“答え”がすべてじゃない冬
12月の教室──期末考査目前
ホームルームが終わると、
あちこちの机の上に参考書と赤シートが並ぶ。
「点数を取るための空気」が、教室を満たしていた。
紅葉もまた、問題集をめくっていた。
でも、その手はどこかぎこちない。
(これは“覚える問題”。
どれも、“すでに誰かが決めた正解がある問題”。)
そんなとき、隣から葵がそっと声をかける。
「……つまんない?」
紅葉は少しだけ笑った。
「“頭の運動”にはなるけど、
“考える喜び”はあんまり感じなくて」
数学部──テスト期間の静かな部室
活動自体は自粛中だが、勉強部屋として開放されている。
紅葉、葵、日下の3人は、それぞれ黙々と自習中。
しばらくして、紅葉がふとノートから顔を上げた。
「……“問い”って、
“答えを出すため”だけにあるわけじゃないと思いませんか?」
日下は目を上げ、しばし沈黙したあと口を開いた。
「まぁ、“答えが出なくてもいい問い”ってやつもあるわな」
葵もペンを止める。
「それってさ、“問いが好き”ってことじゃない?」
紅葉は少し照れながら頷いた。
「わたし、
“どうして?”とか“なぜそれが美しい?”とか……
そういう、“答えの形が決まってない問い”が、好きかもしれない」
翌日・期末考査当日(数学)
テストは、典型問題のオンパレード。
紅葉は落ち着いて、正確に解いていく。
でも、どこか「作業」のように感じていた。
正解は出る。
でも、その先の“どうして?”には、今日は誰も答えてくれない。
考査最終日──放課後の帰り道
冷たい風が吹く中、葵と紅葉が並んで歩く。
「数学、できた?」
「うん、たぶん。でも……」
「でも?」
「“わたしが解いた”というより、
“みんなと同じ正解にたどり着いた”って感じ」
「それ、ダメなこと?」
紅葉は考え込む。
「……ううん。悪いことじゃないけど、
“自分の思考”をもっと使いたかった気がする」
葵は優しく笑った。
「紅葉は、“正解”より、“考える過程”の人なんだね」
紅葉のノート・その夜の記述
点数の出る問題も大事。
でも、わたしが本当に心を動かされるのは、
“自分の問い”に向き合ってる時間だった。
答えのない問いは、不安だけど自由。
そして、どこまでも深く潜っていける。




