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君だけって、言ったでしょ?

作者: 夢咲恋歌

微ホラーです

あまり怖くないと思います

それでも良い方、どうぞ↓

茹だるような暑さの日。

その日も、飽きずにかくれんぼをしていた。


「もーいーかい。」

「まーだだよ。」

「もーいーかい。」

「もーいーよ。」


セミの鳴き声と川の流れる音。


「たっくん見いつけた!」

「見つかっちゃった……。ほんと、マイちゃんにはいつも簡単に見つかっちゃうな。僕を見つけてくれるのはマイちゃんだけだよ?」

「えへへ、次はたっくんが鬼ね!」

「むずかしいところにかくれちゃダメだからね、マイちゃん!」

「そんなこと言って!たっくんいっつもマイのこと簡単に見つけちゃうじゃん!」

「だってぼく、マイちゃんげんていセンサーついてるから。」


懐かしいその憧憬が瞼の裏に焼き付いて離れない。


「じゃあ、じゅうかぞえるよ?いーち、にーい!」


声変わりもしてないその声から離れるように走る。

そして、いつものように筒の中に身を潜めようとして…………。


「……ッ?…………!?」


頭に痛みを感じて身体を起こす。

キョロキョロと見回せば呆れ顔の友人。

そこで、ココは学校でこの友人を教室で待っていたのだと思い出す。


「アンタね…寝るくらいなら先帰って良いんだよ?」

「えへへ、ごめん。部活終わったの?」

「終わったから迎えに来たんでしょ!ほら帰ろ!」

「うんっ。」


カバンを手に取り、二人揃って教室を出る。

外はもう薄暗く、窓の外は暗闇で覆われてる。


「ほんと、こんな田舎イヤ。とっとと出て行ってやるんだから。」

「いつも言ってるね。部活で推薦とれたんだっけ?」

「そーなの!春からの高校生活は都会デビューよ!」

「都会デビューって。」


確かにこの辺りは街灯も少ない田舎だ。

かと言ってものすごい田舎かと言われればそうでもない。

ただの過疎地域だと、私個人は思ってる。


「学校行くまでにあるコンビニはたかだか一件!しかも朝八時から夜の八時まで!学校かって話でしょ!?」


友人の止まることのない不満を聞きながら帰る帰り道。

ふと、今日夢で見た懐かしい河川敷に目を留める。


「アイス食べたい、アイス!!なんでコンビニ閉まってんの!?」

「アイスは食べれないけど、川ならあるよ。」

「パス。こんな暗闇で川入るくらいなら家帰って風呂入って寝る。」


キリッとした表情で語る友人に笑いつつ、家路につく。


「それじゃあね、マイ!気をつけるんだよ!たかが三分くらいの距離だけど!」

「うん!バイバイ!」


たかが三分くらいの道のりでも街灯のないこの区間は暗くて。

不気味で、怪しい。

月明かりすら、まともに届かない。


「マーイちゃん。」


聞こえた声に振り返れば、懐かしい人影。


「あ、やっぱりマイちゃんだ!久しぶり!懐かしいなぁ、会いたかったよ!」


遠くでセミの鳴く声が聞こえる。

耳の奥で、川のせせらぎが聞こえる。


「…………たっくん?」

「覚えててくれたの?嬉しいな!」

「わ、嘘、本物!?いつこっち帰って来たの?」

「今日だよ。マイちゃんの家に行ったらまだ帰ってなかったから、ココで待ってたの。」

「えぇ!?危ないよ!こんな真っ暗なのに!」

「確かに都会に比べたら暗いけど、僕はこのくらいの方が落ち着くなぁ。マイちゃんと二人きりって感じがするし。」

「……、もう!」

「ハハハッ!」


たっくんの笑い声が響く。


「ね、散歩行かない?」

「うん良いね!あ、でも先にカバン置いてくる!心配かけちゃうから。」

「わかった。」


ダッシュで家に帰り、自室にカバンを投げ入れる。


「マイ、お帰り。ちょっと、手伝ってくれる?」

「ごめん!あとで!ちょっと出てくる!」

「こんな暗い時間に!?ちょっとマイ!?」

「大丈夫!そこで話すだけだから!」


母との会話を物理的に遮り、外へと出る。


「おまたせ!」

「全然待ってないよ。でも、良いの?今のお母さんでしょ?」

「大丈夫!あんまり遠出はできないけど。」

「遠出はしないよ。じゃあ行こっか。」

「うん。」


二人並んで夜道を歩く。

茹だるような暑さと、セミの声。


「懐かしいな。都会ではあまりセミの声って聞かないから。」

「そうなんだ。これがあると夏が来たって感じがするのに。」

「……ね、覚えてる?かくれんぼしたこと。」

「覚えてるよ。皆で遊んでても最終的には私とたっくんの一騎打ちみたいになっちゃったの。」


そう言えば、たっくんが優しく微笑む。


「マイちゃんが皆を見つけるの上手だったから。」

「たっくんだってすぐに私を見つけたじゃん。」

「僕にはマイちゃん限定センサーがついてるからね。」

「もう、そればっかり。私がかくれんぼ下手くそだって言ってくれて良いんだよ?」

「僕、マイちゃん以外を見つけるのは下手くそだったんだよねぇ。」


カラカラと笑う姿に過去の面影を見る。

幼い頃から、全然変わってない。


「いつ向こうに戻るの?」

「お盆期間はこっちに居るよ。」

「そっか!じゃあまた会える?」

「会えるよ。マイちゃんが夏休みなのに学校に行かなかったら。」

「む……仕方がないでしょ、夏期講習があったんだから。でも、明日が最終日で早く終るって先生言ってたから会えるよ。」

「そっか、じゃあ明日迎えに行くね?」


身体を屈めて視線を合わせてくる。

その何気ない行動にドキリと心臓が音を立てる。


「明日迎えに行くから、ちゃんと起きて待っててね?」

「もう…それだといつも私が寝てるみたいでしょ!」

「ごめんごめん。じゃあ迎えに行くから。見せたいものがあるんだ。」


いつも、そう言って比較的涼しい時間帯に私を連れ出す。

茹だるような暑さも、そのちょっとした気遣いでチャラになる。


「わかった、待ってる。」


その返答に満足気に笑う。


「さて!それじゃあ、帰ろっか!あんまり遅いと心配かけちゃうからね。」

「だね。」


揺れる手に手を伸ばすけど、一度も触れたことはない。


あの頃からずっと。




茹だるような暑さが少しマシな時間帯。

太陽が少し顔を出している時間。

今日の夕焼け空は少し赤みが強い気がする。

ほんの少しだけ涼しい風が頬を撫でる。


「……、ふふ。」


眼下に見えた人影に小さく笑い、カバンを持って外へと飛び出る。


「たっくん。」

「マイちゃんっ。」

「早いね。いつから待ってたの?」

「ついさっきだよ。じゃあ行こっか。」

「どこ行くの?」

「思い出をめ巡ろうかと思って。」

「良いね。楽しそう。」


たっくんと二人、誰も居ないその道を歩く。

大きな鳥居をくぐり、散歩コースとして存在している参道を抜ければ、小さな滝と小さな川があって。

木漏れ日に照らされる川の側にはたくさんの蓮の花が咲いていて。


「わぁ…!懐かしい!久しぶりに来た!」

「キレイな場所なのに、久しぶりなの?」

「だってココ、たっくんとしか来ないもの。」


でも、蓮の花が咲いているのは全部川の向こう側。


「渡る?」

「渡らない。ココの川は渡っちゃダメだって言われてるの。」

「そっか。うん、そうだったね。ごめん、忘れてた。」


その曖昧な微笑みの中に、知らない彼が居た気がして。


「…………っもう、しっかりしてよ。この川渡ったら二度と帰って来れないんだよ?」


彼がいつも通りに微笑むから、気の所為だ。


「久しぶりで忘れてたんだ、ごめんね。


言い伝え守ってるマイちゃんも、


可愛いから好き。」


だから、私も笑顔を意識して。


「ありがと。それにしても……ココはいつ来ても涼しいね。」


川のへと一歩踏み出せば、ヒンヤリとした風が身体を撫でる。


()()が濃いからね。」

「確かに、滝のせいかココは()()が濃いよね。」

「そうだね。」

「涼しいね。」

「川を渡って向こう側に行けばもっと涼しいよ、きっと。」

「行きません!ほら、川下ろ?」


散歩コースになっている参道を川沿いに降りていく。

さっきまでの涼しさはもうない。


どうやら気づかないうちに長居してたらしい。

月が昇っている。


「暑くて溶けそう……。」

「マイちゃんは暑さに弱いね、昔から。」

「この異常な暑さで涼しい顔をしてるのは、たっくんくらいだよ。」


ムスッとして少し後ろを歩く彼を振り仰ぐ。


「あれ、マイ?」

「!」

「アンタこんなところで何してんの?」

「そっちこそ。」

「私は部活のロードワーク。ココの山登って怪我するなよ〜?アンタ前も血だらけになるような怪我したんだから。」

「いつの話してるの!もうそんなヘマしないよ!」

「どうだか。」


友人が横を通り過ぎ、上へと登っていく。


()()()こんなとこ登って独り言激しいと心配になるでしょ。」

「え……?」

「アンタ昔からそういうところあるけどさぁ。一人でかくれんぼしたり……。とにかく!散歩も程々にね、マイ!」


ドキドキと鼓動が大きく鳴り響く。

耳元で川のせせらぎが聞こえる。


──…マイちゃん、遊ぼう!

──…マイちゃん、かくれんぼしよ!

──…マイちゃん、あの川、渡らないの?


耳の奥で、あの頃の憧憬と声が再生される。


「マーイちゃん。」

「!」


その声に振り返る勇気が出なくて。


「言ったでしょ?」


足音が近づいてくる。


「僕を見つけるのはマイちゃんだけだって。」


彼の腕が肩に乗り、後ろから抱きすくめられる。


ボスンッと音をたててカバンが肩から滑り落ちる。


真夏だと言うのに、彼は昔から()()()


それを知ってからは……、


避けるように彼の手を握らなくなった。


「僕、マイちゃん限定のセンサーついてるから。」


彼の冷たい吐息が耳を撫でる。


「ね、マイちゃん。」


ゆっくりと振り返れば、ニコリと微笑むたっくん。



「昔より気合の入ったかくれんぼ、する?」



──…もーいーかい


──…まーだだよ



幼い子供の声が、耳を滑り落ちていく。



これは、誰の声?



「どこに隠れたとしても






絶対に……、







見つけるけどね?」



笑みが濃くなる。



「たっく………。」



「だって僕、昔からマイちゃんのこと











だぁい好きだからさ。」



茹だるような暑い夏の月夜。


どこかで鳴いていたセミの声が、プツリと途絶えた。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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