話す数学、魅せる証明
文化部合同イベント──解法プレゼンバトル
秋の終わり。
生徒会主催の「文化部対抗プレゼン交流会」が開催される。
テーマは──
「各部の専門を使って“魅せる発表”をせよ」
※5分間の発表×チーム制。観客の投票で優勝部が決まる。
参加部活は、書道部・科学部・数学部。
少し変わった文化系の交流戦だった。
数学部チーム構成
プレゼンター:真城紅葉(1年)
サポートスライド:葵(1年)
証明設計&演出チェック:日下(2年)
日下:「……マジで紅葉にやらせんの?」
葵:「紅葉の話、きっと届くよ。ちゃんと、“思考の風景”を見せられたら」
紅葉:「……やってみたい。“話して伝える数学”って、きっと、わたしの次のステップだから」
プレゼンテーマ:「パズルとしての証明」
紅葉が選んだのは、有名な**「四色問題(任意の地図は4色で塗り分けられる)」**をベースにした簡易バージョン。
“ある形の地図を、最小限の色で塗り分けるには?”
彼女はホワイトボードに「地図の模様」を描きながら、語り出した。
「最初は、“どうやって解くか”だけを考えていました。
でもある日、“この解き方をどう見せるか”を考え始めたんです」
プレゼン本番・観客の前
彼女の声は小さいが、言葉ははっきりしていた。
「この“2つの領域が接すると色を変える”というルールは、
まるで人と人が違う考えを持つときに起こる“対話”みたいです」
観客が少しざわめく。
「そして、“4色あれば十分”というこの定理は、
“違うままでも調和できる”という証明でもあります」
日下が後方からうなずいた。
(こいつ、数学でポエム書きやがって……
……けど、妙に説得力あんだよな)
プレゼン後・投票タイム
結果は──数学部、僅差の2位。
でも、拍手の数は多かった。
書道部の先輩が笑いながら言った。
「“数式が苦手”な私でも、話がわかりやすかったよ。
色と対話の話、あれ、面白かった」
発表後・部室にて
日下:「お前、意外とやるな」
紅葉:「ありがとうございます。でも、
“伝える”って、やっぱり難しいです。頭でわかってても、言葉が追いつかない」
葵:「でも、今日の紅葉は“伝える気持ち”が、ちゃんと届いてた」
紅葉は少し顔を赤らめて、
ふっと、うれしそうに笑った。
帰り道・ノートの記録
話すことで、
“何を考えていたのか”が、自分でも見えてきた。
証明って、ただ正しいだけじゃなくて、
“言葉を選ぶこと”も、きっと証明の一部なんだと思う。