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【第7話】 急な用事

 リムジンは東京に着く。ロビンはリムジンから降りて東京の景色を見渡す。

「ちょっと眩しいな。」

「さっきまで山の中にいたしね。そう感じるのも無理はない。」

ロビンが隣を見ると、美桜が口を開きながらボーッとしていた。

「都会に慣れてないのか?」

「いや…、久しぶりすぎてちょっと……。」

美桜は少し狼狽えているように見える。

「因みに、最後に来たのはいつだ?」

「確か………2年前ね。そこから先はずっと故郷に籠もってた。」

「そりゃそうなるか……。」

「あぁそうか。2年前まで大学生だったからね。」

「私の黒歴史を掘り起こすのだけはやめてれる?」

(何かあったんだろうな……。)

ロビンはあまり追求はしなかった。

「それで、このあとはどうするんだ?」

「うーん、自由行動でいいんじゃないかな?」

「異議なし。」

「俺は一旦自宅に帰るぜ。」

「じゃあ、正午にあそこの焼肉店に集合でいいかな?」

「オッケ。」

「じゃあ……、解散。」

春蘭はリムジンに乗ってどこかに向かう。

「……お前は一緒に行かなくてよかったのか?」

「暇だから街を歩くついでに、あんたの家に立ち寄らせてもらうわ。」

「うん……、なんで?」

「暇だから。」

(まじかこいつ……。)

美桜は仁王立ちで答える。2人は歩いてロビンの家に向かう。



「うわっ……結構溜まってるな。」

ロビンは自宅のポストから郵便物を取り出す。足元の籠の中には段ボールが入っている。

「お?やっと来たか。」

ロビンは嬉しそうに郵便物を持ち上げる。

「何が入ってるの?」

「秘密。」

「まさか………やましいものでも入ってるの?」

「そんなものを堂々と頼む勇気はない。」

 ロビンはリビングの机に段ボールを置く。

「適当にくつろいでてくれ。俺はちょっと部屋の整理をしてくる。」

ロビンは二階の自分の部屋に向かう。美桜は気になって段ボールの伝票を確認する。

「雑誌類?」

美桜は気になって段ボールを開ける。中からはたくさんの本が出てくる。

「……マンガ?」

美桜は中身を全て取り出す。合計で13冊のマンガが出てきた。表紙は至って普通のマンガだ。

(中身がえげつないってオチじゃないでしょうね。)

美桜はゆっくりとマンガを開く。パラパラとページをめくりながら内容を軽く読む。

(普通のマンガだ。)

「……何してんだ?」

「ひゃい?!」

美桜は突然話しかけられて変な声が出る。

「どこからそんな声が出るんだ?それより……」

ロビンは美桜からマンガを取る。

「これ、面白いんだよなぁ。」

ロビンはパラパラとページをめくる。

「今まで買いに行けてなかったから、通販で一気に買ったんだ。」

ロビンはマンガ13冊全てを一気に持って二階に上がる。ロビンは部屋のテーブルにマンガを置くと、スマホが鳴り出す。

「どした?」

電話の相手はアリスだ。

「あ、今暇?」

「暇と言われたら暇だな。お前は何してんだ?」

「今ねぇ、ロビンの家の前にいるよ。」

ロビンは急に胃が痛くなってきた。

「……何をしに来た?」

「暇だからどこか行こ。」

「どこに行きたいんだ?」

「ちょっと服を見に行きたいなぁ。」

「1人で行けよ。それか、自分の友人とかと。男がついて行くようなものじゃないだろ。」

「だって、ロビン以外全員忙しいって言ってるもん。」

「うーん………わかった、すぐ準備するから待ってろ。」

そう言ってロビンは電話を切る。

「さて……どうしたものか………。」

ロビンは深いため息をつきながら一階に降りる。

「ちょっと出掛けてくるから、留守番しててくれるか?」

「暇だから私もついて行くわ。」

(……頼むから嘘だと言ってくれ。)

ロビンは心の中でかなり焦っている。

「いや……なんというか、男だけの集まりってやつだ。」

「ほんとに?」

「そう。たがら……」

「ねえまだー?」

玄関を開けてアリスがリビングに入ってくる。

「あ……」

ロビンは思考が固まってしまう。

「あぁ……邪魔したわね…。」

アリスはそそくさと外に向かおうとする。

「違うから!何を考えたか知らないけど違うから!」

「ロビン……、あんた……恋人がいたの?」

「なんでそうなる?!」

ロビンは2人の誤解を解くのに30分ほどかかった。

「ただの幼馴染か。」

「ただの友人だったのね。」

(ふぅ〜……、なんとか落ち着いてくれたか。)

「さっ、服を見に行くわよ〜。」

アリスはロビンを引っ張って家から引きずり出す。美桜がその後ろをついてくる。

(結局こうなるなら、最初から素直に連れて行けばよかった!!)



「うーん……。これとかどうかな?」

アリスはロビンに服を見せる。アリスが選んだのは水色のセーターだ。

「服に関してはまったくわからねえからな。」

「いいからいいから。」

美桜は2人を横目に、自分に合う服を探している。

(ロングスカート………何か違う。こういうのは絶対彼女のほうが似合う。)

「ちょっとそれ着てみてよ。」

アリスが後ろから美桜にロングスカートを履くようにお願いする。

「いや、なんで……?」

「えぇー。だって、絶対似合うじゃん。上の服はこれでお願い。」

美桜はアリスにパーカーを渡される。美桜は仕方なく試着室で着替える。

「本当に似合ってるのか……」

美桜は試着した自分の姿を鏡で見る。

(似合ってると言われればそうかもしれないけど…)

「ねえ着替えた?」

美桜はカーテンを開ける。

「わぁお………!」

アリスは美桜の姿に言葉を失う。

(めちゃくちゃ似合ってるぅっ?!)

ロビンも美桜の姿に驚愕する。その横で、アリスは何かを考えている。

「やっぱり、似合ってない?」

「いや、似合ってるんだけど………何か既視感が。」

「うーん……、似合ってるけどよ。なんか、ジーンズのほうが似合う気がする。」

「それは絶対似合う。スタイルいいからね。」

アリスは美桜に似合いそうなジーンズを探しに行く。

(言われてみれば、美桜ってめちゃくちゃスタイルいいな。)

ロビンは美桜の頭から足の先までを見つめる。その際、美桜はロビンを軽蔑するような目で見ていた。

「あったよー。」

アリスは美桜にジーンズを渡す。美桜は渋々着替える。

「はい…。」

カーテンが開き、美桜の姿が目に映る。

「うーん、こっちのほうがいいかも。」

「同感。ついでにカッターシャツを着せれば完璧だと俺は思う。」

「へぇ、中々わかってるじゃん。」

2人は視線を合わせる。

(なんでこんなに息ぴったりなわけ?幼馴染だから?)

「でも、ここだとカッターシャツの試着はできないから……。」

「なるほどなぁ。ここから先は、想像に任せるってことか。」

「そゆこと。」

「何……?その気持ち悪い結論は……。」

美桜はカーテンを閉め、すぐに元の服に着替える。

「次は私か。」

アリスは自分が選んだ服を持って試着室に入る。アリスはすぐに着替えて、自分の試着姿を2人に見せる。

「お前……血迷ったか?」

「なんで?」

「いやだってさ……、明らかに似合ってないから。」

アリスはゆったりとしたセーターにジーンズという服装をしていた。アリスにはあまり似合わない。

「意外と似合うと思ったけど……。やっぱりロビンは、ロングスカートのほうが好みだったりする?」

「なんで俺の好みをここで聞くんだ?」

「そう言うと思って……」

アリスはカーテンを閉めてすぐに着替える。

「じゃーん。ロングスカートも用意してあるから。」

「俺の話聞いてねえな。」

アリスはジーンズをロングスカートに変えただけだ。しかし、先程とは印象がかなり違う。

「やっぱロングスカートが似合うな。」

「やっぱりロングスカートが好きなんだ。」

「いつ俺がそんなこと言った?似合うとしか言ってないぞ。」

そのあと、3人はしばらく買い物を続けた。



「ふぅー、買った買った。ていうか、結局美桜はロングスカートを買ったんだ。」

「あまり履いたことがないからよ。」

アリスは先程試着したロングスカートとセーターを購入した。

「ん?」

ロビンは足を止めてスマホを確認する。その直後、アリスもスマホを確認する。

「ちょっくら行くか。」

「えぇ、ちょっと持ってて。」

「えっ、何?」

「ちょっと事件だ。」

アリスは荷物を美桜に預ける。

(刀を持ってきてないけど、なんとかなるだろ。)

2人は事件現場に向かって走り出す。

「あ、ちょっ、待ちなさい!」

美桜も2人の後を追って走り出す。



「いた…。」

現場に着くと、数体の魔獣が暴れている。ロビンは近くに落ちている鉄パイプを拾う。

「どうする?」

「中級ぐらいだろうな。真正面から突っ込んでも、どうにかなる。」

ロビンは鉄パイプを持って魔獣に向かって走り出す。アリスは魔法を使って魔獣の気を引く。魔獣は上空に漂うアリスの魔法に気を取られる。その隙に、ロビンは魔獣に鉄パイプを振り下ろす。

「グギャアッ?!」

鉄パイプを受けた魔獣が不気味な声をあげる。他の魔獣もロビンに気づき、戦闘態勢に入る。1体の魔獣がロビンの背後から襲いかかる。ロビンは襲ってきた魔獣を鉄パイプで殴り飛ばす。魔獣が吹き飛ばされると同時に、他の魔獣が一斉に襲いかかってくる。ロビンは1体の魔獣に鉄パイプを投げつける。鉄パイプは魔獣の頭部に当たり、魔獣はその場で気絶する。ロビンは他の魔獣を蹴り飛ばして怯ませる。

「雑魚ばっかりだな。」

ロビンが余裕そうにしていると、上から巨大な岩石が落下してくる。

「うおっ?!」

ロビンはなんとか岩石を躱す。岩石は地面に落下した衝撃で砕け散る。

「ちっ、大物のお出ましか。」

ロビンの前に、巨大な魔獣が姿を現す。一目で上級の個体だとわかった。周囲に中級の魔獣と思わしき個体を何体も引き連れている。

「てか、なんでこんなに魔獣が集まってるんだ……?」

巨大な魔獣は、ロビンに向かって腕を振り下ろす。ロビンは咄嗟に後方に飛び込む。振り下ろされた腕は、地面に亀裂を作る。

(くらったらひとたまりもねえな……。美桜に刀を持ってきてもらうか。)

ロビンは隙を見て建物の陰に隠れる。魔獣がこちらを探している隙に、美桜に近づく。

「悪いけど、刀を取ってきてくれないか?」

「はいはい…、私は表では戦えないからね。」

美桜は鍵を受け取ってすぐに走り出す。

「しばらくは回避に専念するか。」

ロビンは魔獣の前に姿を見せる。魔獣はアリスを追っている。アリスは魔獣の攻撃が届かない高さから魔法で攻撃を行っている。

(飛行魔法……俺も欲しいなぁ。)

ロビンは足元の石を魔獣に向かって投げる。石が当たると、魔獣はロビンを見下ろす。魔獣が雄叫びをあげると同時に、周囲の中級の魔獣が一斉にロビンに襲いかかる。

「おいおいまじかよ……!」

ロビンは鉄パイプを拾って、襲ってくる魔獣に振り下ろす。鉄パイプは魔獣に当たった衝撃で折れてしまう。他の魔獣はロビンを挟み込むように襲ってくる。

「ちっ……」

ロビンは魔獣を踏み台にして攻撃を避ける。

「キシャアァァァッ!」

「飛行型もいるのかよ?!」

ロビンは魔獣の首を掴んで地面に引きずり落とす。他の魔獣が一斉にロビンに牙を剥く。

「ロビン!刀!」

美桜がロビンに向かって刀を投げる。ロビンは妖刀の柄を掴み、そのまま妖刀を引き抜いて魔獣を斬り裂く。

(ナイスタイミングッ……!こっからは俺のターンだ!)

ロビンは襲いかかってきた魔獣を全て斬り伏せ、本題の魔獣に向かって走り出す。巨大な魔獣は足を上げて、ロビンを踏み潰そうとしてくる。

「潰されるわけないだろ!!」

ロビンは魔獣の足に跳び乗る。魔獣はロビンを掴もうと、手を伸ばしてくる。ロビンは近づいてきた腕を斬り刻む。魔獣が怯んだ隙に、ロビンは魔獣の腕を駆け登る。駆け登っている際、中級の魔獣がロビンに襲いかかるが、アリスの魔法に撃ち落とされる。ロビンは魔獣の肩に到達すると、魔獣の体を蹴って上空に跳び上がる。魔獣はロビンのほうを見て、岩石を投げてくる。ロビンは岩石を踏み台にして更に高く跳ぶ。

「トドメ……」

ロビンは魔獣に向かって急降下する。刀に魔力を集め、落下の勢いを利用して魔獣の体を大きく斬り裂く。

「グガアァァッ!!」

魔獣は断末魔をあげながら塵になる。

「これで終わりか?」

「たぶん…。」

2人が武器をしまおうとした直後、耳をつんざくような雄叫びが辺りに響く。

「くっ…、まだいるのか?」

2人が周囲を見渡すと、空を覆い尽くすほど巨大な魔獣が上空を飛行する。

「でっ………?!」

「嘘……でしょ……?」

2人は魔獣の大きさに驚愕する。巨大な魔獣はこちらに向かって急降下してくる。

「やっべ、逃げろ!」

2人は間一髪で魔獣の体に潰されずに済む。魔獣は翼を広げ、羽ばたいて上空に飛び立つ。その際、強烈な突風が発生して辺りの瓦礫を吹き飛ばす。

(翼を動かすだけでコンクリートを吹き飛ばせるって……意味がわかんねえよ……。)

魔獣は上空を旋回し、途中、地面スレスレを飛行してくる。

「くっそ…。どうやったらあいつを叩き落とせる?」

「私たちじゃ無理でしょ。明らかに威力が足りない。」

「さっきのを見ただろ。あいつを放置していたら、何をしでかすかわからない。」

魔獣は空中でホバリングをしながら、雄叫びをあげる。遠くから中級の飛行型の魔獣が集まってくる。

「ちょっと……かなりまずい状況じゃない?」

「なんとかして切り抜けるぞ……。」

「えぇ……」

ロビンは襲ってきた魔獣を1体ずつ斬り伏せる。その間も、魔獣はドンドン集まってくる。

「くそっ、キリがねぇ!」

「危ない!」

アリスはロビンの背後の魔獣を撃ち落とす。

「助かった。」

「こっちも忙しいから!次は見れないと思う。」

「わかってる!」

魔獣は地上だけでなく、空からも襲ってくる。

(くっ……もう一度。もう一度、あの力を!)

ロビンは刀に魔力を集中させる。刀から魔力が溢れているのが目に見えてわかるようになる。

(できた……!)

ロビンは迫りくる魔獣を魔纏の力で斬り伏せる。先程とは違い、刀は魔獣の体に簡単に傷をつける。

(さっきより斬りやすい。これも魔纏の力なのか?)

ロビンは魔獣の大群の中に飛び込む。魔纏の力のおかげで、魔獣を簡単に討伐することができる。

(斬れる……斬れる……斬れる!これなら、この数を押し切れる……!)

ロビンはひたすらに刀を振り続ける。複数の魔獣が一気に襲いかかるが、ロビンは刀で薙ぎ払って一掃する。魔獣の数はだんだん減っていき、2人は集まった魔獣を全て倒しきる。

「後はお前だけだ!」

ロビンは大型の魔獣に向かって跳び上がり、刀を魔獣の頭部に思い切り振り下ろす。

「なっ………!」

しかし、大型の魔獣にはまったく効いていない。魔獣は頭部を振り上げ、ロビンを空中に投げ飛ばす。ロビンは受け身を取りそこね、地面に叩きつけられる。魔獣はその隙を狙って、ロビンの上空から急降下してくる。

「しまっ……」

ロビンは咄嗟に刀を盾にする。魔獣が刀に触れた瞬間、辺りに『激しい炎が飛び散る。』魔獣は炎に驚いたのか、すぐにロビンから離れる。魔獣はロビンを警戒するように威嚇している。

(なんだ……?様子が……。)

アリスはロビンに駆け寄る。魔獣は2人に近づこうとしない。

「いきなり何……。炎を怖がってるの?」

2人が困惑していると、魔獣に向かって魔力の斬撃が飛んでくる。

「大丈夫かい?」

「へっ…、やっと来たか……春蘭。」

「遅くなったね。あいつは僕がなんとかする。」

春蘭は魔獣に向かって斬撃を放ちながら走り出す。

「知り合い?」

「美桜の兄の神宮寺 春蘭だ。」

「………どこかで聞いたことがあるような。」

アリスはロビンを安全な場所に運ぶ。

「あの高さから落ちたんだから……、絶対どこか怪我したでしょ。」

「痛っ……!」

「ここかぁ…。」

アリスはロビンに治療魔法をかける。

「はぁ……、無茶ばっかりして…。」

ロビンは治療されながら横に置いてある妖刀を見る。

「なぁ…。お前には見えたか?」

「何が?」

「いや……俺の気のせいかもしれない。」

「気のせいでもいいから教えて。」

「わかった。……さっき、一瞬だけど、『刀が炎を纏った』ように見えたんだ。」

「……どういう意味?炎魔法を使ったんじゃないの?」

「炎魔法は使ってないし、そもそも使えない。本当に文字通りの意味だ。なんでそんなふうに見えたのかはわからない。お前なら、何か心当たりがあるんじゃないか?ほら、魔法について色々詳しいだろ?」

アリスは首を横に振る。

「悪いけど、私の記憶にそんなものはない。物体が魔力を帯びることはあっても、『魔法を纏うなんてあり得ない』。魔法は発動した瞬間から物体に干渉する。もし物体が炎魔法を纏ったとしたら、間違いなく物体が燃え尽きてしまう。物体が魔法を纏うことは、"理論上"、不可能なの。」

「そうか……。なら、俺の気のせいかもな。」

治療が終わり、ロビンはゆっくりと立ち上がる。

「さて、春蘭のほうはどうなったのやら……。」

2人は戦場に向かって走り出す。



「これは……、とんでもない大物だなぁ。」

魔獣は春蘭に向かって突進してくる。春蘭は巨大な斬撃を放ち、魔獣に傷を負わせる。

「これ以上、被害を広げるわけにはいかないな。それにしても、中級の魔獣が多いな。」

春蘭の周囲には大量の魔獣が集まっている。

「まっ、先輩として、カッコ悪いところは見せられないね。」

春蘭の刀に魔力が集まりだす。

「悪いけど、君たちには退場してもらう。」

春蘭の刀が魔力を纏う。魔獣たちは一斉に襲いかかる。

「そんなに慌てなくてもいい。全員、同じ場所に送ってあげよう。」

春蘭は高く跳び上がり、自信の立っていた場所に向かって刀を振る。刀から更に巨大な斬撃が放たれ、地面に触れた瞬間、大量にいた魔獣を一掃する。

「さて、残るは君だけだ。覚悟はできるよね?」

春蘭は刀を両手で持ち、姿勢を低くする。

「さぁ……終わりにしようか。」

春蘭は地面を強く蹴り、一太刀で魔獣の体を斬り裂く。魔獣は叫び声をあげながら、大きく態勢を崩す。

「一撃で終わらせるつもりだったのにぁ。君が動くから、急所に当たらなかったじゃないか。」

春蘭は魔獣に跳び乗って刀を1回だけ振る。魔獣はそのまま地面に倒れて、少しずつ塵になっていく。

「……まじか……。」

2人は呆然としながら春蘭の戦いを見ていた。

「おや?治療は終わったようだね。魔獣は討伐したよ。」

「いや……見てたからわかるけどさぁ……。お前の階級ってどれぐらいなわけ?」

春蘭は魔獣から飛び降りて2人のもとに歩み寄る。

「それは言えないかな。」

「あの……、名前をお聞きしてもいいですか?」

アリスは少し不審がりながら名前を聞く。

「君は、初めましてだね。僕は神宮寺 春蘭。君たちと同じ、魔道士さ。」

「神宮寺 春蘭……。紫色の髪、刀が武器、そして和服。やっぱり……。」

「やっぱりって?」

「知らないの?神宮寺 春蘭。日本支部最高戦力の1人。階級は確か、天級だったはず。」

春蘭は目を瞑って鼻を鳴らす。

「バレちゃったか。君の言う通り、僕の階級は天級だ。そして、"日本支部最高戦力の1人"だ。」

「まじかよ……。そんな大物だったのか。ていうか、あんなに強くても天級止まりなのか?」

「そうだよ。僕よりも上の階級、つまり神級しんきゅうに属する人たちは、僕よりも遥かに強い。現在、世界に3人しか存在していないが、いずれも、人間と呼ぶには疑わしいほどの圧倒的な力を持っている。」

「世界って広いんだな……。」

「そういえば、イギリスには次期神級候補と言われている天級の魔道士がいるらしい。機会があったら、是非会ってみたいね。」

春蘭が話をしていると、どこからともなく美桜が現れる。

「うおっ?!お前、急に出てくるなよ!」

「なんの話をしてるわけ?」

「美桜、怪我はないかい?」

「ないわよ。あったらここにいないわ。」

「はは、そうだね。それじゃあ、僕は事件の報告に行ってくる。君たちは……食事でもしていてくれ。」

そう言い残して、春蘭は現場の後処理を始める。

「どうする?」

「とりあえず、家に帰りましょ。」

「賛成〜。」

「はいはい……さっさと行くぞ。」

3人はロビンに家に向かって歩き出す。

「あのさ。あんたたちって、どこの国から来たの?」

「急だな。でもまぁ、いつか聞かれるとは思ってたな。名前から日本人とは思わないだろうし。」

「私たちの故郷は『イギリス』なの。」

「イギリス……。こっちに来たのはいつのことなの?」

ロビンとアリスは顔を見合わせる。

「確か、9年前だな。俺がまだ13とかだったはず。」

「ちなみにそのとき、私はまだ12だったよ。誕生日はロビンより遅いからね。」

「年齢を公表しろ、とは言ってないけど……。」

「まあいいだろ。」

「それより、イギリスのどこに住んでたの?」

「どこって言われても………」

「実は、イギリスでのことは『何も憶えてない』の。」

「えっ、そんなことある?」

美桜は驚きのあまり、足元の缶に気づかず、踏みつけて転倒する。

「痛っ!」

「大丈夫か?」

ロビンは美桜に手を貸す。

「大丈夫。それより、憶えてないってどういうこと?自分の家の場所は憶えてないの?」

「ほんとに何も憶えてない。」

「家族の顔も?!」

「そう。全部憶えてない。まるで、記憶を引き抜かれた感じ。」

美桜は思いがけない返答に困惑する。

「なんか、ごめんね…。」

「憶えてないから、別にいいぜ。」

「テレビとかでイギリスの情報を仕入れることもあるでしょ?それで今の状況を知ったりしないの?」

「あぁ……。それなんだが、憶えても1日で忘れるんだ。」

「私も同じ。」

「あんたらには呪いでもかかってるの?」

2人は首を横に振る。そうこうしていたら、ロビンの家の前に着いていた。

「……一応聞くけど、シャワーを浴びたい人は?」

3人とも手をあげる。

「だろうな…。」

ロビンは家の鍵を開けて中に入る。

「好きにくつろいでいてくれ。その代わり。先に俺がシャワーを浴びる。」

「オッケー。」

「わかったから早くして。」

 ロビンはすぐにシャワーを終えると、自分の部屋に戻る。

(なんだったんだろうな……。刀が炎を纏う。刀の力ではないな。じゃあなんだったんだ。一応、俺は炎魔法を使えるけど…。)

そんなことを考えていたら、いつの間にか眠っていた。




 世界は闇に包まれている。闇の中、1人の男と1人の青年が戦っている。青年は体に『黒い炎』を纏っている。

「お前の実力を認めてやる。だが、俺には勝てない。『英雄』がなんだ?所詮は人間。圧倒的な存在を前にしては、ひれ伏すことしかできないんだよ!」

青年は男に『黒い炎』の波を浴びせる。

「お前は確かに強大だ。間違いなく、俺とお前とでは実力に差がありすぎる。だが、俺たちは諦めるつもりはない!絶壁に立たされた状態でも、希望を持ち続ければ必ず好機は訪れる。俺はそれを信じて、今この場に立っている!」

男の剣から魔力の衝撃波が放たれ、『黒い炎』を吹き飛ばす。

「ちっ……、ゴミどもが……。調子に乗るなっ!!」

青年が叫び声をあげると同時に、『黒い炎』が激しく燃え上がる。地面に亀裂が入り、周囲を覆う闇は一層濃くなる。

「これが………『理を超越した力』なのか……。」

(まずいな…。このままでは世界が……。)

男の剣に雷が落ちる。剣は『雷を纏い』、轟々と光り輝いている。剣の光が一層激しくなり、辺りを包み込む。




「んっ……?」

ロビンは目を覚ます。椅子に座って眠っていたようだ。

(今……何かとんでもないものを見た気が……。)

しかし、何も思い出せない。

「ご飯できたよ。」

扉越しにアリスが話しかける。

「わかった。すぐに行く。」

ロビンは1階に降り、2人と食事をする。

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