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【第106話】 悲劇とは、無情なるもの

 ニグレードがアルブンド王国を支配してから5年後、世界は魔獣による脅威に晒されていた。魔獣には銃火器などは効かず、人々は逃走を余儀なくされた。そんな中、1人の人間が魔力の仕組みを解析し、魔法という名で魔獣に抗う手段を人々に授けようとしていた。

「解析が終わったと聞いたが……本当なのか?」

アブルートはウィズレノが手に持つ資料を覗き込みながら問いかける。

「えぇ。……完璧とは言えないけどね。」

ウィズレノは外に出て、魔法の試し撃ちを行う。ウィズレノの指先に集まった魔力は氷へと形を変え、近くの岩を粉砕するほどの破壊力を発揮した。

「すごいじゃないか……!これでも、完璧ではないと言うのか?」

「これぐらいなら魔獣は倒せるはず。でも"魔王"には、絶対に通用しない。」

「まだ研究の余地がある、というわけか…。」

ウィズレノは静かに首を横に振った。

「いいえ、もう研究はし尽くした。あとは、各々の技量次第よ。私は伝授しに行くから、話はあと。」

そう言って、ウィズレノは公の場へと向かった。アブルートは試しに、剣に魔力を集めてみる。長い戦いの影響で、魔力を剣に集めることは造作もなかった。

(ここからどうやって、改良したものか……。)

アブルートは剣を遠くの的に向かって振り下ろす。その瞬間、魔力が剣から空気中に拡散された。

(なるほど……。魔力は衝撃を受けると、先程のように散布されるのか。もしや、これを利用すれば……)

 アブルートはその後何度か剣を振り、魔力を狙った場所へと飛ばせるまでに成長した。その時の魔力は、斬撃のように放たれていた。

「これは……使えそうだな。」



「ふむ……実に興味深い。」

クローヴァーは本を読みながら、床に魔法陣を描いていた。その時、部屋にアブルートが入ってくる。

「君は今、何をしているんだ?」

「アブルートか。少し、興味深い書物を見つけてね。死神を召喚し、使役する方法が記されていたんだ。」

「死神とは、あの鎌を持った死神か?」

「そうだ。もし死神を使役できれば、大きな戦力となるだろう。」

「死神は制御できるものなのか?この本を見る限りだと、かなり難しいように思えるが?」

「それは大丈夫さ。ウィズレノに調べてもらったが、私なら死神を使役できる可能性が高いらしい。」

クローヴァーはアブルートを部屋の隅に移動させ、床に描いた魔法陣を起動する。起動させた魔法陣に、クローヴァーは自身の血液を垂らす。血液が魔法陣に触れた瞬間、魔法陣が赤い光を放ち始め、魔法陣の中央からゆっくりと死神が出てきた。

「本当に召喚した……。クローヴァー、使役できるか?」

「まあまあ、私に任せたまえ。」

クローヴァーは躊躇いなく、死神へと歩み寄る。死神は鎌を構え、クローヴァーへ切先を向ける。しかし、クローヴァーは一切怯まない。それどころか、さらに死神との距離を詰める。

「私はもう、死を恐れるつもりはない。あの凄惨な現場を目にしたのだから……。」

クローヴァーは死神の胸に手を伸ばし、一瞬にして自身の魔力を注ぎ込む。

「死神よ、私に従うんだ。」

死神は大人しく、クローヴァーに吸収された。それと同時に、クローヴァーは奥底から湧いてくる力に驚いた。

「これはすごいな……。今なら、どんな相手にも勝てそうな予感がする。」

「それは頼もしいな。」

その時、外から警報が聞こえてくる。

「どれ、試し斬りといこうじゃないか。」

 外に向かうと、衛兵達と魔獣の群れが交戦していた。最前線には、顔にアザがある青年が戦っていた。

「くそったれが!」

青年は魔獣の尻尾を掴み、人間離れした力で振り回して他の魔獣を薙ぎ払う。

「相も変わらず、凄まじい力だね。”バルドストラ”。」

「クローヴァーかよ。アブルートはどうした?!」

「彼には別の地点の防衛に向かってもらっている。」

「そうかよ!なら、てめぇは何しに来た?!」

「決まっているだろう。魔獣を討伐するためだ。」

「てめぇの実力で、魔獣を倒せるのかよ?!」

クローヴァーは平静を保ちながら、死神の鎌を手にする。

「ものは試しだ。まずは……一振り。」

クローヴァーが鎌を振った瞬間、漆黒の斬撃が大量の魔獣を蹴散らす。

「おいおい、なんだよその力は?!」

「あとで説明するさ。それより、ここは私に任せてくれないかい?」

「その力があれば、文句は言わねえ。んじゃ、任せるぜ!」



「魔王様。何やらあちらに怪しげな動きがあります。」

ハデスはニグレードに、現在の戦況を伝える。ニグレードは慌てることなく、冷静に対策を考える。

「デシック、ディストロ、スピリット、クロン。こいつらを戦場に向かわせろ。」

「承知しました。」

ハデスはニグレードを見て、表情を変える。

「魔王様。付かぬ事をお聞きしますが、お体の調子は?」

「……そろそろ、あの依代に乗り換える時かもしれないな。」

「その依代についても、ご報告があります。」

その時、ニグレードは嫌な予感がしたがハデスに話を続けさせる。

「先程依代を確認したのですが……突如として姿を消してしまいました。原因は依然として、不明のままです。」

沈黙するニグレードを前に、ハデスは再び跪く。

「お怒りのようでしたら、管理不足であった私に非があります。この命を差し出す覚悟はできております。」

「ハデス……。お前に非はない。」

ニグレードはハデスに手を差し伸べる。

「俺は決して、仲間を痛めつけるような真似はしない。だから、二度とそんなことを言うな。」

ハデスはニグレードの目が僅かに潤んでいることに気づき、思わず息を呑んだ。

「どうして……忘れていたのでしょうか……。あなた様が、非常に寛大なお方であることを……。」

「この話はやめだ。彼らに食事を。」

「承知しました。」

ハデスは食糧が入った箱を持ち上げ、人質達の元へ向かう。


 ハデスは人質1人1人に、食糧が入った箱を手渡した。人質達はハデスを警戒することなく、快く受け取っていた。

「魔王様からの伝言です。閉じ込めて申し訳ないと、申しておりました。」

「別に、もう気にしてないよ。前の王様が統治していた時よりも、裕福な暮らしができてるからね。」

「そうですか……。もし良ければ、外の空気を吸うつもりはありませんか?」

「そうしたいのは山々だけど、外は危ないんでしょ?なら安全になるまでは、ここにいるよ。」

「わかりました。何かあったら、すぐに教えてください。」

「1つ気になることがあるけど、聞いていいかな?」

ハデスは首を傾げながらも、人質の問いかけを聞く。

「言われてみれば……魔王様は飲食をなさっていませんね…。」

「やっぱりそうか…。なら、この中から持っていってやりなさい。」

「これは魔王様が、あなた方のために用意したものです。受け取ることはできません。」

「私は知ってるよ。彼は昔から、私達よりも紐じい思いをしてきてる。だからこそ、彼には食べる幸せを思い出してほしいんだ。」

ハデスは人質の言葉に感心し、食糧の一部を受け取った。他の人質達からも、同様の事が起きた。

(彼らは全員、魔王様のことを知っている……。これが……思いやりというものなのでしょうか?)

 ハデスは人質達から受け取って食糧を手に、ニグレードに歩み寄る。

「ん?それはどうした?」

「彼らからの気持ちです。どうか、受け取ってあげてください。」

「……いつか、こうなる予感はしてたな。」

ニグレードはハデスを連れ、バルコニーへと向かう。

 バルコニーに出ると、荒廃した城下町が見渡せた。城下町のかつての活気とした光景は、見る影もなかった。

「昔は、こんなんじゃなかったけどな…。」

「そういえば、彼ら魔王様のことを認知しておりました。これは何を表しているのでしょうか?」

「俺が魔王になる前は、食事にすらまともにできないような暮らしをしていた。彼らを人質にした理由は、彼らが俺の次に貧しい暮らしをしていたからだ。」

「彼らにある程度裕福な暮らしを経験させたい。そう思ったのですか?」

「まっ、大体はそうだ。でももう1つの理由は……彼らに、死んでほしくないからだ。」

ハデスはニグレードの目が僅かに潤んでいることに気づく。

「……本当は、誰にも死んでほしくないけどな。だけど、救える人の数には限界がある。だから俺は、彼らを選んだ。もし彼らに危険が迫れば、全力で守るつもりだ。」

「本当に……あなたは寛大なお方だ……。」

ハデスはニグレードの寛大さに、酷く感激した。それは悪魔である彼からすれば、考えられないようなことだった。

「それと……俺はいつか、アブルートど戦わなければならない。絶対にな。」

「確かその者は、魔王様のご友人だったはず。それはなぜですか?」

「あいつは絶対に、俺を本気で止めに来る。だから俺は、本気であいつを説得する。そこでだ。ハデス、お前に頼みたいことがある。」

なんなりと、ご命令ください。」

「もし俺が負けるようなことがあれば、彼らを守れ。アブルートは大丈夫だろうが、あの国王が何をしでかすかわからない。」

「……このハデス、その意思を心に刻みましょう。」

「……ありがとよ。」

そう言ったのち、ニグレードはハデスに手渡された食糧を口にする。その瞬間、ニグレードの目から涙が溢れ出た。

「やっぱり食べられるって……幸せだな…。」

ニグレードはこの時、全ての者が平等に扱われる世界の訪れを心から願った。しかし、そのような世界は訪れない。自分ニグレードという、最大の恐怖がいるような世界には…。



 あの日から何日が経っただろうか。ハデス達が戦場に向かっている間、ニグレードは人質達の元へ食糧を運んでいた。その時、彼の鼻腔を奇怪な匂いが刺激する。その瞬間、ニグレードの中の不安が掻き立てられた。

「………。」

ニグレードは言葉を発することなく、ゆっくりと部屋に近づいた。部屋の中を覗くと、そこには体中に傷をつけられた人質が床に転がっていた。それも1人ではなく、全員だった。

「何が……」

ニグレードは床に血で字が書かれていることに気づく。その内容を見て、ニグレードの中で何かがプツリと切れた。

「……もう、我慢できねぇ。」

ニグレードは食糧が入った箱を床に置き、城の外に飛び出した。

 城下町の上空へ飛行し、ニグレードは自分の感情を爆発させる。

「国王っ!!!貴様は一体、どこまで人を不幸に叩き落とせば気が済む?!なぜ彼らを殺した?!お前は人のことを悪魔だと言うが、お前の方がよっぽど悪魔だ!!!お前はあらゆる人達から、全てを奪うのか?!」

ニグレードは激しく激昂し、空へ黒い炎を放つ。

「もういい……!お前と同じように、俺はお前達の全てを奪ってやる!こんな理不尽な世界諸共……消し去ってくれるっ!!!」

その瞬間、世界は漆黒の闇へと覆われ始める。これが意味すること。それは、”終わりなき戦いの始まり”であった。

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