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綾の存在

「何だって?!千鶴ちゃんが?」

翌日軍の指令室。芳子は敏麗と鈴花を連れて訪れる。敏麗の傍らには綾もいた。敏麗は昨日の一部始終を話す。

「でも安心して下さい。暗殺は女学校の入学式です。少なくとも今年中は生きています。」

「それも昨日千鶴ちゃんが吉岡中将と話していたのか?」

「いえ、鏡の予言ですわ。」

「鈴花」

田中が鈴花に声かける。

「何でしょうか?」

「喉が渇いた、お茶頼めるか?」

「僕も。」

「わたくしも。」

芳子と敏麗も田中に便乗する。

「かしこまりました。」

鈴花が出ていこうとすると綾も着いていこうとする。

敏麗が綾を呼び止めようとした時

「敏麗」

田中が敏麗を呼び止める。

「その鏡には千鶴子ちゃんが芳子を殺すところが映ったのか?」

「いえ、鏡には入学式会場で何者かに撃たれる芳子様の姿が見えました。犯人の姿はありませんでしたわ。」

「だったら千鶴ちゃんと決まった訳ではないだろう?」

「わたくしも最初は千鶴子さんは疑ってはいませんでした。だけど」

敏麗が綾の話をしようとした時だ。 

「きゃあ!!」

鈴花が勢いよく扉を開けて入ってくる。

「田中中佐、何ですか?!あの動くカップとトレイは」

「動くカップとトレイ?何の話だ。」

鈴花はカップを取り出そうと給湯室の戸棚を開ける。するとカップと小皿がひとりでに棚から飛び出したのだ。次にヤカンがコンロの上に乗りコンロに火がつく。鈴花は怖くなって戻ってきたのだ。

「きゃっ!!」

鈴花は何者かに押される。

「なんだあれは?!」 

田中は鈴花を押した何かに気付く。鈴花は振り向く。

「きゃあ!!」

4人分のカップを乗せたトレイが宙に浮いて動いている。

鈴花も田中も芳子も目の前の光景にあたふたするが敏麗は至って冷静である。

立ち上がりトレイに近づく。

「綾、皆怖がらせてはいけないわ。」

敏麗には麻の着物の綾がトレイを運ぶ姿が見えていた。トレイを受けとるとテーブルの上に置く。

「芳子様も田中中佐も鈴花も怖がることはありますんわ。」

部屋の隅で怯える3人に敏麗は声かける。3人は恐る恐る席に戻る。

「敏麗ちゃん、今綾って言ったよな?」

芳子は綾に心当たりがあるようだ。

「芳子、知ってるのか?」

「はい、田中さん。綾ちゃんは確か千鶴ちゃんが日本にいた時の奉公先の娘です。彼女は幼くして亡くなっていて、お墓は僕と千鶴ちゃんで上海の霊園に作りました。」

「その綾って娘が教えてくれたのか?」 

鏡で未来を予言した後、敏麗の前に綾が現れた。

「ええ、千鶴子姉ちゃんを止めてと。」

「千鶴子姉ちゃんは本当は優しいの。」

「分かったわ。綾ちゃん。だけど。」

敏麗は綾を止める。綾の話は敏麗以外には聞こえていないのだ。

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