プリンス候補
「お久しぶりね。敏麗ちゃん。」
「ご無沙汰しております。先生。」
「貴女が会ってほしい人がいると言われたからてっきり恋人を連れてくるのかと思ったわ。」
花夜叉は芳子の方に目をやる。
「先生、こちらは満州でお噂の川島芳子様ですわ。」
「初めまして。」
芳子は軍帽を外し花夜叉に会釈する。
「まあ、女性だっね。それにしても整った顔立ち。今すぐにでもうちの舞台に立ってほしいわ。できれば次回作の源氏物語で。」
「先生、冗談はその辺にして下さい。」
「そうね、そろそろ紹介しなくては。いいわよ。」
花夜叉の合図で3人の着物姿の女性が入ってくる。1人ずつ部屋の前で三つ指をついて失礼致しますと挨拶して。左から順に赤い着物、青い着物、緑の着物の少女達が花夜叉の左隣に座る。
「彼女達は劇団の男役。3人共次の公演で退団する予定なの。」
男役が男装するのは舞台の上では男装はしているが舞台を降りれば女性である。
「この方々は皆主演をはる男役ですか?」
芳子が尋ねる。
「いえ、私はまだ3年目です。」
赤い着物の少女が口を開く。
彼女が退団者の中で一番の下級生である。役にはついた事はあるが、目立った役ではなかった。
他の2人も前に出る役にはついた事はないようだ。
彼女達の退団理由は自分の実力に限界を感じていたからだという。
「敏麗ちゃん、本当にいいのか?この3人で。」
芳子が小声で敏麗に尋ねる。
「ええ、構わないわ。だってわたくしがお願いしたのですもの。主演やプリンシパルではなく端役の下級生をと。」
敏麗は優秀な人材を引き抜くのではなく、夢を諦めざるを得ない人の救済として話を持ち出した。
「本日はお時間頂き感謝致しますわ。わたくしが確認したい事はただ1つ。男役に未練はありますか?」
敏麗が3人に質問する。
「あります!!」
敏麗の質問に即答で答えたのは入団3年目の赤い着物の下級生であった。
「嬉しいお返事ですわ。でしたら髪を短く切り落とし、その着物を脱いで男物の洋装をすることは可能ですか?芳子様のように。」
「勿論です。私はまだ男役を辞めたくはありません。男でいられるならそれ以上の光栄はありません。」
威勢のいい返事が帰ってくる。
「ちょっと待って下さい!!」
今度は青い着物の少女が口を開く。
「先ほどから男役がどうだとか、断髪はする気はないかだとか質問ばかりしてますが貴女方は私達をどうしたいのでしょうか?」
「これはお嬢さん」
芳子は青い着物の少女に顔を近づけると顎を片手でくいっと上げる。
「こちら側の説明不足で大変申し訳ありません。」
「ふざけてるのですか?」
「貴女だって舞台でいつもやってることですよ。男役と言えども中身は女の子ですね。」
青い着物の少女は顔を赤く染める。
「敏麗ちゃん、このお嬢さん達に説明してあげて。」
「そうですね」
芳子が席に着くと敏麗が口を開く。
「貴女方にはプリンスになって頂きます。満州に新たにできる女学校の乙女達の。」




