第二話 魔力量は多いのに…
「本当に大丈夫なの?」
フードの女性は心配そうな顔で聞いた。
「おう、大丈夫だ、心配いらない」
手を軽く振り「心配ない」と伝える。
「な、何かお礼でもさせて下さい」
女性はフードを下ろして顔を上げ軽く前髪を整えた、銀髪の腰まである髪が綺麗になびき、先ほどまで見えなかった浅葱色の瞳が薄暗い路地裏の中でも綺麗に光る。
「と言っても今はあまり差し出せるものもないのですが…」
「じゃあさ、君の名前を教えてくれないか?」
「え!?わ、私の名前?そんな事でいいの」
「あぁ、構わない、君と少し話もしてみたいしね」
女性は少し照れながらも賢雄を見つめる。
「私はアイシア、家名は無いわ、アイシアと呼んでくれて良いわ、出来れば貴方の名前も教えてほしいのだけど」
「良いよ、俺は凪月賢雄だ、賢雄と呼んでくれ」
「ケンユー?分かったわ、ありがとう、ケンユー」
賢雄は少し違うと思いながらも聞き流す。
(何か特別感があるしいっか、にしても綺麗な子だな、歳は16、7歳ぐらいだとは思うけど…)
「ケンユーは凄く強そうだけど冒険者なの?」
「冒険者か…いや、違うよ」
「そう…なんだ、なのにそんなに強いなんて、ケンユーってもしかして凄い人?」
(そうなのかな?でも一応召喚されたんだからいずれ勇者や英雄になったりするのかな)
賢雄は少し考え込んでからニヤけた顔をした。
「どうしたのケンユー、何かあったの?」
「あ?!いや何もないよ、それより君は何でこんなところにいるの?」
賢雄は素朴な質問をした。
「わ…私?私はどうしてここにいるか分からないの」
「え?!じゃあ自分の事が分からないの?」
「うん、記憶が無いから全然分からないの」
(記憶喪失ねぇ、でも常識や言葉なんかは覚えてるのか)
賢雄は少し考え込んだあとにアイシアに一つの質問をする。
「じゃあさ、どんな記憶がないのか分かる?」
記憶を失っているのに失った記憶が何かなんて分かるわけないと思いながらも、賢雄は一応質問した。
(まぁ、覚えてなくてもこういう会話から何か手掛かりを思い出すかもしれないしな)
「うんとね、私、誰かと話した記憶や誰かとの思い出を覚えてないの」
賢雄の予想とは裏腹にかなり有力な情報が手に入った。
「なるほどね、他人との思い出がないか、種類としてはエピソード記憶障害何かに入るのかな?」
「ねぇ、そんな事よりとケンユー、この人たちはどうするの?」
「そんな事って、アイシアさぁ、自分の身に起こってることの異常性に気づいたほうがいいよ」
(まっ、それは俺もなんどけどな)
ここにはどうしてきたのか、何故自分の部屋のドアが異世界に通じるどこでもドアになっていたのか、考えればきりが無い。
(この世界にはあるんだろうな、そんな非科学的な超常現象を引き起こすことのできる力が、魔法か、超能力的な何かが…)
「でもねケンユー、この人達はどうするかは早く決めたほうが良いんじゃない?何か厄介なことになりそうだしさ」
「まぁそうだね、取り敢えずこういうのは放置ってのが相場で決まってんのさ」
賢雄はアイシアの手を引いて路地裏を出た、気絶した三人を路地裏に置いて。
「ねぇケンユー、これから私達ってどうするの」
「それはアイシアの自由にすれば良い、俺はアイシアのしたい事に協力するよ」
「私は嬉しいけどケンユーは良いの?」
「俺もこの世界の事はあんまり分かんなくてさ、だから誰かと一緒に居たほうが気持ち的にも楽なんだ
よ」
「そっか、私達似た者同士だね」
「あぁそうだな、お互いに大事な記憶を思い出そうな!」
お互いに笑いながら表通りを歩いてゆく。
「ねぇねぇ、私、ギルドに行ってみたいんだけど…」
「え、ギルド?でも目印となる物がないと…こんな馬鹿でかい国から特定の建造物を見つけるなんて不可能だぞ」
「あら、私はそういう知識はしっかり覚えているのよ」
「じゃあギルドがどういう目印があるのか知ってるの?」
「えぇっとね、確か建物がすーごくでかいのよ」
アイシアは辺りを見回しながらでかい建物を探した。
「あれ!あの遠くにある大きな建物なんじゃない」
「あれはどう見てもお城じゃね、確かに馬鹿でかいけど…」
「じゃあさ、じゃあさ、目の前にあるあの建物じゃない?」
そこには確かに大きな建物が立っていた、看板のは杖と剣がクロスになっていて、見るからに“ギルド”って感じがしていた。
「た…たしかに、つかあれ以外にないな」
「ねね!合ってたでしょ」
子供の様にはしゃいでいるアイシアを見守りながら賢雄はアイシアを引っ張りながらギルドの中に入る。
「ようこそお越しくださいました!ギルドは初めてですか?でしたらあちらの受付へお越しください」
ギルドの受付嬢が賢雄とアイシアに挨拶をする。
「は…は〜い、わかりました、おーい、行くぞアイシア」
「え!うん、すぐ行くよ」
アイシアは急いで賢雄の元に走っていく。
「ようこそルノワール王国ギルドへ、今回お二人の受付を務めさせていただきます、カリナ・フローラルと申します」
綺麗な声とお辞儀に賢雄は手放しに感心していた。
「よろしくお願いします、フローラルさん」
「よろしくね、カリナさん」
「ではお二人とも初めに冒険者登録を行います、こちらに手を当てて下さい」
「え、冒険者登録?そんなのあるのアイシア」
「え、うん、そ…そうみたい?」
「なぜに疑問形、知っててここに俺を誘ったんじゃないの?」
「う…ううん、全然知らなかった」
「なんだよ、それ」
賢雄は頭に手を当て、呆れた素振りをする。
「だ‥だけどさ、冒険者になりたくない?」
「まぁ、分からんでもないが…」
「じゃあ問題ないわね、冒険者、なりたいでしょ」
アイシアのキラキラとした瞳に賢雄も気をされる。
「で…では、冒険者登録を始めます、こちらに手を当てて下さい」
カリナは不思議な水晶を出し、そこに手を当てるよう促す。
「ほら!冒険者になりましょ」
アイシアは水晶に手を当てる、すると水晶は濃い青色に光った。
「これは…魔力量もとても多い、適性は魔法使いですか、それも上級の…」
カリナが口に手を当てて驚く。
「す…すごいの私」
「最初から上級なんてすごいですよ」
カリナが大きな声で騒ぐから、ギルド内が少し騒がしくなる。
「へぇ、そんなに凄いんだ、良かったなアイシア」
「どう、凄いでしょケンユー」
アイシアは自慢げに自分と力を見せびらかした。
「では次は…あの〜」
「あ!これは、俺は凪月賢雄です」
「あ、これはどうも、では賢雄さん、お願いします」
賢雄が言われた通りに水晶に手を触れると、水晶は濃い紫色に光った。
「これは凄い!魔力量がとても多い、適性は…精霊使いですか、とても珍しいですね」
フローラルが口に手を当てて空いた口が戻らないと言わんばかりに驚いていた。
「え!私より凄いの?」
アイシアが少し焦ったような顔をする。
「す…すごいですが、勿体無いですね、魔力が多いのに精霊使いではあまり意味がありませんね」
「え!?そうなの、魔力多いのに?」
「精霊使いは大気のマナや自然にあるマナを使って精霊を操るから魔力はあまり意味がないんです、でもでも、闘気も高いからって…魔力量は関係ないか、別に魔力があればいいだけだし」
フローラルのフォローになっていないフォローを受け、賢雄は少し落ち込んでいた、そんな賢雄を見てアイシアが心配した顔をする、そんな賢雄を見かねてフローラルがもう一度賢雄のフォローをしようと声を出した。
「でも最上級精霊使いで最上級剣士でもあるからとても珍しく、この二つの適性を持っている人は結構上位の実力を持っているので…それに闘気も高いから身体能力も上げられるし、魔法使いじゃなくても魔法の鍛錬を積めば上級くらいまでは使えるのでって、案外強いわ!」
フローラルが口に手を当てて驚く。
「二人ともとても相性がいい!前衛と後衛が揃っているなんて‼︎」
「良かったわねケンユー、私達相性が良いって」
「まあそうだな、とりま、冒険者にはなれるんだよな?」
「はい!では残りの手続きを…」
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