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物置小屋の女

1941年

「芳子さん、早く。」

芳子はセーラー服にモンペ姿の少女に連れられ人里離れた山奥の廃墟の物置小屋へと向かう。そこには米俵や野菜など食糧が隠されている。

「加代子ちゃん。」

加代子と呼ばれた少女から芳子はナイフを受け取る。芳子は俵を切るとそこから米が出てくる。袋いっぱいに詰めてその場を立ち去ろうとした時

「芳子さん、隠れて。」

芳子は加代子に手を取られ物陰に隠れる。足音が外から聞こえてきたのだ。

憲兵かも知れない。見つかったら只では済まない。足音は小屋の前で止まる。扉が開かれる音がする。

「ひっ」

加代子が声をあげようとするが芳子が背後から口を抑え制止する。

「声をあげちゃ駄目だ。やつらに気づかれる。」

顔を上げて入って来た者の正体を確認する 

(嘘だろう?!)

芳子は必死に叫びたくなる声を必死に抑える。足音の主は憲兵よりも怖い存在だった。

「加代子ちゃん」

芳子が加代子の耳元で囁く。

「絶対に声を出しちゃいけない。絶対にあいつをみてはいけないよ。目を閉じていて」

足音が止まる。芳子は小屋に裏口があるのを気付く。

「加代子ちゃん。目を開けて。」

芳子が小声で囁く。

「裏口が見えるか?」

裏口は芳子と加代子の目の前にある。

「いいか?屈みながらあの扉まで向かうんだ。」

加代子は頷く。二人は四つん這いになってゆっくり音を立てないように扉に向かう。それから勢いよく扉を開けると後は米の入った袋を抱えて家路に急ぐ。



「加代子、川島。行ってきたか。」

「北川さんどういう事ですか?!あの場所は危険です。」

芳子は日本に追放された後かつて満蘭の教科書の編集に携わった北川の出版社で働いている。そして北川の家に厄介になっているのだ。しかし戦争の悪化で食べ物がなくなり廃墟だった場所を改装した軍の食糧庫まで盗みに行っている。

「川島、危険なのは分かる。だけど生きるためには仕方のない事だ。今まで通り憲兵のいない隙に盗むしかない。俺達だけじゃなく街の皆のためだ。」

盗んだ食糧は北川家だけでなく隣近所にも分け与えている。盗りに行くのも芳子や加代子だけでなく街の若い者が交代で行っている。

「北川さん、問題は憲兵だけではありません。」

 芳子は小屋で見たものの話をする。

芳子は足音を聞いて小屋の奥の棚の陰に佳代子を連れ隠れた。棚の上の米俵の隙間から入って来た人物を確認した。

「そこにいたのは長い黒髪に身体が透けた白い着物の女でした。僕は生きてる人間じゃないとすぐに分かりました。」

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