敏麗の描く理想
「お姉様なぜ着付けを?」
「日本人は公式な場では着物を身に着けるのよ。いずれ役に立つわ。」
なぜ日本なのか?瑛林の頭の中では月乃と同じ疑問が浮かんだ。
「お姉様、満蘭女学校はどんな目的で設立したのですか?」
月乃の言う通り満蘭の授業も瑛林に勧める習い事も全て外国語や着付け、社交ダンスと外国で役に立つ物ばかり。しかし中国人である瑛林には馴染みのない物ばかりだった。
「大半の中国人は田畑を耕して暮らしているだけ。世の中には華やかな生き方があるのにそれを知らないのは幸せになる道を閉ざしてしまう気がするの。わたくし達は西洋諸国や開国して西洋化した日本の乙女達から学んでいる最中なのよ。女の子の幸せのあり方を。」
「お姉様が描く女の子の幸せって何ですか?」
敏麗は立ち上がると本棚から一冊の本を取り出す。西洋のプリンセスの絵本だ。
「皇后様から頂いたの。パリに旅立つ前に。」
敏麗は絵本の頁を開く。
「ご覧になって」
「お姉様このドレス」
敏麗が開いたのは少女が王子様と出会う場面。以前婉容から見せてもらった場面だ。
「満蘭の制服とどことなく似ているわ。」
少女が着ているのはピンクのフリルのドレス。瑛林が着ているピンクの制服とデザインが似ている。
「皇后様はこのドレスから着想を得て制服を作って下さったのよ。」
絵本の物語はお花を摘むのが好きな街娘が王子様と結婚してプリンセスになる話だ。この頁はお花を摘んでいたところで王子様と出会う場面だ。
「皇后様はおっしゃってました。満蘭女学校は乙女達が王子様との出会いを待つ場だと。それまでの間お城に上がるために必要なことを学ぶ場所にしたいと思っているわ。」
「だけどお姉様、私はまだ王子様と呼べる相手などいません。」
「いずれ現れるわ。」
いえ、もう現れてる。そう言おうとした時
「敏麗ちゃん?!いる?」
部屋の外から芳子の声がした。
「どうぞ。」
敏麗が返事をすると芳子が入ってきた。
瑛林は芳子に一礼して部屋を出る。
「きゃっ」
瑛林が歩き出そうとすると立ち眩みでよろけてしまう。
「大丈夫か?」
芳子が支えてくれる。瑛林はありがとうございますとお礼を言って部屋を出る。
「瑛林ちゃん大丈夫か?あの娘最近学校でも顔色が優れてない。」
芳子は瑛林の体調が心配になって訪ねてきたのだ。
「降霊の仕事に付き合わせたりしてないか?」
「いえ、今は宮殿での式典や陛下への助言ばかりで一般の方からの降霊の依頼は受けてませんわ。」
「だったらいいが。あの娘ダンスの授業中も突然意識失って。無理してるんじゃないか?」
「芳子様があの娘の心配なんて珍しいわ。あの娘の事は姉であるわたくしが分かっておりますわ。」
「僕は一教師として気になってるだけだ。」
「良かったわ。」
敏麗は芳子の首に腕を周す。
「僕が浮気でもしてると思った?」
「少し。」
「今は敏麗ちゃんしか見てないよ。」
芳子も両手を敏麗の背中に周し敏麗を抱き寄せる。




