ろでサポートに徹しなくてはならず、所謂"万年引き立て役"であった。

 これからもそれが変わることはない。が、今は違う。


 私が主役だ。


「お前らなんてこうだ! えいっ☆」

『ぎゃああああ!』


 見ろ、敵がゴミのようだ。





 ラスボスというものはいつだって荘厳な面持ちである。否、そうでなくてはならないと私は思う。

 だが、お前はなんだ。




「きゅう」




 アザラシ、だと?


 舐めているのか貴様。ああ、これではまるで私がラスボスだ。

 どうしよう……。こんなかわいい動物を、倒すことなんてできないっ……!






 とでもいうと思ったか。貴様の作戦には乗らない。私は棒読みでこう決めてやった。


「沙紀の仇、トゥインクルシャワー」


「きゅうううう!」

 よし、改心したな。これで仕舞だ。

 世界には早々に平和が戻った。なんと最短記録、3ヶ月である。

 あとはポータルからの指示を、家でゆっくり茶でも飲みながら待つのみ……。


【任務完了を確認、直ちに帰還せよ】


「チッ、早すぎるんだよクソが」

 もう少しゆっくりさせてくれてもいいんじゃないかと文句を言いながら家に戻ると、無機質な扉がリビングにドンと構えていた。

 心底邪魔だ。





 こうして私はポータルへと戻ってきた。ああ、なんて楽しい仕事だったのだろうか。

「またあのラスボスが復活すれば、また行けるかもしれないな。よろしく頼むよ、アザラシ」

 報告書を提出し、モニタールームへと戻る。

 『ID:A1997490』の客観的詳細を知るため、ID検索をした。

 するとトップにそのナンバーがあった為、すかさずそれをクリックする。

「おお、あったあった。どれどれ……」


【魔法少女サキ&アマネ】

 主人公の『遠藤沙紀』は中学生になったばかり!

 意気揚々と入学式へ向かう途中、なんと神のお告げが!

 神のお告げにより魔法少女となった沙紀は、そこでどこか謎めいた新入生『天音』と出会う。

 沙紀が一人で悪と戦いながら苦戦を強いられていると、なんと天音が助けに登場!

 二人は一緒に悪を倒し、世界の平和を守る。はずであった……。

 倒せど倒せど悪が消えない世の中に絶望した沙紀は、自ら命を絶ってしまう……。

 しかし、天音だけは違った。

 沙紀の事を思いながら次々と敵を倒していく天音。そして最後の敵と対面する……。

 極悪非道のアザラシ『きゅーちゃん』を前に、彼女は叫んだ。

「沙紀の仇、トゥインクルシャワー!!!」

 その後世界に平和は訪れ、天音はどこかへと消えてしまった。彼女の行方は誰にもわからない……。

 まさかの主人公が死ぬ!? そんな衝撃の異色な魔法少女物語がここに誕生!




「……クソ映画確定だな、これ」


 突っ込みどころが有りすぎて呆れながらウィンドウを閉じようとすると、また緊急アラートが出てきた。

 私に休む暇はないのだろうか。

 そんなことを言っていても仕方がないと思い、内容を見る。

「何々、次は『探偵助手』か……。もうこの前みたいな助手が犯人とかやめてくれよ……?」


 私は一抹の不安を抱えながら、『OK』ボタンを押下した。

次からはまた新しい話になります。

何卒、よろしくお願い致します!

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