宮殿での生き方
「お久しぶりですね。陛下。」
婉容が口を開く。かつての夫との再会を果たす。
「元気でやってるみたいだね。噂は聞いているよ。雰囲気も随分と変わったじゃないか。」
「うふふ、敏麗にも同じ事言われたわ。それにしてもあなたがまさか彼女が好みだったなんて。」
敏麗は笑っている。
「僕の意志ではないよ。」
溥儀が悲しそうに答える。
「結婚は僕が決めた事ではないんだ。」
婉容は溥儀の口から聞かされる。敏麗との結婚は日本軍が決めた事だと。
「相変わらずこの国は日本軍の言いなりなのね。」
「いや、敏麗が自ら名乗り出たのだ。だからこの結婚は日本軍の意志というより敏麗の意志だ。」
「一体あの娘は何を考えてるのかしら?」
婉容は宮殿に来てからの敏麗の言動に疑問を抱いている。
「芳子の事が好きなのに別れたり、皇后に立候補したり、日本の富裕層と中国人の平民女性を結婚させるための舞踏会を開くというのよ。」
「そうみたいだな。」
「まるで興味のない口振りですわね。」
溥儀は敏麗のやる事に着いていけてないようだ。
「彼女の行動は理解不能だ。ただ」
「ただ?」
「彼女が羨ましくも思うんだ。」
敏麗は建国後巫女に就任し女学校の創立に成功した。そして今度は平民の女性達のために舞踏会を開こうとしている。溥儀の目からは窮屈な宮殿の生活に負けず生き生きとした姿が見えるというのだ。
「彼女には僕にないものを持っている。君と同じで。だから彼女の事は嫌いじゃないよ。」
「そう。」
婉容は一言呟くと笑みを見せる。
「私は親に言われるがまま滅亡した王朝に嫁いできた。私の意志などそこにはなかったわ。だけどここで敏麗と出会えてここに来た事は間違ってなかったって思うわ。」
婉容は身支度をすると立ち上がる。
「送っていくよ。」
溥儀は敏麗に上着をかけると扉を開けてくれる。
「田中中佐!!」
扉の外には田中が立っていた。
「婉容様、入らしていたのですね。」
田中は婉容に会釈する。
「ええ、皇后様からお誘いを受けて。」
「そうでしたか、その皇后様はどちらに行かれましたか?」
「確か生糸工場に行かれました。」
「そうか、ありがとう。」
敏麗が宮殿にいない事を知ると再び部屋を後にする。
「婉容、僕達も行こう。」
溥儀は宮殿の入り口まで見送ってくれた。
「ありがとう。」
婉容は溥儀に手を差し出す。2人は握手を交わし別れる。
その頃天津の日本人の邸宅。
「鈴花様、お客様がお見えでございます。」
「私に?誰かしら?」
鈴花はこの屋敷で夫と暮らしている。
「軍服姿の日本人将校でございます。」
「分かったわ。今行くわ。」
鈴花は訪問者に心当たりがあった。抱いている猫をメイドに預け玄関に向かう。
「田中中佐?!やっぱりそうだったのね。」
鈴花が田中を屋敷にあげようとした時
「きゃっ!!」
鈴花は手を握られる。
「鈴花、客間じゃなくてお前の部屋行ってもいいか?2人きりで話がしたい。」




