【第2話】 『魔道士』
アリスと別れてから5分が経った。アリスの言う"何か"は見当たらない。
「どこだ?」
ロビンは警戒を緩めない。店内の空気が張り詰めているのを感じる。周囲を警戒していると、妙な物音が聞こえてくる。
「なんだ……?」
物が倒れた音ではなく、何かの足音のように聞こえる。ペタペタと、粘着物を何度も付着させるような音だ。
「おい、ビビってんのか?いい加減に出てこい。」
ロビンは"何か"を挑発するように声を出す。
「うおっ?!」
突然、ロビンに向かって何かが飛びかかってきた。間一髪で避けるロビン。倒れた商品棚の上に得体のしれない生物が立っていた。人の姿をしており、全身が真っ黒に染まっている。目は見当たらない。
(匂いを嗅いでいない?ということは、聴覚でこちらを感知しているのか?)
突然、ロビンの目の前に缶が落ちてきて辺りに高音が響く。
「グルルルル。」
生物はロビンの方を見て唸り声をあげる。
「やるか?」
ロビンは周囲を観察しながら、生物を挑発する。
「グラアアア!」
生物はそれに反応するように雄叫びをあげる。次の瞬間、生物は飛びかかってロビンを床に押し倒す。ロビンは生物を蹴り飛ばして隙を狙う。
「こいつはどうだ?!」
ロビンは手に炎を纏わせ、生物に殴りかかる。しかし、生物はロビンの攻撃を躱す。ロビンは缶を生物に向かって投げる。缶は生物の頭部に当たり、生物は怒り出して再びこちらに飛びかかる。床が砕ける音が店内に響く。
「くっ……!」
埃を払うと、床に手が刺さって動けない生物の姿が見える。ロビンはその隙を逃さない。
「大人しくしろ!」
ロビンは生物の腹部を殴り、壁に押し付ける。
「ギョオオエエエ!!!」
生物は大きな断末魔をあげながら塵となって消えた。
「ふぅ…。」
ため息をつくロビン。床一面に棚や商品が散らばっている。
「やべ、暴れすぎたか?」
「大丈夫?!」
アリスがこちらに走ってくる。どうやら、先程の騒ぎを聞いて駆けつけたようだ。
「何があったの?」
「『魔獣』が現れた。」
ロビンは心配そうにするアリスの質問に対して冷静に返答する。すると、入口のほうから2人ほど駆け寄ってきた。2人は隊服のようなものを着ている。
「ロビンさん。一体何があったのですか?」
「ん?あぁ、ちょうどいい。ここの後処理を頼めるか?俺たちは本部にさっき起きたことを伝えに行く。」
「あの……、状況は?」
「『魔獣』が現れて人をここに誘い込んだ。『魔獣』は俺が倒した。以上。」
そう言って、ロビンはアリスを連れてレジに向かった。
2人は店内から出る。日差しが顔に降りかかる。
「朝から疲れた……。」
「今10時に差し掛かるくらいだよ。」
「え?!」
ロビンは朝食を食べていないことを思い出し、急に強烈な空腹が襲ってきた。
「しまった、朝飯食ってねぇ。」
悶絶するロビン。
「私の家で食べる?」
それに対してアリスが助け舟を出す。
「ありがてぇ。恩にきる。」
ロビンは目を輝かせながらお礼を言う。
「まあ、卵のお礼だと思って。」
2人は会話をしながらアリスの家に向かって歩き出す。
しばらくして、アリスの家が見えてきた。赤い屋根に緑の壁。周りには花壇などがあり緑の要素が他と比べて多い。
「お邪魔しまーす。」
そう言ってロビンは家にあがる。リビングに行くと、物が少なく、奥の部屋には沢山の本が綺麗に収納された本棚が置いてある。世界各国の歴史、ミステリー小説や恋愛小説など、様々なジャンルの本がある。アリスはかなりの収集家で興味がある本は見つけたらすぐに購入する。その結果、かなり大きな書斎がある。ロビンの部屋の2倍ほどの大きさだ。リビングに戻ると、髪を結んで料理を始めているアリスがいた。
「今日の昼ご飯はハンバーグよ。期待しててね。」
アリスはウインクをする。ロビンは先程のことを整理しながらテーブルで待つ。
数分後、アリスが皿を机に置く。アリス特製のハンバーグ。何回か食べたことがあり、非常に美味しい。作り方は秘密とのこと。
「「いただきます。」」
2人は食べ始める。ナイフで切ると肉汁が溢れてくる。口に入れて噛みしめるほど味がでる。正直これだけで稼げるくらいだが、アリスは店を出すつもりはないようだ。
「本部には私もついて行くべき?」
「一応、現場にいた『魔道士』だからな。」
その後はちょっとした雑談をしながら箸を進めた。
「やっぱりアリスの作るハンバーグは美味いな。」
「ありがとねぇ。」
アリスは嬉しそうに答える。時間は1時に差し掛かかろうとしている。
「行くか。」
2人は本部へと向かうべく、アリスの家から出る。
『大魔統制会。』それは世界各地の『魔道士』達が所属する巨大な組織。魔道士の使命は魔獣を討伐し、世界の秩序を守ること。魔道士達にはそれぞれ階級があり、上から、
『神級、天級、仙級、上級、中級、下級』
の6段階となっている。階級が上に行くほど高い実力を有しており、天級以上ともなると人間離れした実力をもつ。そして天級を超える最強の魔道士、神級。現在、世界に3名のみ存在し、その実力は未知数とされている。噂では、神に等しい力を持つと……。ロビンとアリスも魔道士であり、現在の階級は中級だ。本部に着いた2人は、すぐに団長のもとへ向かう。
「……。」
室内で1人の男が頬杖をついて座っている。静かな空間に、扉をノックする音が響く。
「入りなさい。」
「「失礼します。」」
「おやおや、お二人ですか。一体何があったのですか?」
男は顎を撫でながら2人を見る。彼の名はアーロンド・フルーク。大魔統制会の団長だ。常にスーツを着ており、とにかく美や礼儀に対して高い意識を持っている。入団式の際に、彼に礼儀作法を叩き込まれたのを今でも覚えている。基本的に半笑いのような表情をしており、考えを読むことができない。そんなミステリアスな性格の反面、団員からの信頼は厚い。ロビンは今回の件の報告をする。
「今日の10時前、商店街のとある店の中に下級の魔獣が現れた。魔獣は俺が討伐した。後処理は他の者に任せている。終わり次第、資料が届くはずだ。」
「かしこまりました。ご報告ありがとうございます。」
2人は部屋から出る。アーロンドは顎に手を当てる。アーロンドは指を鳴らして数名の団員を呼ぶ。
「彼らが言うには、魔獣は店内に現れた。あの辺りにはたくさんの魔道士がいる。彼らの包囲網を掻い潜って屋内に侵入することは到底不可能。ましてや下級ともなると……。誰かが解き放った可能性がある。………面白いことになりましたね。」
アーロンドは不敵な笑みを浮かべた。
「なんか……あっけなかったな。」
「うん。肩に力を入れた意味がなかった。」
時計を見ると、すでに3時を過ぎていた。
「あっ!」
アリスが声をあげる。
「4時から約束があったんだ。」
「そうか。じゃあ俺はそろそろ帰るぜ。」
「うん、またね。」
「おう、またな。」
ロビンはアリスの家を出て自分の家へと帰る。
大魔統制会
・魔道士が所属する世界的な巨大組織。世界各地に支部が存在する。おもな役割は、魔獣の討伐および世界秩序の保護。
魔力
・世界に存在するエネルギーの1つ。人間にとって有害でもあるが、あらゆるものに利用することができる。
魔法
・体内の魔力を変換して扱う技。攻撃から防御、治療まであらゆることが可能。通常、『魔法は物体に纏わりつくことはない』。
魔道士
・大魔統制会に所属する団員達の総称。6つの階級に分かれ、魔力を用いて魔獣を討伐する。
魔獣
・正体不明の生物。人々に危害を与える危険な存在。