お忍びで来た皇后
「敏麗ちゃん、どうしてここに?」
芳子が敏麗の元に駆け寄る。
「敏麗?この人ってもしかして満州国の皇后様?!」
佳代子が敏麗の姿に驚いている。
「そうよ。だけど皆には内緒だわ。」
敏麗は人差し指を佳代子の唇にあてる。
「おい敏麗、お忍びで来てるわりには派手にやってくれるな。」
路地裏からスーツ姿の田中とメイド服の鈴花が出てきた。
「田中さん?!それに鈴花まで。」
「芳子様、取り敢えず北川さんの家まで案内して下さるかしら?」
「敏麗、話ならホテルでいいだろう?」
「あんな安っぽいホテルに皇后が泊まれるとお思いになって?」
田中が手配したのは鈴花の夫が経営するような要人御用達のホテルではなく庶民が泊まる格安の民宿だ。
「仕方ないだろう。お忍びなんだから。あまり皇后皇后言うと感づかれるぞ。」
田中の言う通り騒ぎを聞き付けた長屋の住民達が顔を出している。
「誰だい?あの変わった着物の娘は?」
住民達は敏麗を物珍しそうな目で見ている。
「おい、行くぞ。」
敏麗達は芳子に案内され北川家の玄関に向かう。
「ここなら誰にも聞かれないか。」
敏麗達は芳子の部屋に入り田中が戸を閉める。
「田中さん、お忍びってなんで皇后として堂々と日本に来なかったのですか?」
「そう言う訳にも行かないんだ。」
4年前の皇后暗殺未遂事件で栄羅が犯人として捕まった。あれ以来宮廷内で事件はないが栄羅が言った事が気になっていた。
「私の仲間がいずれ宮殿を攻めてくるわ。」
栄羅が連行される前に敏麗に言った言葉だ。
あれから4年。特に反王室派の目立った動きはない。
「それで敏麗がお前を迎えに行くと言い張ったんだ。」
敏麗は溥儀を婉容のいるイギリスに向かわせ芳子を皇帝に即位させる気だ。
「それでなんでお忍びなんだ?」
芳子が田中に尋ねる。
「皇后が留守だと知ったらどうなる?」
「城は隙だらけ。そういう事か。」
反王党派の目を欺くために敏麗と田中は日本人の夫婦、そして鈴花をメイドという定で入国したのだ。勿論軍が用意した偽造パスポートで。
「芳子様、大陸に戻りましょう。」
「そうだな。ただ佳代子ちゃんや北川さんにお礼は言いたい。」
芳子が荷物を纏めようとした時
「きゃあ!!」
隣の部屋から佳代子の叫び声が聞こえてきた。
「何事ですの?」
敏麗達は隣の部屋へと走る。佳代子の部屋だ。
「た す け て」
佳代子が先ほどの女に首を締められている。
シャン シャン
敏麗が鈴を持って舞を踊り出す。女は佳代子の首から手を離す。
「やりましたか?敏麗さん。」
鈴花が尋ねる。
「いえ、まだですわ。」
敏麗は女と向き合う。
「そなたは誰じゃ?そなたの目的は何じゃ?」
「わ た く し の や し き。わ た く し の ば しょ」
女は敏麗に言い残すと消えていく。




