点は高くて、でも、何かが違う
数学模試──校内での結果返却日
2学期も終盤、外部模試の成績が返ってきた。
成績表の上部に印字された紅葉の順位は──
全国順位:48位(偏差値74.1)
葵が先にそれを見て、素直に喜んだ。
「すごいよ、紅葉! 全国50位以内って!」
「うん、ありがとう……」
紅葉は、成績表を見つめながら、心の中で揺れていた。
(“嬉しい”はずなのに……。
でも、なんでこんなに“空っぽ”なんだろう)
数学部・部室にて
日下も、模試の話題に触れる。
「ん、全国48位? 派手じゃん」
「……はい」
「なのに浮かない顔してんな。“理想の答案”じゃなかった?」
紅葉は、少し考えてから答える。
「たぶん、私、“点数を取るための解き方”をしてしまったんです。
気づいたら、“自分の考え方”より、“正解のパターン”を優先してた」
「それで、点は取れた。でも、納得してないと」
「……はい。なんか、“誰かの望む答え方”をしてしまった気がして」
日下はしばらく沈黙して、
やがてぼそっと、口にした。
「──俺は、そうやって生きてきた」
紅葉は目を上げた。
放課後、屋上にて──紅葉と葵
秋の風が吹く夕暮れ。
「点数、すごかったね。
でも、なんとなく、“それだけじゃない”って顔してた」
紅葉は柵に手をかけて、ぽつりと呟いた。
「“ちゃんと伝えたい”って思ってたのに、
いざ試験になったら、“伝える余裕”なんてなかった」
「そうかもね。
でも、“点数が取れる解き方”を知ったってことも、すごいことじゃない?」
紅葉は、小さく頷いた。
「うん。でも、わたし……
“結果と、自分らしさ”を、両立させられるようになりたい」
帰り道・心のノート
点数が高くても、
自分の言葉で証明できなければ、
わたしには“自分がいた”って言えない。
でも、
“点を取る術”を知ったことも、
たしかに“今のわたしの一部”なんだと思う。