5.鍛錬開始
「お父さん、お母さんはこの強さになるのにどのくらいかかったの?」
「そうだなー、お父さんが冒険者になったのが10歳だから10年ちょっとくらい活動していたんだ。途中でサラとパーティを組んで数年、続けようと思えばまだ続けられたが、サラがお前たちをみごもったのを機にこっちに来たんだ。今は村の自警団に入ってこの村を守っている。ただお前たちが冒険者になるのであれば、いろいろなところに旅をしながら一緒にまた冒険してもいいと思ってるんだよ」
「わぁーほんとー?!ぼーけんしゃになるー」
「それもいいですね。ぼうけんしゃはかんたんになれるものなんですか?」
自分の考えを父にしたところ予想外の返答が返ってきた。昔冒険者だったからと言って子どもには危ないからなるなよという風に言われると考えたからである。姉は純粋に父や母と一緒に居たいのであろう。冒険者の何たるかを1つも知らずに、にこにこと冒険者になると宣言していた。
「冒険者になること自体はそんなに難しいことではない。10歳になると冒険者登録ができるようになるから登録すれば冒険者だな。ただお父さんみたいにランクを上げるには強くならないといけないがなは、は、は」
「どうすればつよくなるのー?」
「まだ小さいから訓練の話はしないでいたのだが、冒険者になるつもりがあるのであれば少しずつ鍛錬をしてもよいのかもしれないな。リンとカイトはそのつもりがあるか?」
「やるー」
「あります」
姉が父や母とやり取りをしているうちに鍛えていく方向で話が進んでいっていた。大きなことを成し遂げようとは思っていなかったカミトであったが、せっかく異世界に転生したのであれば、本やゲームで想像していた世界の職業についてみるのもいいのではないかとこの時思った。
「ではまずこの木刀を持て」
「え?いまどこからだしたの?」
「こんなこともあろうかと準備しておいたんだ」
「あなた木刀を持つよりももっと先にやることがあるでしょ」
「何かあるか?」
「何になりたいか決めてからでないと…魔法特化にしても最低限の鍛錬をしなくてはならないけどまずは知識が優先ではなくて?」
「それもそうだな、それなら説明を頼んだ。」
父がどこからともなく出してきた木刀に突っ込みを入れたところ母からも突っ込みが入った。何だろう父は物理特化にしていたから頭まで筋肉に鍛え上げたのだろうかとこの時カミトは疑問に思った。
「はあ、しょうがないわね。まずは、スキルのことからね。スキルは大きく分けて物理、魔法、生産、補助の4つに分類されるわ。ここの構成を間違えてしまうと戦闘で役に立たなくなってしまうわ」
「やくにたたなくなる…?」
「ええ、言葉はきつくなるかもしれないけれど冒険者は命をかける場面が他の人よりでくわす可能性が高いの。そんな時に戦闘や支援で役に立たなければ仲間に迷惑をかけることになるわ。迷惑で済めばいいけれど最悪は自分も含めて死んでしまうことよ。だからスキルポイントの割り振りは慎重になるし、余裕を持って行うことと暗黙のルールになっているの」
「死んじゃうのやだー」
「ぼくもしぬのはイヤだな」
「毎年、この話を真剣に聞かない人が一定数いの。その人たちが現実として危険にさらしていることがあるの、だからあなたたちはよく聞いて相談しながらスキルを振っていきましょうね」
「「はーい」」
ごくごく当たり前であるが、母のこの話を理解していないと大変なことになるんだろうなと幼いながらリンは感じ取ったのであった。カミトは知識があるから言われなくともわかっていた。
カミトとしてはポイントを神殿やギルドに行かなくてもあげることができるし、前の知識を活用することでよりよい割り振りをすることで死ににくくすることができるのではないかと考えていた。
「いい返事、しっかり守るのよ。続き話していくわよ。スタイルといっても私もすべて把握しているわけではないのだけれどオーソドックスなのが、物理特化型、魔法特化型、バランス型が主なスタイルとして広く知れ渡っているわ。お父さんは物理特化、私はバランス型にしているわ。初めは物理特化型に近かったんだけれどお父さんと出会ってから前衛はお父さんに任せてどちらもできるように変更していったの。」
「へえ~、お父さんとお母さんはどういうふうにであったの?」
「出会いはそうねぇ~またあなたたちに話をする機会があると思うからその時にね。これでもいろいろ経験してきたから。」
「ききたい~」
「まずはスタイルのことが先!いいわね。」
「え~…わかった」
物わかりのいい姉である。不満そうな顔をしつつも話を聞く姿勢になっている。
(この世界の常識はわからないが、この話結構難しいよな。俺はともかく普通の4歳児、3歳児が理解できるのかな?)
この世界では、伝統を重んじる家柄であれば幼少期のころから鍛錬に励むことはある。だがスキル構成の話になってくると理解できない部分も多くなってくるため7歳や8歳程度になってから説明するのが一般的である。まあ一部の家は伝統として強制的に取らなくてはいけないスキルなども出てくるのだが。ちなみにカイトが生まれたこの家は村の自警団に所属しているのみであるため、貴族でもなんでもない。
「むずかしくて何言ってるかわかんないー、お姉ちゃんはわかるの?」
「え?ちょっとしかわからないよ?」
「え?」
「でもやっちゃいけないことはわかったよ」
「なにをやっちゃいけないの?」
「かってにスキルをとることよ」
「お~」
姉に理解できているか質問してみたところ予想外の反応が返ってきた。4歳児といってもこの世界では早熟なのかなとカイトはこの時思った。
「リンすごいわね。あと少し話したら終わりにするからカミトも頑張って聞いてね。」
「「はーい」」
「戦闘するのであれば物理特化型、魔法特化型、バランス型この3つから選ぶことになるのだけれど要は、武器を使いたいか、魔法を使いたいか、どちらも使いたいかということね。さあ2人はどんなふうに戦いたいかな」
「私は剣で戦いたい!!」
「え…お姉ちゃんすごいな…ぼくはまだ決められないや…」
「そうならリンは物理特化を目指して、カミトはまだ決められないのならば焦る必要はないから鍛錬だけリンと一緒に始めましょうか。ただ2人ともに言えることだけどスキルを取り始めるのは10歳からそれまでは変えることもできるから変えるのであれば言いなさいね。」
「「はーい」
(まあ俺は自分でスキルをとることができるから、しっかり考えながら少しずつ取り始めよっと。この後でスキルの詳細を改めてみていくか…転生者のみが取れるスキルもあったし。)
「話は終わったかなさっそく鍛錬をしようか。」
「「わ~」」
このとき2人は「わ~」と声をあげたが意味合いは180°違った。リンは喜びの返事、カミトは悲しみの返事であり、鍛錬するのはいいが3歳児ができるのかという思いと、話が少し長くて眠たくなってきていたからである。
「木刀を準備したがまずは走り込みからだな。体力はいくらあっても困らん。攻撃するとき守るとき、逃げる時などいつでも体力の余裕がないとその先はないと思ったほうがいいぞ!魔法を選ぶにしても必要なことだ。わかったか」
「は~い」
「では少しずつ距離を伸ばしていくがまずは村一周からだ。」
「むらいっしゅうってどのくらいのながさになるんですか?」
「そうだな〜ざっと8キロ〜12キロってところか。」
「無理無理無理、死んじゃうよ!!」
カミトは驚きのあまり素が出てしまった。普通に考えて3歳児が15キロとか馬鹿げている。出来て1キロ程度であろう。姉もそうだそんなに走れるわけがない。
「そうかお父さんはいつも朝に2周はしているんだけどな」
「おとなのおとうさんといっしょにしないでよ。」
「それもそうか、なら今日走れるところまで走ったら、明日以降それよりも長い距離を走るなんてどうだ?」
「それならがんばれるきがする。」
「リンもそれでいいか?」
「いいよ!カミトにはぜ〜たいまけないんだから」
「ぼくだっておねえちゃんにまけないから。」
姉からの宣戦布告を受け、カミトの中にも陸上で培ってきた負けん気がひょっこり顔を出してきた。絶対に負けてやるもんかと肩を怒らせながら外へと出ていった。