綾の願い
「田中さん上着脱いで下さい。」
「大丈夫だ、自分でやる。」
ここは宮殿内の医務室。舞蘭が田中の上着を脱がせようとする。
「右腕動かせないのにどうやって脱ぐんですか?」
舞蘭は軍服の上着を脱がせる。
「やめろって言ってるだろう。」
田中は舞蘭の手を振りほどこうとするが痛みで思うように動かせない。
「動かないで下さい。傷口が開きますよ。」
上着を脱がせると次はブラウスを脱がせ傷口にガーゼを巻く。
「器用なものだな。」
田中は手際よくガーゼを巻く舞蘭に関心する。
「幼い頃に母がやってくれたので。」
舞蘭の母は看護婦であった。患者である父と出会い農村に嫁いだ。
「私や村の子供が怪我をすると手当してくれる優しい母でした。」
「お母さんはまだ田舎にいるのか?」
舞蘭は首を振る。
「母は病気で亡くなりました。」
「ごめん。」
「構いません。」
舞蘭が田中に母の話をしていた時だ。
「入るわよ。」
敏麗が医務室にやって来た。
「舞蘭、綾はまだ戻って来てなくて?」
綾は敏麗を撃とうとした犯人を追跡しに行ったが戻って来ないという。
「いえ、ここには来てません。」
「舞蘭、悪い事は言わないわ。綾をなるべく早く成仏させなさい。」
「どうしてそんな事言うのですか?!綾ちゃんは幽霊でも友達なんです。」
「友達だから言ってるの。」
敏麗曰く霊は長い事現世に留まっていると悪霊化するのだ。
「綾が悪霊になんてなるわけない!!」
舞蘭が立ち上がる。
「いえ、いずれはなるわ。だから綾を説得させて。」
敏麗が成仏させるよう言いかけていた時
「お姉ちゃん。」
後ろに綾が立っていた。浮いていたというのが正確だ。
「お姉ちゃん、私悪霊になるの?」
綾は先ほどの話を聞いていたようだ。目には涙を浮かべている。
「綾、大丈夫よ。」
敏麗は綾の手を握る。幽霊に触れられるのも霊力の高い巫女の力の1つだ。
「成仏すれば大丈夫。また人間に生まれ変われるわ。」
しかし綾は首を横に振る。
「皇后様、綾だってまだ私達といたいんです。」
「気持ちは分かるけどこればかりはどうにもならないわ。」
悪霊になったら例え敏麗でもどうすることもできない。昔女学校の級友が無理矢理連れて行かれた廃墟の霊達と同じように。
「千鶴子姉ちゃん」
綾が千鶴子の名前を口にする。
「千鶴子姉ちゃん、止めなきゃ。」
綾が成仏したくない理由は千鶴子にあった。
「千鶴子姉ちゃん、助けたら成仏する。」
「分かったわ。その代わり悪霊になっても知らないわよ。」
綾が頷く。
「そうだわ。綾、皇后様を撃とうとした犯人は?」
舞蘭が核心をつく。
「私、あいつらの居場所、突き止めた。」




