鈴と芳子
「鈴ちゃん、鈴ちゃん。」
田中先生に何度か声をかけられふと鈴は我に帰る。
「良かった。鈴ちゃん、授業はいいの?」
鈴はふと壁にかかった時計を見る。授業開始時間はとっくに過ぎていた。
「急がなきゃ。」
鈴が本を元にあった場所に戻そうとした時
「鈴ちゃん、余程その本気に入ったのね。」
田中先生は鈴が手にしている本に目をやる。先ほど棚から落ちてきた物だ。表紙には「男装の麗人 川島芳子」と書いてある。鈴は顔を赤く染める。
「この方の事は以前宝塚のOGの方が演じていて興味があったのです。」
「彼女の本あるわよ。読んでみる?」
「でも授業が。」
「私この人鈴ちゃんと似てると思うの。」
「先生、私は軍なんて男社会に身を置いたりしませんよ。華やかじゃないので。」
「違うわ。」
田中先生は一冊の本を見せる。芳子の獄中記だ。
「彼女女学校の頃は相当な問題児だったそうよ。日本史の授業中に突然自分の国が滅ぼされた話を聞かされた事に腹を立てて教室を飛び出してしまったそうよ。」
そういえば今も日本史の授業中だ。
「だったら今日はここで日本史の自習するわ。」
そう言って鈴は芳子の獄中記を読み出す。
本の中の一文が鈴の目に止まる。
「福田さん?!貴女どこ行ってたの?!」
教室に戻った鈴に西園寺が話しかける。
「どこって図書室で日本史の自習してた。」
「それにどうしたの?その大量の本。」
鈴は図書室から芳子に関する書物を全て借りてきたのだ。鈴は西園寺を無視して席に着くと借りてきた本を読み始める。芳子をモデルにした小説男装の麗人だ。
「ちょっと無視?」
鈴は西園寺の問いかけにも答えない。
「次のホームルーム。文化祭の役割分担決めるけど私と一緒ね。中村君も声かけたから。」
「だったら私じゃなくて中村君とやれば?私は女子だけの係選ぶから。」
「福田さんそんな係りないわよ。」
どの係りも男女均等にするように配役するらしい。
「私は納得行かないわ!!」
「それ先生が決めたみたいよ。」
「そうよ。」
実行委員の女子生徒が西園寺に賛同する。
「共学になったから男子とも交流すべきだって。福田さん男子避けてばかりだからこれを機に仲良くしてみたら?」
「そうよ。いい出会いもあるかもしれないじゃない。」
鈴は本を閉じると立ち上がる。
「男は嫌いよ!!女を困らせるから!!」
鈴は芳子の獄中記に書いてあった事を叫ぶ。田中先生の言った通り自分と芳子は似ているのだ。
放課後鈴は小説「男装の麗人」を読みながら下校する。文化祭の係は案の定男子と一緒になった。鈴は抗議したが誰にも賛同してもらえなかった。
「福田さん!!」
背後から西園寺の声がする。しかし今は誰とも話したくない。それに男装の麗人の小説が面白くて本を閉じたくないのだ。周りに何を言われようと自分の意のままに生きてる芳子の姿が今の自分と重なって見えたのだ。
「福田さん!!」
無視しても自分を呼びつづけている。
「いい加減にして!!」
鈴が立ち止まり振り返り叫んだ。
「福田さん!!前!!」
トラックが前方から走って来てた思ったら次の瞬間けたたましいクラクションが周囲に響き渡る。




