一夜限りのプリンセス
「敏麗さん、本当に宜しいのでしょうか?」
ここは鈴花の夫悠平が経営するホテルの一室。
鈴花は敏麗の侍女にドレスを着せてもらっている。
「ええ、勿論よ。」
鈴花が選んだのは水色の生地に青い花柄のドレスだ。これも婉容がデザインしたものである。
「貴女は今日は青い花のプリンセスだもの。」
「敏麗さんこそ戴冠式の時とはまた雰囲気が違います。」
敏麗が選んだのはマーメイド型の黄金色のイブニングドレスだ。
「ええ、斬新なデザインだったから。」
二人がドレスの話で盛り上がっていると
トントン
ノック音がする。
「どうぞ」
やって来たのは悠平と田中だ。
「素敵だよ、鈴花。」
「ありがとう。」
「田中中佐はいつもの軍服なのね。」
「ああ、俺は外で見張りだ。敏麗」
田中は敏麗の耳元に顔を近付ける。
「例の件分かっているな?」
敏麗は黙って頷く。
「さあ、鈴花。行こう。」
鈴花は悠平の腕を取り部屋を出る。
「敏麗、俺達も行くぞ。」
田中が敏麗に腕を差し出す。
「あら、あなたにしては紳士的ね。」
「俺にしてはは余計だ。」
二人も鈴花達に続いて部屋を出る。部屋の外には溥儀が待っていた。
「陛下。敏麗をお願いします。」
「ああ。」
田中は敏麗を溥儀に託すと護衛の任務に戻る。
「陛下、本当に申し訳ありません。わたくしの我が儘に巻き込んでしまい。」
「構わないよ。」
舞踏会には最初は田中にエスコートされて敏麗1人で出席する予定だった。しかし溥儀の希望で皇帝皇后夫妻で出席することになった。
舞踏会の会場はシャンデリアが煌めくロビーである。この日のためにホテルを完全に貸し切りにしたのだ。参加者の女性達は婉容のデザインしたドレスで夢のような一時を楽しんでいる。
鈴花は悠平に手を支えながら階段を降りる。大島を探すように辺りを見渡す。
「鈴花、どうした?」
悠平に声をかけられる。
「大島はまだ来てないのね。姿が見えないわ。」
悠平も大島のことを知っている。勿論舞踏会開催の目的も。
「いずれ来るだろう。鈴花、復讐も分かるがこの時間を楽しむといいよ。」
「鈴花夫人?!」
鈴花の周りに参加者の女性達が集まってくる。
「本日はこのような機会を設けて下さりありがとうございます。」
女性達は次々に鈴花に一礼をする。
「本日の主宰は皇后様ですわ。お礼なら私ではなく皇后様に。」
その時会場にトランペットの音色が響き渡る。
「皇后様だわ。」
「皇帝陛下もご一緒よ。珍しいわ。」
溥儀は人前が苦手で公務の時以外はめったに表には出ないのだ。」
参加者達がお辞儀をしながら道を開けると2人は用意された玉座へと向かう。
「敏麗さん、踊って頂けますか?」
オーケストラの演奏が始まると鈴花が敏麗に声をかける。




