霊の溜まり場
突然ドアが閉まる。ドアノブを回そうとするがびくともしない。
「誰だ?開けろ!!」
芳子が大声で叫ぶが誰も応答しない。
「お姉様!!」
瑛林が泣きながら敏麗のスカートの裾を引っ張る。
「大丈夫よ。お姉様がいるわ。」
クックックックッ
どこからか笑い声が聞こえてくる。
「お姉様」
瑛林がベッドの方を指差す。
そこにいたのは長い黒髪に白いワンピースの女性だ。昔敏麗が日舞の稽古の帰りに柳の木の下で見たお姉ちゃんと瓜二つだ。
「誰だ?!手を挙げろ!!」
芳子が女に銃を向ける。
「銃を降ろして。」
敏麗がとっさに芳子が構えた手を降ろす。
「何するんだ?」
「霊に銃なんて効かないわ。」
クックックックッ
女は笑いながら近づいてくる。
「じゃあどうすればいいんだ?」
徐霊の仕事に使う道具は学校に行くとき馬車に置いてきた。ここで祓うことはできない。
「そうだわ。」
敏麗は鞄から塩を取り出す。もしものときのために持ち歩いてるのだ。敏麗は女に向かって塩を投げる。
うっ
女は苦しみながら消えていった。
「成仏したのか?」
「まだですわ。この場所からいなくなっただけ。」
「今のうちに逃げましょう。」
先ほどまでびくともしなかった扉は簡単に開いた。敏麗は瑛林と手を繋ぎ芳子と共に部屋を後にする。
「お嬢さん、君は一体何者なんだ?」
歩きながら芳子が尋ねる。
「わたくしをご存知なくて?」
「生憎だがご存知ないな。」
敏麗は自己紹介をする。自分は霊感があって霊能者をしてることを。
「天才霊能少女敏麗と呼ばれてますわ。」
「それでこんなところに妹連れて徐霊の仕事か?」
「違いますわ。今日は級友にはめられて連れて来られただけですわ。貴女こそこんなところで何をしていたのですか?男装の王女様が。」
「僕は軍の任務で来た。」
芳子は今日本軍に身を置き王朝復活を目論んでるという。紫禁城で暮らす皇帝溥儀と皇后婉容の新居をさがしていてこの場所を軍が候補に挙げてるという。芳子は下見で来たという。
(新国家建国のために連れだそうとしてるのね。)
「馬鹿なの?貴女も軍も。」
敏麗は言い放つ。
「馬鹿とはなんだ?失礼だろう。」
「本当のことですわ。こんな霊の溜まり場に皇帝夫妻を住まわせるなんて。」
二人は口論になる。
「これは僕の夢のためでもあるんでね。君達は僕の馬車を使っていいから帰りなさい。僕はもう暫くここにいる。」
芳子が屋敷の奥へと向かおうとした時
「わたくしも付き合うわ。」
「結構だ。1人で十分だ。」
「1人にしたら何が起こるか分からないわ。大体貴女こんな場所で取り殺されないのが不思議だわ。」
二人が口論していた時
「きゃあ」
1階から悲鳴が聞こえた。